見出し画像

新婚旅行記 七日目

ホテルのレストランでビュッフェ形式の朝ごはんを食べた。ロヴァニエミのホテルと同じようなラインナップがならぶ。食べ物の選択肢は日本に比べ少ないのが残念である。簡単に言うとそろそろ飽きてきた。ただ、こちらの朝食にあったクレープ生地はとてもモチモチで美味しく気に入った。また、コーヒーをたっぷり注いでくれるので、うれしい限りである。
このあたりでフィンランドのコーヒーに触れておこう。こちらのコーヒーの主流はミディアムローストのスッキリ明るい酸味があるもので、ライ麦パンや朝食の軽いクッキーにピッタリである。私はこちらのコーヒーをえらく気に入った。コーヒーが美味い国は良い国である。
日曜日だからだろうか、かなり多くの客がいて、朝からにぎわっていた。テーブルの間隔が狭くて、移動するのに一苦労であった。

この日は朝から特急に乗って、タンペレ市に行くことになっていた。ヘルシンキからは一時間くらいで行ける。昨日のうちに妻がチケットをネットで購入してくれていた。
駅に向かうまでの道は、日曜日の朝ということもあり人通りは少なかった。スリを行う人も日曜日は休業しているのだろうかと思いを馳せながらも、警戒態勢をしっかり高めて、怪しいものがないかを見極めながら歩いていた。どうも、その姿勢が妻の目には怪しく映ったようだ。まぁ、警戒していますよというのをアピールしておくのは悪いことではないだろう。

特急列車は快適で、日本の特急列車のようでもあった。ちなみにフィンランドの鉄道はVRである。ただし、座席の向きは固定されており、半分が進行方向、もう半分は反対方向である。
ネットで席を買うと、メールでQRコードが送られてくる。車掌さんはそれを機械で読み取っていくというだけで、チケットの確認は終わる。改札もないので、合理的といえば合理的である。

列車は平たんな道を走り続ける。日本のようにトンネルに遮られず、ずっと車窓に流れる景色を眺めていられるのは嬉しいことである。
トンネルを抜けてパっと視界が開けるのも快感ではあるが、フィンランドのように連続的に景色の遷移を観察できるのもまた良いものである。
なにより、目に入る自然が美しい。季節は秋真っ只中であり、黄葉が特に目立つ。岩場も多いのが印象的だった。

画像1

北のロヴァニエミとの気候差が割合あるようだ。札幌と長野くらいの差はありそうである。
天気は雨だったが、窓を伝う雨水が停車中は縦にながれ、走行中は横に流れる様を見ているのがまた愉快であった。

タンペレ市について、ムーミン美術館に向かった。近くの公園は雨でも美しい秋の風景であった。

画像2

画像3


最初、入口が分からず右往左往してしまったが、どうやら、複合施設の一部としてムーミン美術館があるらしかった。

受付でチケットを買い、フィンランドではお決まりの荷物とコートをロッカーに預け(ここでも1€コインが役に立った。コインは戻ってくるシステムのロッカーだった)美術感に入る。

告白しておくが、私はそれほどムーミンファンというわけではない。キャラクターの姿しかしらず、スナフキン的なものに憧れる人が多くいるのだというくらいしか知らなかった。スニフとスナフキンは似たようなものだと思っていた。
ただせっかくフィンランドに来たのだからとこの美術館に来ただけである。

結論を言うと、この美術館を出たあとから、私は完全にムーミンファンになった。

なので、ムーミンファンはもちろん、あまりムーミンを知らない人もここを訪れると良いと思う。

画像4

チケットのバーコードを読み取らせ、入場する。するとまず日本人スタッフがいて、館内の説明をしてくれる。
ムーミン側としても日本人ファンを大切にしてくれていることが感じられた。おそらくフィンランドの施設の中でも、日本語表記、日本語音声で展示解説があるのはここぐらいであろう。とにかく、おかげで、全部楽しめる状態である。

画像5

基本的に、小説の話ごとの展示になっている。そもそもムーミンが小説だったことすら知らなかった。そういう人も多いからだろうか、大まかなあらすじを解説してくれてありがたかった。そして、その話の内容が大変に面白いだけでなく、深い哲学性・思想が根底に流れているから、トーベ・ヤンソンという作家の偉大さをここで知ることになった。
人生についての深い洞察があのかわいらしいキャラクターと世界観を通して語られるのだから、それは普遍的であるし、国民的キャラクターになるなと思った。日本でつくられたアニメーションも見ることができた。
これは小説を日本に帰ったら読まなければならぬと思っている私たちである。

帰りに今夜の食べ物を買って帰った。売店の中をいろいろ見てみると、日清のカップ焼きそばなんかがある。もうそろそろ日本が恋しくなっていた私達はそれを買って帰った。他にはクノールのカルボナーラパスタも買った。

画像6


正直、夜ご飯をどこかに食べに行くという冒険をする元気がもう私にはなかったのである。

そのあとは一度ホテルによったあと、デザイン博物館へ行った。ホテルから近くにあり、小さいながらも、フィンランドデザイン製品を携帯電話から家具から服まで、過去から現在のものを展示していた。
VR(電車の方ではない)を使った展示はおもしろかった。

ヘルシンキ市内にはEVのキックボードがそこここに置いてあった。たぶんアプリかなんかで登録すれば、自由に乗り降りできるシステムなのだろう。移動手段としてかなり浸透しているようだ。結構坂道が多く、道幅も広くないから、自転車よりも良いのかもしれない。

それからフィンランド式サウナの公衆浴場みたいなところに行った。2016年にできたもので、バルト海沿いに建てられている。そこは予約が必要なほど人気で、地元客だけでなく、観光客も多いらしい。
ホテルからは徒歩で20分ほどの距離なので、散歩がてら歩いて行くことにした。

画像7

途中ひん曲がった木を見つけた。パンフレットなどには載っていない、奇妙な場所である。こういう、人からおススメされない所でおもしろい発見をすると喜ばしい。

画像8

サウナに着くころにはちょうど日が沈んで暗くなり、

ここのサウナは混浴なので、水着を着て入ることになる。
靴を脱ぎ、受付するが、受付とサウナゾーンは直結しており床にはなんの仕切りもない。
ロッカー兼脱衣所はかなり狭く、日本のカプセルホテルのロッカールームと一緒くらいである。しかも、床は濡れ放題である。ロッカーから出るとそこはシャワールームになっており、最初にここで身体を綺麗にする。シャンプーやボディソープは完備されている。その後、サウナに繋がっているのではなく、休憩スペースみたいなところに出る。室内では暖炉のあるところもあり、ソファーや椅子、テーブルが置かれている。水は飲み放題だし、注文すればアルコールも飲める。

サウナには電気式サウナとスモークサウナの2種類がある。電気式サウナはぬるくて軽かった。熱源の上に石が積んであり、そこに水を柄杓でかけて水蒸気を室内に充満させる。これがいわゆるロウリュウである。こうすることで室内の暑さは一気に上がる。直接水蒸気をうけると痛さを感じるレベルである。その瞬間を超えると温度は次第に下がっていく。軽く会話をしながら入るにはこれくらいが良いだろう。しかし、本来サウナは神聖な場なので静かに入るのがマナーだ。

スモークサウナはすごかった。まず室内がとても暗い。座るスペースは階段を昇った上段にしかない。電気式サウナが徐々にたやすく温度が下がるのに対し、スモークサウナは温度が下がりにくい。そして、ロウリュウはより強烈に身体に熱を撃ち込んでくる。
ロウリュウ効果が持続するから長時間室内にいて熱を味わうことができる。そうして火照った身体を冷ますためにバルト海に突っ込むのである。私も飛び込みこそしなかったが、10月の海に浸かった。これは確かに気持ちが良い。
なんどかスモークサウナに入り、最後はシャワーで温まってから帰った。一応本場のサウナを体験したということにしておこう。
ただ日本の銭湯の方がよっぽど清潔であるし、なんといっても最後に湯船に浸かれる方が私は好きである。

帰りも歩いて帰った。海沿いを歩いて帰る。

空には月が昇っていた。なんとそれは満月であった。異国の地で見る満月はそれだけで情緒的であり、日本を離れ遠くへ来たのだと強く思い知らされた。ちょうどバルト海を真下に満月があって、ヘルシンキの夜を感じることができた。寂しさはないけど、悲しみを滲ませたような静かな夜。波の音が良く響いていた。。バルト海から吹き込む風が頬に気持ちいい。

そうして、ホテルについたら、夕食にとりかかった。サウナに入っているとやたら腹が減るもので、旅行に来てから若干食欲が減退していたが、この日に限ってはいっぱい食べたい気持ちだった。

お湯を沸かして、カップ焼きそばをつくる。三分待つのは変わらない。蓋が薄っぺらくて、湯切りの時熱かった。ソースをかけてかき混ぜる。懐かしい香りが異国の地に充満する。たまらず、掻き込む。うまい。
ふたりで分け合いながらペロリと完食してしまった。

もう明日には日本への飛行機に乗るのだ。日本へ帰ったら日本らしい食べ物を食べようと二人で決めた。

画像9


スキ、フォロー、拡散、購入、サポート、コラボ あなたができる最大の方法で、ご支援ください。