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【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_2日目(その1)

この記事は《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その3)》の続編として書かれています。

昨夜はワインの酔いと疲れのせいか、心地よい眠りについた。
今朝は昨日と違い快晴。空気がさらりとして、心身ともに気持ちが良い1日になりそうだ。
朝食はコンチネンタルスタイルの簡素なもの。クロワッサン、バゲット、それにカフェオレ。フランスの安宿にみられる典型的な朝食である。
クロワッサンはしっとりと、バゲットは小麦特有の旨味とパリパリ感があり、ともに美味しい。長旅では、やがてはこのスタイルの朝食にうんざりしてくるのだが、旅はまだ始まったばかり。カフェオレも、大きなお椀に2杯も飲んでしまったほどである。
 
今日は終日クレルモン=フェランの街を見学する。

18世紀の年代記作者は、この街について次のように記している。
「これほどまでに通りが入り組み、奇妙に曲がりくねった街は、フランスにそうあるものではない。この街を知るには、通りを歩いて確かめるしかない。」

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私の方向感覚は人より劣っていると言わざるを得ないのだが、この街は、私でなくても、地図を持たなければ目的地までたどり着くことは不可能のように思える。まっすぐに進むのかなと思えば路地は少し左に方向を変え、そして右折してみると突き当たって左折する。そんな迷路のような構造になっている。これは計画的にこのような路地を作ったのではなく、自然発生的に複雑な構造を形成したのだろう。しかも高低差もある。丘の頂きには、ゴシック様式のノートル・ダム・ド・ラソンプション寺院が威光を放っている。

先の年代記作者は次のように続ける。
「だから建築家は、角のような部分や出っ張り、窪み、曲がり方、間断のない隘路を気が赴くまま思い描くのでなければ、この教会に、このようなカオスを形成するのは不可能なことのように思える。」
この教会とは、ノートル・ダム・ド・ラソンプション寺院のことではない。そこからさらに400メートルほど離れたあたりにある、ノートル・ダム・デュ・ポール教会のことである。
実は私が、最初の宿泊地としてのニームを断念し、この都市を選んだのは、このロマネスク教会の存在なのである。ノートル・ダム・デュ・ポール教会には、よく知られた数々のロマネスク彫刻がある。タンパンの彫刻は、とりわけ魅力的であるといわれている。5年前の訪問では、あいにく修復中のため目にすることができなかった。わたしは、地図をたよりに教会に向かうことにした。

ノートル・ダム・デュ・ポール教会の起源は、6世紀、クレンの司教、聖ダヴィの命によるものである。864年、ノルマンの侵攻により破壊されたが、11世紀、アヴェルニの司教、聖シゴンにより再建され、これが現存する教会といえばいいのだろうか。
11世紀の写本には、「ガリア人、アヴェルヌ族の住む、かねてよりル・ポールとよばれし街に、聖ダヴィは神の母、聖母マリアを祝して優美な教会を建立す」とある。ノートル・ダム・デュ・ポールという名の由来も、この写本に起因するのだろうか。
ル・ポールという地名だが、リマーニュ平原と山に囲まれたクレルモンは、商業交易の地として知られて、ラテン語の倉庫を意味するPortus、つまり、Port(ポール)をこの土地の名としたのである。

私は西側ファサードから堂内に入ることにした。
ポーチ内の階段を降りると拝廊である。ここに佇むと、この教会が黒い花崗砂岩を石材としていることによるのか、一瞬、闇に紛れ込んでしまったかのような錯覚にとらわれる。静謐である。内部に入ると、人の声もなくただ立ち尽くすのみである。

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正面の内陣上部の開口部から、一条の光が差し込んでいた。あたかも霧に包まれていた深い森が、黎明の光を受けているかのようである。いやが上にも身廊から内陣へと引きつける、精神の求心性を意識せざるをえない構造を体現するのである。身廊の上部を見上げると、穹㝫は完全な半円形ボールトを形成している。それを支える10本の対になった円柱の配置は、やはり内陣へと接続する、遠近法的な眼差しを要請する。円柱彫刻は、植物文様か人物を配した古典的主題で装飾され、そこには自由な想像力の展開はないが、キリスト教的世界の簡潔な配置が見られる。私はそれら柱頭彫刻を眺めながら身廊を進んだ。

「年代記作者」の記述は、現地で購入した『Zodiac』叢書の『Basilique Notre-Dame-du- Port de Clermont-Ferrand』からの引用です。拙訳です。

《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_2日目(完結編)》に続きます。

(日曜映画批評 たまにトラベラー:衣川正和🌱kinugawa)



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