【彼の煙草】

 目が覚めると部屋にわたし一人だった。彼は、あの人はもう居ない。
 思い出と寂しさを置き去りにしてわたしの元を去った。
「あっ──これって」
 煙草だ。テーブルの上に見慣れた煙草が置いてある。彼の忘れ物。
 煙草を吸っている彼の姿が好きだった。
 わたしは慣れない手つきでその煙草を咥え、火を付けた。
「げほっ……まずっ」
 初めての煙草。どこか懐かしい味がした。