【アルバム感想】切なさが痛い Lo Borges - A Via Lactea
こんにちは。
今回は録音芸術の中でも最高峰の切なさを誇る本作を紹介したいと思います……が、なんとこのアルバム、残念なことにサブスクにないのです。なので、気になる方は買ってみてくださいね。絶対に後悔はしません。
(一応サブスクにあるベスト盤から何曲か抜き出して紹介します)
私がLô Borgesと出会ったのは10年ほど前。Milton Nascimentoの『Clube da Esquina』を聴いたときでした。当時はMilton Nascimento単独のアルバムだと思っていたので出会いといえるのか微妙なところですが……そして、(いまの感覚からすると)恐るべきことに、あの頃は『Clube da Esquina』の魅力がまったくわからなかったのです! なので、ミナス音楽及びLô Borgesにしっかりハマったのはほんとうに最近のことです。
ところで、音楽を聴くといろいろな気持ちになりますよね。泣きたくなったり、嬉しくなったり、元気が出たり……あと、いろいろな景色が見えたりしますよね。記憶と結びついている風景だったり、あるいは、まったく見たことのない不思議なものが見えたり……似たような雰囲気(というか似たようなメロディやコード進行やリズム)の曲でも、それぞれ感情の動かされ方や見え方が異なってくるのが音楽の楽しいところだと思っています。
私はLô Borgesの『A Via-Láctea』の収録曲を聴くと月並みではありますが、天国にいるような幸せな気持ちになります。見えるのは桃源郷のような景色です。丘の上に立って、遠くの霞んだ山々と、その手前にはこの世のものとは思えない美しい果実をつけた木々……自分でも不思議なんですが、ほんとうに見えるんです。みなさんも本作を聴くと何か見えてくると思います。
(こういう個人的な感覚を大切にするのが芸術鑑賞においては大切だと感じています)
(話は逸れますが、昔、読書感想文に点数をつけられるのが苦手でした。だって、自分自身が心の底から感じた喜びや悲しみが採点されてしまうなんて、とても辛いことじゃないですか。実際には表現の巧拙に点数をつけていたのだと思いますが)
本作の魅力は、メロディの強さと歌声の美しさにあると思います。一曲目の「Sempre-Viva」からもう歌がとにかく良くて、くらくらします。深い愛の中にいるような幸せな気持ちになります。
さて、強いメロディとはなんぞや、という話なんですが、私はこう思っています。
・一緒に口ずさみたくなる
・何度聴いてもドキドキする(重要!)
・次はこの音が来る、という予想を裏切ってくる
正直、上記三点の感じ方は人によってぜんぜん違うので答えになっていない感じはしますが……
でも! Lô Borgesのメロディにはビートルズに匹敵する普遍性があると信じています。
また、本作に収録されている楽曲のメロディが面白く感じるのは、ポルトガル語の歌詞が乗っているからだと思います。言語によって馴染むメロディってそれぞれ異なっていると感じていて、日本語には日本語の、英語には英語の『似合う』メロディが存在するように思います。日本語によるメロディに馴染みが深い我々からすると、ポルトガル語による歌のメロディというのは興味深い動きをするもののように聴こえます。試しにこの曲に日本語の歌詞を当てはめようとしても、なんかしっくりこないんですよね。
「Vento De Maio」
これもまたすばらしくいいメロディです。
Lô Borgesはファルセットの使い方が上手いなあと感じます。単に高い音を出すためではなく、メロディを際立たせるためのファルセット。
「Assim meu sapato coberto de barro」のところのメロディ(歌詞を変えて繰り返されるやつです)が個人的には中世ヨーロッパの騎士の甲冑を思わせる神秘さで好きです。
左右で鳴っているギターが凝っていて、耳を澄ませると不思議な気持ちになってきますね。
「Clube Da Esquina Nº 2」
これはとんでもない名曲ですよ。この世に存在する曲の中でもトップクラスに美しいです。イントロからは夕焼けを反射する湖の儚いきらめきのようなものを感じます。淡く光る感じ。甘美、という言葉がよく似合います。みずみずしい桃を頬張ったときのようにじんわりと広がる喜び。死後の世界で流れていそうだなと思います。それくらいミステリアスであり、やわらかくあたたかいです。
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