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カーツ惑星調査団 ♯11『宇宙探偵 in 小惑星ヌシ』

<登場人物>
タノク・M・イリウス/影タノク(20)団員/影の巨人
ナサマチ・F・ダラ(17)同
テシ・Y・ケルナー(8)同
ナサマチ・F・ルギエバ(46)同団長、ダラの父
ラヤドケ・S・リオト(33)同副団長
 
矢浦(26)宇宙探偵
田尾(22)矢浦の世話係、女性型アンドロイド
 
寄生獣・コレザ
 
 
 
<本編>
○矢浦号・シャワールーム
   シャワーを浴びている矢浦。最初は顔がわからないが、胸元の痣から徐々に顔が映っていく。
   シャワーの湯を止め、鏡を見る矢浦。胸の痣に軽く触れる。
 
○同・洗面所
   シャワールームに隣接した洗面所。バスローブを身にまとう矢浦。
   美容室のような椅子に座り新聞を読む矢浦。その後ろでドライヤーを手に矢浦の髪型を整える田尾。
   新聞を閉じ、立ち上がる矢浦。
 
○同・矢浦の部屋
   ゲストルームと同じ構造。
   バスローブ姿で服を選ぶ矢浦。クローゼットの中にそれぞれ大量にあるスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、ハットの中から、一着ずつ選んで行く。
    ×     ×     ×
   ワイシャツに腕を通し、ネクタイを締め、スーツを着て、最後にハットを被る矢浦。
 
○同・撮影スタジオ
   カメラを構える田尾の前で、三ポーズほど写真を撮る矢浦。フィルムを確認し、頷く。
 
○同・生活スペース
   入ってくる矢浦。テーブルの上には既に食事が並んでいる。
   田尾が椅子を引き、そこに座る矢浦。
    ×     ×     ×
   ナイフとフォークを使い食事する矢浦。
   グラスにワインを注ぐ田尾。
   まず香りを楽しんでからワインを飲む矢浦。
田尾「お口に合いましたか」
矢浦「とてもよく合う、この料理に」
    ×     ×     ×
   テーブルの上にタイプライターを置き、書類を作成している矢浦。
   その周囲で矢浦の体温や血圧の測定、採血する田尾(と、それでも平然と作業を続ける矢浦)。
    ×     ×     ×
   タイプライターで作成した書類を確認し、封筒に入れる矢浦。そのタイミングで二種類の書類を矢浦に手渡す田尾。
田尾「コチラが本日の検査結果、そしてコチラが頼まれていた資料です」
矢浦「仕事が早いね、田尾は。(後者の資料に目を落とし)では、この小惑星としよう、次の着陸地点」
田尾「承知致しました」
   部屋を出て行く矢浦。
 
○同・矢浦の部屋
   レコードに針を落とす矢浦。
   流れる音楽に耳を傾けながら、ワインを口に運ぶ矢浦。
   窓辺に映る宇宙空間。
 
○同・生活スペース
   掃除や電球の交換等の雑事を行い、最後に、出来上がった先ほどの写真を、前日までの服装の矢浦の写真と入れ替える。
    ×     ×     ×
   コクピット前に座る田尾。
田尾「目的地、確認しました」
 
○小惑星ヌシ・外観
   向かって行く矢浦号。
   T「小惑星ヌシ」
 
○メインタイトル『カーツ惑星調査団』
   T「♯11 宇宙探偵in小惑星ヌシ」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   ずっと岩場が続いている。
   停泊している矢浦号。
 
○矢浦号・撮影スタジオ
   服装が替わり、写真撮影をしている矢浦。撮影者は田尾。
   何か物音に気付く二人。
田尾「矢浦様……」
矢浦「気付いているよ、田尾」
   最後の一枚を撮り、フィルムを確認する矢浦。
矢浦「田尾もどうかな、記念に一枚」
田尾「私はアンドロイドですので」
矢浦「写真を撮る事に関係はないだろう、人もアンドロイドも」
田尾「……わかりました」
    ×     ×     ×
   田尾を撮影する矢浦。
   三ポーズ撮るも、表情は全て一緒の田尾。
    ×     ×     ×
   フィルムを確認する矢浦と田尾。
矢浦「二枚目が良いと思う、小生は」
田尾「承知致しました。早速現像を……」
矢浦「その前にお願いしたい、あと一枚」
 
○同・生活スペース
   食事を終え、席を立つ矢浦。そこにやってくる田尾。
田尾「行かれるのですか?」
矢浦「色々とかけたな、世話を」
田尾「とんでもございません」
矢浦「田尾が側に居てくれて助かったよ、小生は。この状況、一言で現すなら、感謝」
   優しく田尾の後頭部に手を添える矢浦。田尾の背後から見ると、口づけしているように見える。
田尾「矢浦様……」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   矢浦号から降りてくる矢浦。
   そこに着陸してくるツエーツ号。
   降りてくるタノク・M・イリウス(20)、ナサマチ・F・ダラ(17)、テシ・Y・ケルナー(8)、ナサマチ・F・ルギエバ(46)。
タノク「あれ、矢浦じゃねぇか。奇遇だな」
矢浦「奇遇というよりはこう呼ぶべきだろう、運命と」
テシ「偶然じゃなくて、必然だね」
ダラ「どこで覚えんねん、そんな言葉」
タノク「しっかし、お前こんな星に何の用があんだ?」
矢浦「決まっているだろう、惑星調査に」
ダラ「ここ、小惑星やけどな」
矢浦「では小生からも聞こう、其方達の目的」
タノク「燃料補給に決まってんだろ」
ナサマチ「反応があったんや、怪獣一体分の」
矢浦「疑わしいものだな、その情報」
ダラ「確かに、影も形も見当たらん」
テシ「怪獣さんのご飯になりそうなもの、何もないもんね」
ナサマチ「(無線で)ナサマチからツエーツ号へ。まだエネルギーの反応はありまっか?」
ラヤドケの声「(無線で)はい。比較的近くに」
ナサマチ「だそうや」
ダラ「ほな、片っ端から調べるしかあらへんな」
タノク「じゃあ、頑張ってな」
ラヤドケの声「(無線で)タノクさんも行ってください」
タノク「何で聞こえてんの?」
ナサマチ「ほなとりあえず、それっぽい石から探していくか」
テシ「矢浦さんも一緒に行く?」
矢浦「させてもらおう、遠慮を」
ナサマチ「ほら、時間ないんや。早よ行くで」
   それぞれ逆方向に歩き出すタノク、ダラ、テシ、ナサマチと矢浦。
   四人の中で最後尾を歩くダラ。後方でかすかに足音を聞く。
ダラ「?」
 
○同・岩場B
   ツエーツ号や矢浦号からはかなり離れた地点。
   一人で歩く矢浦。そのあとをつける何者かの視点。そして、発砲。その銃撃を華麗に回避する矢浦。
矢浦「この状況、一言で現すなら、笑止」
   振り返る矢浦。そこには銃を構えたラヤドケ・S・リオト(33)の姿。
矢浦「気づかれずに出来ると思ったのかな? 探偵相手に、尾行を」
ラヤドケ「構いませんよ。目的は、尾行する事ではありませんから」
   再び矢浦へ数発発砲するラヤドケ。それをやはり華麗にかわしながら徐々にラヤドケに接近する矢浦。
ラヤドケ「ちっ」
   ラヤドケの銃、杖を蹴りで弾き、ラヤドケ本人の体も蹴り飛ばす矢浦。
矢浦「勝てると思ったのかな? 手負いの獅子が、一人で、小生に」
   無言で矢浦を睨むラヤドケ。
   ラヤドケの落とした銃を拾い、指で回す等して弄ぶ矢浦。まるで何かを待っている様子。
ラヤドケ「ここまでされて、何故貴方は私を殺そうとしないのですか?」
矢浦「小生に無いからだ、殺す理由」
ラヤドケ「甘いですね」
矢浦「だが……」
   ラヤドケに銃を向ける矢浦。
矢浦「小生には無いのだ、殺さない理由も」
ラヤドケ「!?」
   ラヤドケに向け発砲する矢浦。
ダラの声「危ない!」
   そこに飛び込み、ラヤドケの体を抱え、間一髪で銃撃をかわすダラ。
ダラ「リオトさんに何すんねん」
ラヤドケ「ダラさん」
矢浦「ふっ」
   逃げるように立ち去る矢浦。
ダラ「待ちぃや。(ラヤドケに杖を渡し)ウチが追います。リオトさんはツエーツ号に戻っといてください」
   銃を手に駆け出すダラ。
    ×     ×     ×
   少し離れた場所。
   駆けつけるダラ。前方には矢浦の姿。
ダラ「見つけたで。一体どういう……」
   ダラの方へ(ラヤドケの)銃を放る矢浦。
ダラ「……どういうつもりや?」
矢浦「無い事を示したつもりだ、戦う意思」
ダラ「そうやない。さっきリオトさん撃った時、何でウチが来るまで待っとったんや?」
矢浦「早くて助かるよ、話が」
   不敵に笑う矢浦。
 
○同・岩場A
   タノクやナサマチが見つけてきた周辺の石を、片っ端から粒子状の光にし、電池のようなものに閉じ込めるテシ。電球は無反応。
タノク「全然ダメだな」
テシ「ねぇ、もう疲れた~」
ナサマチ「しゃあない、一旦休もか」
タノク「賛成」
テシ「ねぇ、ダラちゃんはどこ行っちゃったの?」
タノク「どっかでサボってんだろ?」
ナサマチ「ダラをイリウスと一緒にすなや。(無線で)ナサマチからダラ、聞こえるか? ……応答せぇへんな」
矢浦の声「この状況、一言で現すなら、無駄」
   そこにやってくる矢浦。
タノク「また来たのか」
ナサマチ「『無駄』て、どういう事や?」
矢浦「彼女は今、応答できない状況だ、無線に」
タノク「何?」
ナサマチ「矢浦はん、ダラに何したんや!?」
矢浦「再び招待した、小生の船に」
 
○矢浦号・廊下
   忍び込むダラ。気配を消しながら進んでいる。
矢浦の声「一体何だと思う? 其方たちが小生を殺したい理由」
 
○(回想)小惑星ヌシ・岩場B
   対峙するダラと矢浦。
矢浦「小生が握っているからだ、其方達の悪事の証拠」
ダラ「まぁ、そうやな」
矢浦「逆にその証拠さえ取りかえせれば、無くなるハズだ、その理由」
ダラ「何が言いたいんや?」
矢浦「盗み出してみないか? 証拠を」
ダラ「は?」
矢浦「今、鍵をかけていない、小生の船。入ろうと思えば入れる、其方も」
ダラ「……」
   無線のスイッチに手を伸ばすダラ。
矢浦「止めた方がいいぞ、無線は」
   手を止めるダラ。
矢浦「船の中で田尾が傍受している、其方達の無線。連絡を入れれば筒抜けになる、情報」
ダラ「ウチ一人で忍び込め、て? アンタ、今度は何を交換条件にしようとしとるん?」
矢浦「答えは一緒だ、以前と。先に交換条件を言わなければならないのであれば決裂だ、交渉は」
ダラ「突っぱねるかもしれへんで?」
矢浦「先に言うものではないな、そういう事。だが……」
 
○矢浦号・廊下
   忍び込むダラ。気配を消しながら進んでいる。
矢浦の声「だからこそ、其方を指名しているのだよ、小生は」
ナサマチ「(無線で)ナサマチからダラ、聞こえるか?」
ダラ「あ~、もう。うっさいわ、オトン」
 
○同・生活スペース
   ゆっくりとドアを開け、忍び込むダラ。周囲を見回す。
   立っている田尾を見つけ、慌てて伏せる。
ダラ「やばっ」
   物陰から再び田尾を覗き見る。
ダラ「ん……?」
   微動だにせず、立ったままの田尾。
   首を傾げるダラ。立ち上がる。
ダラ「お~い。お~い」
   田尾の前で手を振るダラ。無反応の田尾。
ダラ「動いてへん……。故障? 電池切れ? 何やろな……?」
   テーブルの上の封筒を見つけるダラ。そこには「to ナサマチ・F・ダラ」と書かれている。
ダラ「ウチ宛?」
   封筒を開け、中の書類(遺言書)を取り出すダラ。
矢浦の声「今頃、読んでいる頃だろう、小生からのラブレターを」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   対峙するタノク、テシ、ナサマチと矢浦。
矢浦「小生の船で、彼女は」
ナサマチ「話にならんわ。娘は返してもらうで。イリウス、ケルナー、ココは任せるわ」
   走り出そうするナサマチ。その進路に向けて(自身の)銃を発砲する矢浦。思わず立ち止まるナサマチ。
矢浦「行かせないよ、ここから先」
タノク「隙あり」
   矢浦に殴りかかるタノク。それを華麗にかわす矢浦。
タノク「団長、今の内に」
ナサマチ「おおきにな、イリウス」
   再び駆け出すナサマチ。しかし、タノクの攻撃をかわす流れでナサマチの進路を塞ぐ矢浦。
ナサマチ「!?」
矢浦「しないでほしい、邪魔を」
タノク「お前が邪魔なんだっての」
   矢浦を羽交い絞めにしようとするタノクと、ソレを見て三度駆け出すナサマチ。しかし同じように攻撃をかわし、ナサマチの進路を塞ぐ矢浦。
ナサマチ「器用な真似を……」
矢浦「するだけ無駄だよ、その抵抗」
タノク「こうなったら、テッシーに行かせっか?」
テシ「え、僕?」
ナサマチ「いや、あかん。ケルナー一人で乗り込ませる方が危ないやろ」
タノク「確かにな」
矢浦「おとなしく待つ気になったかな、ここで。なら、面白いものを見せてあげよう、時間つぶしに」
タノク「時間つぶし?」
ナサマチ「面白いもの?」
テシ「え、何なに?」
   ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外す矢浦。
   矢浦の背中越しに見える、タノクとナサマチの驚いた表情。
矢浦の声「驚かないで聞いてほしい」
 
○矢浦号・生活スペース
   席に着き、遺言書に目を通すダラ。
矢浦の声「この手紙を一言で現すなら、遺言」
ダラ「遺言……」
矢浦の声「小生は元々別の事件の調査の為に外に出た、故郷の星の。その最中、立ち寄った惑星で寄生されたのだ……」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   対峙するタノク、テシ、ナサマチと矢浦。
   矢浦の胸元の痣を見て驚くタノク、ナサマチ。
矢浦の声「寄生獣に」
タノク「その痣は……」
テシ「この間の星の人たちとお揃いだね」
矢浦「小生なのだ、其方たちが感知した、エネルギーの正体」
ナサマチ「せやけど、今まで矢浦はんからそないエネルギーを感じた事あらへんで?」
矢浦「近いのだろう、覚醒が」
タノク「なっ……」
矢浦「今の内に用意するといい、サーゼボックスを」
   しばしの沈黙。
   ゆっくりと無線に手を伸ばすナサマチ。
ナサマチ「(無線で)ナサマチからツエーツ号」
矢浦の声「この体で、帰る訳にはいかなくなった、故郷に。流浪の身となり、その中で始まった、カーツ惑星調査団の調査」
 
○矢浦号・生活スペース
   席に着き、遺言書に目を通すダラ。
矢浦「そして出会った、其方に」
 
○(フラッシュ)ツエーツ号・共同スペース
   こっそりと矢浦に鍵を手渡すダラ。
矢浦の声「小生は買っている、其方の正義感の強さを」
 
○(フラッシュ)矢浦号・生活スペース
   食事をする矢浦とダラ。
矢浦「義理堅さを」
 
○(フラッシュ)惑星メーテキ・オフィス街
   二つ並ぶサーゼボックス。それぞれのサーゼボックスの脇に立つダラと田尾。
矢浦の声「だからこそ、値する、最後の貸しを作る相手に」
 
○矢浦号・生活スペース
   席に着き、遺言書に目を通すダラ。
矢浦の声「小生は計算した、其方達の船の燃費と惑星カーツまでの距離、必要なエネルギー量を。結果、其方達のエネルギー補給に最適な場所だとわかった、この小惑星が」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   対峙するタノク、テシ、ナサマチと矢浦。
   矢浦の体から、痣を中心に光が出現する。
矢浦の声「小生が怪獣化した際に発生するエネルギー量が」
   ゆっくりとハットを外す矢浦。
矢浦の声「だから願う
 
○矢浦号・生活スペース
   棚の上に置かれた二本の肋骨入りのケースを手にするダラ。
矢浦の声「我が故郷に届けて欲しい、小生の遺影を、遺骨を」
   ケースを手に席に着き、再び遺言書の続きに目を通すダラ。
矢浦の声「これは頼めない、其方にしか」
   遺言書と同じ封筒からUSBを取り出すダラ。
矢浦の声「もしそれでも足りないなら、受け取ってほしい、同封されたUSBを。ここには入っている、其方達の調査に関する全てのデータが。処分しても構わない、其方の判断で」
   USBを握り締めるダラ。
矢浦の声「ただ其方さえよければ、USBも届けて欲しい、故郷に居る小生の家族に」
   地響き。
   窓の外を見やるダラ。コレザが出現している。
ダラ「寄生獣……」
 
○サーゼボックス・中
   中央に立つタノク。
ナサマチの声「サイズ六〇」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   サーゼの脇に立つテシとナサマチ
ナサマチ「サーゼシステム、起動」
   出現する影タノク。
テシ「本当に、怪獣さんになっちゃったんだね」
   テシの視線の先、矢浦のハットが落ちている。
影タノク「……もしコレで負けたら、恨むぜ、矢浦」
   戦い始める影タノクとコレザ。
 
○矢浦号・生活スペース
   田尾を再起動するダラ。
田尾「再起動中です。再起動中です……」
矢浦の声「田尾は譲ろう、其方に。押せば再起動できる、首の後ろの電源ボタンを」
田尾「貴女様のお名前は?」
ダラ「ウチはダラや。覚えてへんのか?」
田尾「初めまして、ダラ様」
ダラ「初めてちゃうやろ」
田尾「私はご主人様であるダラ様に仕える忠実なアンドロイドです」
ダラ「ウチちゃう。アンタのご主人様は矢浦やろ!?」
田尾「矢浦……データにありません」
ダラ「覚えてるやろ?」
田尾「データにありません」
ダラ「思い出しぃや!」
   外での戦いのせいで揺れる船内。
ダラ「あ~、もう。(外に向け)ちょっと静かに戦いや、イリウス!」
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   戦う影タノクとコレザ。コレザの動きには矢浦の面影はなく、ただの怪獣そのもの。戦いを優勢に進める影タノク。
影タノク「何だよ、矢浦。テメェの戦い方はそうじゃねぇだろ。もっとダセェくれぇスマートに振る舞えよ。ウゼェくれぇスタイリッシュに戦えよ」
   怪獣らしく突っ込んでくるコレザ。
影タノク「おい、矢浦。聞こえてねぇのかよ」
   その様子を見ているテシとナサマチ。
ナサマチ「イリウス、もう無理や。そいつは矢浦はんちゃう。ただの怪獣や」
テシ「矢浦さん、かわいそう」
ナサマチ「決めてまえ。それが、矢浦はんの為や」
影タノク「そうは言ってもよ、決めようがねぇんだよ。武器ねぇんだから」
ナサマチ「あっ」
テシ「そうだ、ダラちゃん……」
 
○矢浦号・生活スペース
   棚の上に二本の肋骨入りのケースを戻すダラ。
ダラ「矢浦、アンタ、怪獣になる未来がわかっとったから、骨抜いとったんやな。何も残らんくなってまうもんな」
   肋骨入りケースの隣にある写真立て。入っているのは矢浦の最新の写真。
ダラ「いつ死ぬかわからへんから、毎日遺影撮っとったんやな」
   その写真立ての脇に置かれた一枚の写真を手に取るダラ。
ダラ「それに……」
   振り返るダラ。無表情で立つ田尾。
ダラ「田尾の事も初期化して、遺言書まで書いて、完璧に準備して。せやのに……」
   再び写真立ての矢浦の写真を見やるダラ。
ダラ「そこまで準備して何で……何で最期に託す相手がウチなん?」
   先ほど手に取った一枚の写真を田尾に渡すダラ。
ダラ「コレ、持っとき」
田尾「承知いたしました」
   銃にミニサーゼをセットし、窓を開け、放つダラ。
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   矢浦号から発せられる剣の影が、黒い剣となる。
   コレザと戦う影タノク。剣を手に取る。
影タノク「ナイス、ダラ」
   剣を使い、さらにコレザを追い詰めていく影タノク。
影タノク「悪ぃけど、俺もう、お前のそんな姿見たくねぇんだよ、矢浦」
    ×     ×     ×
   戦いを見守るナサマチとテシ。
影タノクの声「お前だって、死にざまくれぇ、綺麗でありてぇだろ?」
    ×     ×     ×
   戦う影タノクとコレザ。
影タノク「だから今ここで、俺の手で、終わらせてやんよ」
   剣でコレザに斬りかかる影タノク。
影タノク「シャドーストライク!」
 
○矢浦号・生活スペース
   先ほどダラから渡された写真を見つめる田尾。それは矢浦と田尾のツーショット写真。
田尾「矢……浦……」
   写真に落ちる一粒の涙らしき水滴。
田尾の声「様……」
   爆発音。
   窓の外を見やる田尾。
 
○ツエーツ号・共同スペース
   コクピット前に座り、爆発を見つめるラヤドケ。
ラヤドケ「エネルギー、回収します……」
   爆発に向け、敬礼するラヤドケ。
 
○小惑星ヌシ・岩場A
   矢浦の墓標を建てるタノク、ダラ、テシ、ナサマチ、ラヤドケ、田尾。黙祷。
ダラ「悪かったな、こんな縁もゆかりもない星で死なせてもうて」
   矢浦の帽子を置くテシ。
ダラ「矢浦の船、どうします?」
ラヤドケ「惑星カーツに持ち帰りましょう。詳しく調べる必要があります。田尾さんも含めて」
テシ「何を?」
ナサマチ「知らんでええ事や」
ラヤドケ「さぁ、行きましょう」
   ツエーツ号に向かうタノク、テシ、ナサマチ、ラヤドケと矢浦号に向かうダラ、田尾。
   途中で一度振り返るタノク。
タノク「じゃあな、矢浦」
   墓の前に立っている矢浦の霊。
矢浦「少し早いだけだ、小生は。そう遠くない内にまた会えると踏んでいるよ、其方と」
タノク「奇遇だな、俺もだ」
矢浦「奇遇というより、運命」
   互いに笑い合うと、消えて行く矢浦の霊。
タノク「俺の、運命……」
   再びツエーツ号に向け歩き出すタノク。
    ×     ×     ×
   発進するツエーツ号と矢浦号。
ナサマチの声「さぁ、次の目的地は、いよいよ惑星カーツや。皆、ええか」
一同の声「了解」
              (♯12へ続く)


♯1『影の巨人 in 惑星テンボシ』

♯2『遺跡と神 in 惑星ソムン』

♯3『怪獣狩り in 惑星ラロキ』

♯4『心霊現象 in 惑星ハワ』

♯5『第2の影 in 惑星サヤスワ』

♯6『目覚めた男 in 惑星チョクガ(前編)』

♯7『目覚めた男 in 惑星チョクガ(後編)』

♯8『宇宙戦争 in 惑星ヨヨラヤ』

♯9『クグノワ事件 in 惑星ペユワー』

♯10『燃料人間 in 惑星メーテキ』

♯12『影の巨獣 in 惑星カーツ』

♯13『調査団 in 惑星カーツ』


#創作大賞2022

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