見出し画像

ぶらり途中下車の旅ーショートショートー

散々飲んで終電ギリギリでホームに駆け込んだ。間に合わないかと思ったが何とか乗り込むと同時にドアが閉まる。
始発の渋谷から自宅のある終点の押上まで、約30分。寝ながら帰りたい気分だったが混雑した車内に空いている席はない。
座ることは諦めて、吊り革に捕まりながら上を見上げて違和感を覚える。
妙にこの電車、暗い。ライトも薄暗いし、何よりモニターが一切点いていない。故障か?しかも一斉に?節電施策だろうか。
そう思っているうちに電車が停車した。
「オモテサンドウ、オモテサンドウ」
無機質なアナウンスが聞こえ、ドアが開く。この駅では誰も降りず、誰かが乗る様子もない。
おかしい。
普段なら二十秒程度で閉まるドアが1分、2分たっても閉まらない。誰もそれを不思議がる様子もないので恐怖を感じ、恐る恐る電車を降りる。足にやわらかな感触。酔っ払って足の感覚がいつもと違うというわけではない。ホームが柔らかいのだ。手を付くと温かく、ぬめった感触がある。一体どうなっているのだ、と思いながら階段を駆け降り、光のない改札を通り、出口を探す。
道が段々と狭くなっていく、息も苦しくなる。
苦しいが、引き返すこともできずただ前へ進む。
とうとう弾力のある壁をかき分けながら進むようになる。
一歩、二歩、呼吸ができない。
暗い、苦しい、暑い。
空気を求めて顔を前に突き出す。
「ギャー!!!」
途端、目を激しい光が貫いた。眩しい、眩し過ぎて叫んでしまう。涙が出る。

この瞬間、私は産まれたのだ。

「表産道、表産道」

令和四年度の年間行方不明者は84,910人。
あなたも異界駅に迷い込む日がくるかもしれません。

血禍鉄半臓悶線 駅一覧

渋夜
表産道
青邪馬一丁目
名型町
半臓悶
苦男舌
人貌蝶
多手魔地
密腰前
酔転宮
鬼世珠魅死羅華我
住止
禁止町
御仕上

この記事が参加している募集

#旅の準備

6,236件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?