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新婚旅行記 最終日

朝から強い雨が降っていた。日の出から間もないので、外はまだ薄暗い。昨日一日が良い天気だったのは幸運だった。
レストランで朝食を食べる人は昨日よりもかなり少ない。店員さんもゆとりがあるようだった。そのためか、普通はコーヒーか紅茶しか選べないのだが、今日は特別にエスプレッソも出すと言ってくれた。私はラテを、妻はカプチーノを頼んだ。
ゆっくりとした朝の時間が流れてゆく。窓の外を覗くと、何件か窓に明かりが見えた。ヘルシンキはなかなか雨の似合う街である。

雨が似合う街が良いというより、雨が似合わない街の方が問題なのかもしれない。

雨が降って美しいと思える街は、ビルの建ち並ぶ都会の風景ではなく、昔からその土地に根ざした建物が並ぶ風景だろう。あるいは統一感のある街並だろうか。
それは日本でも同じで、京都や金沢の古い街並みは雨が似合うように思う。絵になるという表現でも良い。
そういう理屈が通るのかわからないが、ヘルシンキは雨でも観光するに不満は感じない。

チェックアウトを済ませて、ホテルに荷物を預けた。フィンランド旅行もいよいよ最終日である。最終日にしてもっとも有名な観光スポット、ヘルシンキ大聖堂にまず向かう。大聖堂前の元老院広場は人もまばらである。

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石段を昇るとその時点でもう結構な高さで、街並みを一望できるくらいだった。初日に行ったレストランも見えた。

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大聖堂は大きい。なぜこんなに大きいのかと思うほど大きい。こんなに大きなものを造る必要があったのか、なぜ人間は昔から巨大建造物を造りたがるのか、そんなことを考えた。

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そのあと雑貨屋を何件か冷やかし、お土産屋さんに向かった。
そこは日本人の方がやっているお店で、その場で免税分の値引きをしてくれるというから最高である。
時間はたっぷりあったので、長居させてもらい、だらだらとお土産を物色した。ムーミングッズはお決まりであるし、コーヒーも買った。他にも木でつくる流行りのオブジェやら、北欧テキスタイルのランチョンマット、ファッツェルの乾燥イチゴにチョコレートがコーティングされたお菓子を買った。
ばら撒き用のチョコレートはスーパーマーケットで購入した。お土産も買ったし、後は帰るだけである。


その前にシナモンロールを食べなければというミーハー根性により、マーケット市場にて食べようということになった。
ロバーツコーヒーというそこそこの老舗カフェで大きなシナモンロールをひとつとコーヒーをそれぞれ注文した。

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シナモンロールを貪っていると、カウンター席に座っている小さな子供と目があった。その子は高めの椅子にちょこんと座らされており、カウンターから90度顔をこちらに回してきていた。よほどアジア人が珍しかったのであろう、じっと見つめて微笑んでくる。隣に座っている親はこの子供の行動には気づいていない様子で食事に集中していた。あんまり関わりたくなかったが、無垢な笑顔を無視するわけにはいかんと思って、我々ふたりは小さく手を振ってあげた。
それが嬉しかったのか、その子は身体を乗り出してこちらに来ようとした。しかし彼が座っているのは椅子の上である。身を乗り出せば、支えるものは何もない。親が咄嗟に手を回したが間に合わなかった。もちろん遠くにいる我々にはなにもできず、その子が落ちていくのを眺めるしかなかった。子供自身なにが起こったか理解していなかっただろう。彼の無垢な異人への好奇心は結果的に痛みを味わう結果になってしまった。
額を真っ赤に腫らした彼は大きな声で泣いていた。すぐさま父親が店から氷をもらい額に当ててあげていた。母親はすまなそうに我々に謝る。我々はもっとすまない気持ちで謝るしかなかった。
言葉こそ交わさなかったものの、その子との事件が一番の異文化交流であった。彼には好奇心を持ち続けてほしいと思う。

そんな事もあって、ちょうど良い時間になったので、ホテルへ帰った。
すでに最後のガイドさんが待っており、すぐさまタクシーを呼び、空港へ向かった。
日本の台風が影響して飛行機が昨日飛ばなかったせいか、空港は混雑と若干の混乱に見舞われていた。
自動チェックイン機と自動荷物預け機はガイドさんが手早く処理してくれた。
保安検査ではコーヒーの粉がひっかかりかけたが、通過することができた。

飛行機内では、私の席のタッチパネルが反応しなかったことを除き、無事に日本に帰ってくることができた。

日本にきて最初に食べたものはうどんであった。やはり日本の食事は美味しい。

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