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何てことない出会い

ある朝、学校に行くために電車に乗っていた。
衣替えした高校生を見て、
(私も去年までそうしてたのか)
と、時の流れに浸っていた。
電車が揺れ、隣の女子高生が私に抱きついた。
「ごめんなさい・・・」
言葉とは裏腹に、私から離れない女子高生。
(?)
覗き込むと真っ青な顔色。
「気分悪いの?」
頷く女子高生。
「分かった。次で降りよう。」
私の提案に、また、頷く女子高生。
私は彼女を支え、次の停車駅で降りた。
ベンチに座らせ、
「吐き気とかは?」
と聞くと、
「少し・・・」
私は、
「トイレの場所聞いてくるから待ってて。」
と彼女に言い、ダッシュで階段を昇った。
ラッキーな事に、階段のすぐ側にトイレが有った。
キヨスクで水を1つ買い、また、ダッシュで階段を降りた。
水を渡し、
「階段昇ってすぐにトイレ有るよ。これ、念のため持ってると安心でしょ?」
キヨスクの袋を広げて渡し、彼女を抱えてトイレに向かった。
彼女のカバンを預り、トイレのドアの前で待った。
トイレから出てきた彼女に、
「よく口すすぎな。胃酸は歯に悪いから。」
と伝えると、彼女はその通りにした。
手と口を拭くため、芹菜は自分のタオルを渡し、
「具合はどう?」
と聞くと、
「さっきよりは良いです・・・・・」
彼女を支えながらトイレから出て、
「医務室無いか聞いてくるよ。」
と、彼女を壁に立て掛けて、駅員さんの所へ行き、医務室が無いか聞いた。
私と一緒に駅員さんも来てくれて、医務室へ向かう。
しばらく横にならせてもらえる事になった。
横になっている彼女の脇に座る私。
「あの・・・」
彼女が私を見て言う。
「もう・・大丈夫ですから・・・ありがとうございます・・・」
「大丈夫な顔じゃ無いよ?どうしたの?生理?」
頷く彼女。
「いつも酷いの?」
頷く彼女。
「痛みも有るの?」
頷く彼女。
「病院は?」
首を横に振る彼女。
「まぁ、確かに婦人科ってアレよね。」
頷く彼女。
「でも、毎月これじゃ大変でしょ?」
小さく頷く彼女。
「この先何十年かは付き合う訳だし、行った方が良いよ。」
悩む彼女。
「私もね、酷かったの。生理痛が。で、満を持して行ったら、筋腫が有ったの。小さかったんだけど場所が悪くて。で、オペして取ったら、まぁ~楽!自分でビックリした。」
「行くの・・・怖くなかったですか?」
「凄く怖かった。前日は眠れなかった。」
「やっぱり怖いですよね。」
「うん。貴女が躊躇する気持ちも分かる。って、貴女のお名前は?」
「ああ、鈴木明日香です。そちらは・・・?」
「ああ、ごめん。安西芹菜。」
「安西さん、今日は、ありがとうございます。助かりました。」
「気にしなくて良いよ。」
「あの・・・もしよろしかったら、お時間有るときに受診とオペのお話聞かせてもらえませんか?」
「うん、良いよ。連絡先交換しようか。」
2人は連絡先を交換。明日香は家に連絡し、迎えに来てもらう事になり、芹菜は、その姿を見届けてから学校に向かった。

数日後2人はカフェにいた。
「安西さんは、どんな症状だったんですか?」
「芹菜で良いよ。酷い激痛と、凄い出血、吐き気。起き上がれなくて、学校休んでた。」
「病院に行くきっかけは?」
「叔母がね、『いつかは開く股なんだから、もったいぶらずに開いてこい!相手は医者だから妊娠もさせられないから安心だ!』って言い出して、何か笑っちゃってさ、だって下品じゃん。でも、それもそうだなって納得しちゃってさ。」
アハハと明日香は笑い、
「叔母さま過激ですね。ピルとかは飲みました?」
「オペまでの間、半年くらいかな?飲んでたよ。」
「副作用とか有りました?」
「始めの2~3日は気持ち悪かったけど、後は無かった。」
「副作用って、そんなもんなんですか?」
「個人差は有るけど、未成年だから飲酒、喫煙しないし、大人よりも心配無いかも。」
「あの~、受診するとき、毛って・・・」
「私も迷った!で、全部剃って行った。お医者さんにも看護師さんにも笑われた。『剃らなくて良いんだよ』って。」
「安・・芹菜さんも大胆ですね。」
明日香がコロコロ笑う。
「今思えば、確かに笑えるよね。」
芹菜も一緒に笑った。
「今、何年生?」
「3年です。」
「明日香ちゃんは天女だよね?エスカレーターで天女大?外に出るの?それとも就職?」
「外に出ようと思ってます。中学から居るから、そろそろ出たいなと思ってます。」
「だったら尚更診てもらいなよ。外に出るなら、それなりに試験も有るだろうし、試験日と生理が重なったらエライコッチャだよ。」
「ですよね。・・・・・」
「お母さんとか、一緒に来てもらいなよ。」
「母は・・・」
「お姉さんとかは?」
「兄なら居るんですが、姉は居ないんです。」
「失礼な質問だったらごめんね。何でお母さんは嫌なの?」
「母は、兄が居れば良いんです。私には関心が無いんです。」
「この間迎えに来てくれた時は、そんな風には見えなかったけど、そうなんだ。まあ、お家の事は、外からじゃ分からないからね。大変だね。」
芹菜は明日香の頭をポンポンした。

「そう言えば、芹菜さんって何してる方なんですか?」
「私は、龍医大の3年。」
「医大生なんですか?スゴい!」
「自分の疾患を色々調べたり、実際にオペ受けたりした影響だね。」
「何科を目指してるんですか?」
「婦人科。明日香ちゃんみたいに若い子は躊躇しちゃう科だからこそ、もっと受診しやすい環境にしたくて。」
「芹菜さん、もしも迷惑で無かったら、一緒に病院来てくれませんか?」
「私で良いの?」
「芹菜さんに来て欲しいんです。心強いし。」
「分かった。病院調べたりも付き合うよ。急き立てたの私だし。」

明日香は、病院を調べたり、不明な点は芹菜に聞いたりして、ついに、病院の待合室まで来た。
「明日香ちゃん、昨日寝れた?」
「実はあんまり・・」
「だよね。私もそうだったよ。不安になるのは、心が生きてる証拠!」
芹菜は明日香の手を握り、
「痛かったり不安だったりしたら、遠慮しないで先生に言いなよ。」
「はい。ありがとうございます。」

ほどなくして明日香の名前が呼ばれた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
診察室に入る明日香。見送る芹菜。
4~5分で明日香が診察室から出てきた。
「ちょっとCT撮って来ます。」
「一緒に行くよ。」
2人手を繋ぎCT室へ。
15分程で終わり、再び待合室に戻る。
すぐに明日香の名前が呼ばれ、診察室に入室したが、今度は中々出てこない。
芹菜は待つしかないのだが、
(出産を待つ父親の気分だな)
と、勝手に想像していた。

明日香が出てきた。
芹菜は何故か立ち上がった。
「明日香ちゃん、どうだった?」
「・・・・・芹菜さん。私、子宮取るかも・・」
2人椅子に座り、
「どういう事?」
「子宮筋腫が見つかったんですが、8㎝もあって、しかも、子宮頸部に近いらしくて、筋腫を摘出した後、頸部が癒着するかも知れないって。」
「そうか・・・で、今後の治療はどうするって?」
「ピルを飲んで様子を見ましょうって。」
そう言って明日香は泣き出した。
芹菜は明日香の肩を抱き、髪を撫でながら、
「大丈夫、お薬試してみよう。変化が有るかも知れないし、最悪の事態を先生は話しただけだから、まだ悲観することはないよ。」
と言う事しか出来なかった。

明日香はピルを飲み始めた。
心配していた副作用も無く、快適に過ごせていた。
「こんなに楽なら、早く病院に行けば良かったです。」
「ね、案外チョロいでしょ?」
「そしたら、全摘も免れたかも知れないのに・・・」
「そこは、最悪の場合の話しだから。もしかしたら、場所もずれてるかも知れないし。プラスに考えよう。」
通学の電車の中で、明日香は芹菜の手を握った。

オペの日にちが決まり、明日香の緊張も高まった。
芹菜の家で2人、入院について話していた。
「芹菜さん、お願いが有るんですが。」
「何?どうした?」
「オペの時の身元保証人になってくれませんか?」
「え?ご両親は?」
「これ、委任状です。サインしてもらえませんか?」
「ご両親は?何て言ってるの?」
「『女じゃ無くなる娘の為に、使う時間は無い』って。父は仕事だし。」
「女じゃ無くなるって・・・」
「『金は出してやるんだから良いでしょ!』母らしい発言です。」

芹菜は、明日香を抱き締めていた。
明日香も芹菜に身を委ねていた。
「明日香ちゃん、私は傍に居るよ。明日香ちゃんに何が起きても傍に居るよ。」
「芹菜さん。」
2人は、自然に唇を重ねていた。
重ねた唇は、求め合うように激しくなり、芹菜が明日香を押し倒した。
ブラウスを脱がし、下着を外し、片手で胸を包み、片手で身体中を撫でた。
明日香から恥じらいを含んだ吐息が漏れる。
芹菜は、明日香の胸のトップを、優しく、時に激しく舌で転がした。
明日香は、芹菜の頭をぎゅっと包んだ。
芹菜がスカートを脱がそうとしたら、明日香に抵抗された。
「私、初めてだし、怖い・・・・」
「分かった、ダメって言われたらやめるから。」
「本当に?」
「本当。」
明日香は、抵抗の手を緩めた。

芹菜は明日香の下着も脱がし、明日香の1番感じる所をそっと撫でた。
明日香はビクンッとしたが、ダメとは言わなかった。むしろ、芹菜に抱きつきキスをしてきた。
「芹菜さん、そこって誰でもこうなの?」
「女性は、殆んどそうだよ。気持ちいい?」
鼻にかかった色っぽい吐息を吐きながら頷く。
「舐めても良い?」
「え、ダメ!汚い!嫌!」
「分かった、撫でるだけね。」
芹菜は、ゆっくり、時に早く明日香の1番感じる所を撫で回した。
明日香は身をよじりながら、快感に溺れていた。
「芹菜さん、私、何か、変。」
「大丈夫、私が居るよ。」
芹菜は明日香をしっかり抱き締めた。
「芹菜さん!芹菜さん!」
明日香は身体をのけ反らせ、登り詰めた。

芹菜と明日香は、抱き合っていた。
「芹菜さん、私が欠陥品になっても、こうしてくれる?」
「明日香ちゃんは欠陥品なんかじゃ無いよ。私の可愛い明日香ちゃんを悪く言わないで。」
芹菜は明日香の髪を撫でた。

入院前夜から、明日香は芹菜の家で過ごす事になった。
その方が本人の精神的な負担が少ないだろうから。これは、芹菜の母の提案だった。
明日香ちゃんがお風呂に入っているとき、母が芹菜に言った。
「しっかりサポートしてあげなさいよ。じゃなきゃあんなに可愛い子余所に行っちゃうよ。」
「お母さん?」
「惹かれ合ってるんでしょ?」
「どうして・・・・・」
「私達の時代は、結婚しない選択肢なんて存在しなかったから、お互いの手を離すしかなかった。今は時代が違う。大切に彼女との愛情を育みなさい。」
「お母さん・・・・・彼女がこれ以上傷つかないように、精一杯守るよ。」
その言葉を残し芹菜は自室へ戻ったが、初めて聞いた母の過去に動揺していた。
大切な人が、心通わせた人が居たのに、別れしか互いの幸せがなかった時代。
そんな過去を全く見せずに家庭を愛してくれている母。
何年関係が続くのか分からないけど、母が出来なかった『好きな人の手を離さない』事を私はしよう。

「明日はバタバタするから、早く寝よう。」
と、芹菜が部屋の電気を消した。
すると、明日香が何やらゴソゴソ始めた。
「どうした?電気つける?」
「いえ、そのまま私を見てください。」
明日香は全裸だった。
「明日香ちゃん?・・・・・」
「傷の無い、最後のきれいな身体を見てください。」
月明かりに浮かぶ明日香は、とても綺麗だった。
芹菜は、明日香をしっかり抱き締め、
「すごく綺麗だ。妖精みたいで、どこかへ行ってしまいそう。」
「私の居る場所は、芹菜さんの腕の中です。」
芹菜は明日香の唇に自分の唇を合わせ、それは徐々に激しく深くなった。
明日香を横にし、身体中に唇を這わせた。
明日香は、声にならない吐息を漏らす。
「今日は良いよね。」
芹菜の言葉に明日香は頷いた。
芹菜は明日香の1番感じる所にゆっくり舌を這わせた。
明日香は身体をくねらせ、か細い声を出した。
じっとりと舌を這わせていると、
「芹菜さん、私、また!」
その言葉の直後に登り詰めた。
芹菜は、明日香の中に入ってみた。
とても、熱く、潤っていた。
動いてみると、明日香が「あっ!」と声を上げる場所があった。
そこをじっくり撫でながら、明日香が1番感じる所に舌を這わせた。
明日香は何度もか細い声で鳴き、
「芹菜さん!」
の言葉を最後に、ビクンッビクンッとして動かなくなった。
芹菜は死んじゃったのかと驚いて彼女の脈を計ったが、気絶しているだけだった。
芹菜は明日香を抱き、布団を掛け、そのまま眠った。

明日香は翌日に入院し、オペの準備に入った。
「芹菜さん。私やっぱり怖いです。」
「オペが怖くない人なんていないよ。患者も医師も。私も怖い。怖いのは明日香ちゃんだけじゃない。大丈夫、全て上手くいくよ。」
「ではここで、ご家族様とはいったんお別れです。」
「よろしくお願いします。」
芹菜は頭を下げた。
「行ってきます。」
明日香がオペ室へ入っていった。
(明日香ちゃん、待ってるからね)
芹菜は家族待機室に入った。

これまで感じた経験の無い時の流れだった。
たった10分が、2時間にも3時間にも感じた。
3時間程で明日香のオペが終わった。
摘出された物を見ると、筋腫だけで子宮が無い。
「筋腫の根元が、我々が思っていたより上だったので、全摘は免れました。全体も見ましたが、卵巣、卵管、問題無しですね。」
「ありがとうございます。」
深く頭を下げる芹菜。

明日香の入院中、毎日芹菜は通った。
子宮が温存出来た事に、明日香は本当に安堵していた。
高校生で子宮が無くなるなんて、自分でも耐えきれないほど辛い事だろう。
1週間程で明日香は退院し、芹菜の家で静養することになった。

そんなある日、芹菜の母が明日香の母を家に連れてきた。
芹菜の知らない内に、芹菜の母が明日香の家に行ったらしい。
芹菜も明日香も身構えた。
明日香の母の言葉は、
「明日香、これまで辛く当たってごめん。お嫁に行って私を忘れていくなら、記憶に残りたく無かったの。2度も消えたくなかったの。本当にごめんなさい。」
「お母さん、どういう意味?」
明日香の問いに、芹菜の母が答えた。
「私と明日香ちゃんのお母さんは、昔、心通わせていたの。でも、時代が許さなかった。女は結婚して子供を持つもの、そんな時代だったの。芹菜が明日香ちゃんを連れてきた時、凄く驚いたの。泣く泣く手を離した大切な人に瓜二つだったから。」
「え、どういう事?」
「明日香ちゃんのお母さんの名前は『芹』。私の名前は『今日子』。何か感じない?」
芹菜と明日香は顔を見合わせた。
「大切な人の名前からつけたのよ、2人共。」
2人の母は、顔を見合わせて笑った。

何て事無い出会いが、本当は運命の出会いだったお話。


                         おわり






































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