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【ネタバレあり】名優たちが織り成す狂気と暴力の連鎖『悪魔はいつもそこに』感想

こんにちは、朔磨です。
記念すベき(?)最初の記事として、つい先刻観たばかりのNetflix制作『悪魔はいつもそこに(原題:The Devil All The Time)』の感想を。

普段こういったサスペンスやスリラー映画には全く触れることはないのだが、ヒーロー好きとして今作のキャストの顔ぶれを見てしまっては惹かれざるをえないではないか!

MCUでの『スパイダーマン』シリーズにてスパイダーマンを演じるトム・ホランドを主演に、同じくMCUにてウィンター・ソルジャー役セバスチャン・スタン、現在話題の『TENET』にも出演し、2021年公開の『ザ・バットマン』にてバットマンを演じるロバート・パティンソン、『IT』でペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドとそうそうたるメンツが揃っている。

ホラーやゴアに傾いたショッキングな話ではないことを祈りながら視聴したところ、なかなかどうして引き込まれるお話だった。
一応ストーリーは端折りつつ特に惹かれた点について備忘録的に記させていただく。

お話の舞台はアメリカ南部、ウェストバージニア州コールクリークとオハイオ州ノッケンスティフ。
コールクリークの住人は宗教に深く根差した価値観や考え方を持っている。
ノッケンスティフは身内ばかりの排他的・閉鎖的な田舎町。
ストーリーは主に主人公であるアーヴィン・ラッセル(トム・ホランド)、汚職保安官のリー・ボーデッカー(セバスチャン・スタン)、強盗夫婦のカール(ジェイソン・クラーク)とサンディ(ライリー・キーオ)ヘンダーソン夫婦の三視点から群像劇的に描かれる。

序中盤で物語を大きく動かすのはいずれもふたりの牧師だ。
ひとりはロイ・ラファーティ(ハリー・メリング)、
もうひとりはプレストン・ティーガーディン(ロバート・パティンソン)。
序盤、ロイは説教中に放った蜘蛛のせいで身体を悪くし、それを神の試練だと解釈。
心の中の神に導かれるまま妻・ヘレンを殺し、すぐさま蘇生を神に願うものの叶うはずもなく失意のままコールクリークに向かう。
その道中でヘンダーソン夫妻に目をつけられ、最期は娘の名をカールに告げ犠牲者となる。
宗教への狂信と家族への愛が曖昧に溶け合い、傍から見ればただただ狂気的にして猟奇的。
結果娘のレノーラは両親を失い、コールクリークで義理の祖母と育ち、同じく両親を失い引き取られたアーヴィンと後に兄妹になる。

そして中盤、プレストンは新米牧師として町の教会にやって来るがアーヴィンたち一家を説教のネタにすることで人々に取り入る。
プレストンは表向き敬虔な牧師であり、その信心にも偽りこそないが実態は言葉巧みに女性を食い物にする悪漢だった。
レノーラを妊娠させるも取り合うことなく責め死に追いやり、ゆっくりと積み上げられた物語はその出来事を克己に揺れ始める。

このふたりの演技は特にストーリーについてまわる狂気や悪意を加速させ、引き込まれていく。
中でもロバート・パティンソン演じるプレストン牧師。
そのペテン師ぶり、ねっとりと絡みつき逆に色気すら感じる変態ぶり、最期の立ち振る舞いなど、出番こそ短いが深く脳髄まで刻み込まれる「クソ野郎ぶり」を見事なまでに演じきっていた。

お話はここからそれぞれの人物が切迫していき、暴力の連鎖と共にまたノッケンスティフに帰結する。

最終的にはアーヴィンだけが生き残り、ヒッチハイクをした車に揺られながらまどろんでいくのだが、このラストもまたなかなか考えさせられる。
時代はかのベトナム戦争の真っ只中。父のように兵士となっても今や教科書でも習うように良い結果には決してなるまい。
残された家族はどうなるだろうか?
それでも神の目線として彼の生い立ちを見てきた視聴者としてどうにか救われてほしい気持ちもあれば、逆に彼にそれは許されないだろうという感情も生まれ、それらがせめぎ合う。
なんとも不思議な読後感ならぬ視聴後感。
『ジョーカー』視聴後に『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』を初めて観た時にも似た感触だったが、舞台背景や常に第三者のナレーションで話が進むという要素から、より煮詰まった閉鎖的な雰囲気を醸し出し、物語の中へ引き込んでくれる映画であった。

また、スパイダーマン役で一躍有名になり、自分も御多分に漏れずそこから主演のトム・ホランドを知った身だが、これまでのイメージである「青さ」をそこはかとなく残しつつ凄惨な過去を持ち暴力に身を落としていく少年をこちらもまた素晴らしいクオリティで演じられていた。
馬乗りになって半狂乱で相手をハンマーで殴りつけるトムホを見られるのはこの作品くらいのものだろう。
また、彼の真骨頂とも言うべき(?)憔悴顔ももちろん登場。
「スパイダーマン」としてのトム・ホランドではなく、「名優」としてのトム・ホランドへ、イメージを改めさせられるに至った。

万人におすすめできる作品ではないが、キャスト目当てにやって来た自分でも多くの「何か」を感じ取り、得ることができる作品なので、是非とも多くの方に観ていただきたい。

余談で……
今作は吹替キャストもなかなかのもので、基本的にはMCU由来のキャストがそのまま使われている。
トム・ホランドには榎木淳弥氏、
セバスチャン・スタンには白石充氏。
他にはハリー・メリングを吹き替えた玉木雅士氏はDCコミックのドラマ『スーパーガール』にてタイラー・ホークリン演じるスーパーマンの担当声優である。

そしてアーヴィンの父・ウィラードを演じるビル・スカルスガルドの吹替は田村真氏。
MCUでは故チャドウィック・ボーズマン演じるブラックパンサーの担当なのだが、実は『デッドプール2』にて登場したツァイトガイストがビル・スカルスガルドを演じた時に吹き替えていたのだ。(その時はあえてMCUに当てつけたキャスティングだったような…)
「そこまで拾ってくるのか!」と言わしめるキャスティング担当に脱帽。

なんとも多方面で楽しめる作品でした。

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