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【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その2)

この記事は《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その1)》の続編として書かれています。

定刻、列車は音もなくパリ・リヨン駅を離れた。構内放送はない。

雲は低くパリを覆い、重い雰囲気である。しばらくすると雨が降りだした。雨粒が窓ガラスを流れ落ちる。パリの風景は雨粒の中に凝縮され、いくつもの結晶となって流れた。

持参したトマス・クックの時刻表を調べると、列車はマルセーユまで行く。通常、パリからマルセーユへ向かうには、幹線のリヨン経由、つまり真っ直ぐに南下する最短経路をとる。しかし、わたしが乗車した列車は中央山塊経由でニーム(Nîmes)まで南下し、そこから西に進路をとり、そして地中海沿いにマルセーユへと向かう。日本なら、さしずめ東京から瀬戸内海沿岸の都市に行くのに新幹線を使わず、信州の山間部を経由して瀬戸内海の都市まで行くようなものである。

さて、この列車でどこまで行こうか。とりあえずの目的地はニームなのだが、パリから9時間の列車の旅となる。ニーム到着が夕刻。列車の車窓を眺めるのは嫌いではないから、それでもいいかなと思ったけれど、自宅から成田までの移動時間を含めると、ニームまで30時間近い旅程となる。9時間の列車の旅は体力の限界を超えるかもしれない。

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時刻表を見ながら、以前から訪れてみたかったラ・シャリテ(La Charité)にしようか、それともアラン・レネ監督『24時間の情事』やエリック・ロメール監督『冬物語』の舞台ともなったヌヴェール(Nevers)にしようかと考えた。この2つの都市なら、パリから2時間余り。体力的にも余裕がありそうだが、もう少し南に目を下ろしてみた。クレルモン=フェラン(Clermont-Ferrand)。この都市なら3時間30分。数年前に訪れたことがあるのだが、再訪したいと考えていた都市である。

クレルモン=フェランは中央山塊オーヴェルニュ地方の中心都市。ミシュランの工場がある。ミシュランはレストランの格付けや旅行ガイドブックで知られているが、元来はタイヤ製造メーカである。車での旅行を促すためにガイドブックを作ったのである。ちなみに、ミシュランの道路地図の鉄道表記は小さく目立たない。

クレルモン=フェランは1095年、ウルバヌス二世が第一次十字軍を呼びかけた地である。また、パスカルの生誕地としても知られており、街の中心から南西20キロのところに、パスカルが気圧の実験を行ったピュイ・ド・ドームがある。日本でも発売されているミネラルウォーター、ヴォルヴィックの源泉地でもある。それよりも、わたしのようなシネフィルとしては、エリッック・ロメール監督『モード家の一夜』の舞台として記憶に残る都市である。ジャン=ルイ・トランティニアンが佇む、黒いカテドラルの夜の雪のシーンはとても美しかった。

ということで、フランスの最初の訪問地は、クレルモン=フェランと決めた。

《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その3)》に続きます。

(日曜映画批評 たまにトラベラー:衣川正和 🌱kinugawa)


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