濃厚な音楽性と濃密な関係性によって生まれた英米のスワンプ・ロック
今回、ご紹介するのは、スワンプ・ロック関連のアルバムです。
60年代後半、ロック・シーンの主流で活動する多くの英米ミュージシャン達が南部音楽に根ざした方向性へ向かいました。
その音楽的な起点となったのは、ボブ・ディランとザ・バンドが発表した『ザ・ベースメント・テープス』のアセテート盤や『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、あるいは、グラム・パーソンズ擁するバーズが発表した『ロデオの恋人』などに代表されるルーツ・ロックやカントリー・ロックでした。
また、同時期、彼らは、互いに交流を深めており、ビートルズやストーンズとビリー・プレストンに代表されるテキサス出身のセッションプレイヤー達とのレコーディング、あるいは、エリック・クラプトンやデイヴ・メイスンとデラニー&ボニーによるライブツアーは、その象徴と言えるでしょう。
こうしたロック・シーンの流れから成立したスワンプ・ロックは、白人音楽(フォーク/カントリー)と黒人音楽(ブルース/ソウル)のスタイルが混ざり合う濃厚な音楽性となり、そして、興味深い事に、ロックの歴史においては、英米のミュージシャンが最も濃密な関係性によって結ばれていた時代となりました。
そうした事象を鑑みれば、同ジャンルというのは、ロック・ミュージックにおける一つの音楽的な成熟の表れであり、シーンの流れとしても向かうべきところに向かった、ある種の終着駅であったのかもしれません。
『All Things Must Pass』/George Harrison(1970)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
ビートルズ第三の青年は、インドの宗教や音楽への大きな傾倒と共に、ディランやロバートソン達から受けた多大な影響から自身のキャリアにおける明確な方向性を見いだした。
アップルからフィル・スペクターのプロデュースでリリースされたこの三枚組の大作は、彼が数年に渡って積み重ねてきた思索や想いと楽曲作りやセッションが反映されたものであり、その溢れるクリエイティヴィティには感嘆と共に、少しばかりの目眩も覚えてしまう仕上がりとなった。
今作での大きな成功は、大規模なチャリティーコンサートの開催や自主レーベルの設立へ繋がり、その後のハリスンは、自身の作家性を深めつつ、音楽プロデュースや映画制作や自伝の執筆含め、70年代という時代を精力的に駆け抜けてみせた。
『Layla and Other Assorted』/Derek and the Dominos(1970)
作品評価★★★★(4stars)
ロック・シーンの主役の一人であったギタリストは、ブラインド・フェイスという巨大な宇宙船でハイド・パークを盛大に飛行し、60年代の幕引きを飾ってみせたが、ハイプによって疲弊した彼の精神は、次なる活動を匿名性のあるバンドへと向かわせた。
デレク・アンド・ザ・ドミノスが残した唯一のアルバムは、オーティスやアレサの諸作品を手掛けたトム・ダウト監修の下、マイアミで制作され、クラプトン/ウィットは、招き入れたオールマンと共に、二枚組にも及ぶブルーズ・ロックのセッションに花を開かせた。
その後、パティ・ボイドへの恋慕やライバル関係にもあったギタリスト達の死もあり、ヘロインにより蝕まれたクラプトンではあったが、幸運な事に、約4年ぶりにシーンへの復帰を果たした新作は、彼を作家/ギタリストとしてより高みに至らせた。
『The Allman Brothers Band』/The Allman Brothers Band(1969)
作品評価★★★★(4stars)
フロリダ出身のワイルドなブルーズ・ギタリストは、アラバマのマッスル・ショールズ・スタジオでの活動を経て、ジョージアを拠点にして70年代前半におけるアメリカン・ロックの代名詞であるサザン・ロックをシーンへ知らしめた。
カプリコーンからリリースされた彼らの1stは、特徴であるツインギター/ドラムによるエッジと厚みのある即興的なサウンドが鳴り響き、その熱の籠ったセッションは、リヴァイヴァル・ブームに湧いていた英国のブルーズ・シーンにも十分なインパクトを与えてみせた。
かの伝説的なライヴ盤でシーンの王者へと君臨したオールマン・ブラザーズは、核であるデュアンを悲劇的な事故によって失ってしまったが、驚くべき事に、もう一人のギタリスト/ベッツの牽引で一から組み立て直され、再び王座を奪還するに至ったのである。
『Leon Russell』/Leon Russell(1970)
作品評価★★★★(4stars)
セッションマン/アレンジャーとしてシーンにて幅広く活動していた名うてのキーボーディストは、地元オクラホマ州やテキサス州の音楽仲間と共に、西海岸/ロサンゼルスにタルサ・サウンドを流入させた結果、スワンプ・ロックは、豊かなピープルツリーから実りある収穫期を迎えた。
デニー・コーデルとの共同プロデュースで満を持してラッセルが発表した1stは、やはりグリン・ジョイスのサウンドで制作され、南部音楽に心酔する多くの英国ミュージシャンたちの参加もあり、充実した音楽性や共同性によって醸造されたアメリカーナとなった。
スワンプ・シーンの道案内人は、山高帽が印象的なミンストレル・ショーの芸人に扮してコッカー先導のマッド・ドッグス&ザ・イングリッシュ・メンやハリスン主催のバングラデシュ・コンサートで名演を繰り広げ、書き上げられたいくつかの佳曲は、カーペンターズなどを通じ、より多くの人々に親しまれた。
それでは、今日ご紹介したアルバムの中から筆者が印象的だった楽曲を!
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