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好きなアイドルは、人生の師匠だった。

小学校5年生の時から、V6の井ノ原快彦さんが好きだ。「好きな芸能人はV6のイノッチです」と20年以上言い続けてきた。

アイドルが好きだと言うと、容姿が好みであると捉えられることが多い。確かに私は井ノ原さんの容姿が好きだ。クシャッとした笑顔とか、華奢な割に広い肩幅とか。しかし、私が井ノ原さんを好きな理由の大部分は容姿ではない。

また井ノ原さんファンを公言すると、よく言われるのは「でも結婚してるじゃん」「結婚した時はショックだったでしょ」。私の答えは常に「関係ないよ」「むしろ嬉しかった」。もちろん、好きなアイドルが結婚して悲しい方々がいるのは分かるし、それを否定するつもりはない。しかし、私が井ノ原さんを好きなのは、そういう「好き」ではない。

では井ノ原さんのどこを、どう好きなのか。「イノッチのどこが好きなの?」とよく聞かれるが、一言で説明できるわけもない。だからと言って30分かけて語るわけにもいかない。それで、これまで曖昧にやりすごしてきた。しかし自分の中ではっきりしていないのも気持ち悪く感じるので、言語化してみることにした。

①人生を楽しむ天才である

小学生当時、V6がレギュラーメンバーとして出演する「学校へ行こう!」という番組が大ヒットしていた。某田舎から東京に転校してきたその時、東京の小学生はクラスの全員が見ていた。新しい学校で友達との会話についていくために、毎週見るようになった。

番組の中で初めて見た井ノ原さんは、ロン毛のカツラにダボダボのオーバーオールでギターをかきならしながら、全力でふざけていた。「なんてアホで楽しそうなんだろう」これが第一印象。あまりにも楽しそうなものだから見ているこっちまで楽しくなる。それで、なんとなく井ノ原さんを目で追うようになった。

井ノ原さんの著書に、毎日欠かさず書いた1000日分の日記を集めた「イノッチのなきにしもあらず」がある。略して「イノなき」。ちょっとした辞書のような分厚さだが、何度も何度も読みかえしながら生きてきた。中身は気まぐれで取り止めのない文章の羅列だが、とにかく楽しそうなのだ、描かれた日常が。私は高校の授業中、机の下に辞書、もとい「イノなき」を隠し、笑いをかみ殺しながら読んだ。フットワーク軽く、友達を大事にし、好きなものをトコトン極める楽しそうな日常が、高校生の自分に「理想の生き方」としてインプットされていた、と今になって気づく。

日記の中では「楽しそうに歌って踊るアイドルが、本心は楽しくないんだとしたら、それは嘘をついているのと同じ」と述べている。つまり、井ノ原さんがあるがままで楽しいわけではなく、意識的に人生を楽しんでいる、と解釈している。日常の小さなことに幸せを見出したり、嫌なことがあっても見方を変えてみたり。人生は自分次第でいくらでも楽しくできる、それを教えてくれたのが「イノなき」だ。

②わきまえない

日経エンタテインメント!の連載をまとめた著書「アイドル武者修行」は、もっと真面目に、考えていたことが書かれている。井ノ原さんが20代後半くらいに書いた文章で、いきがっていて世間にモノ申したい気概が伝わってくる。国会議員の起こした問題について自論を述べたりとか、NHK高校講座にダメ出ししてみたりとか、良い会議のために大事なことを語ったりとか、"有名税"の還付金を求めたりとか。「言いたいことは言わなきゃダメだよね」という姿勢は、この頃からずっと全然変わっていない。

「あさイチ(NHK総合)」のキャスターに抜擢された井ノ原さんは、ゲストの話を真摯に傾聴する、泣いている共演者にソッとハンカチを差し出す、など優しいマイルドなイメージでお茶の間の心を掴んだように見える。でも井ノ原さんはただ優しいだけではなかった。生放送の番組中でも、おかしいと思うことがあれば指摘を辞さなかった。視聴者からの「アナウンサーの脇汗が見苦しい」というFAXに「頑張って生きてる証拠」とマイルドなNOを示し、番組制作者の出演者への独身いじりには毅然と「良くないと思う」と言った。特に周りの人が傷つくことには敏感だ。その態度がかっこよすぎる。

最近は、テレビ番組で加齢について聞かれることが増えた。「衰えで踊るのが大変」という答えを引き出したい製作者の意図が、あらゆる質問に乗ってくる。「メンバー全員40歳超えても踊っているということですが、いかがですか?」「身体はきつくないですか?」これらと敢えて戦う、わきまえない井ノ原さんが好きだ。「いやー、逆に研ぎ澄まされるって言うか?」「意外と身体が動いちゃうんですよね!」と空気を読まずに、それでいて空気を壊さないようにニコニコしながら、戦う。

③周りの幸せが自分の幸せ

前章でも触れたが、井ノ原さんは周りの人々の気持ちに敏感だ。それだけ常にアンテナを張って、気を配っているのだと思う。映画やドラマの主演を張ることも多くなった井ノ原さんは、現場の雰囲気に常に気を配っているようだ。若手の俳優と積極的にコミニュケーションをとる、俳優だけでなく裏方さんの名前も全部覚えて声をかける、みんなのテンションが上がる差し入れを考える、、、など。その様子がテレビや共演者のSNSから漏れ伝わってくる。

インタビューでこうした気配りについて尋ねられた時、井ノ原さんは「だってみんなが楽しいほうが楽しいじゃん。楽しくない人がいたら俺も楽しくないもん。」とおっしゃっていた。結局①に繋がるのかもしれない。人生を楽しむために、周囲を気遣う。そんな姿勢がどこにいても一貫している。決して無理をしているようには見えないのは、「自分が楽しむため」が根本にあるからかもしれない。そんなところもまた素敵だ。

私はこんな人になりたいのだ。

ごくごく最近まで、井ノ原さんは「こんな人が好き」の対象だと思っていた。実際にテレビの中の井ノ原さんを見ているだけで元気になれるし、こんな人が近くにいたらいいな、と。

でも気づいた。私は「こんな人になりたい」のだ。ずっと応援している中で、井ノ原さんの考え方が私にインストールされたのかもしれないし、そもそも根底の考え方が似ているから惹かれたのかもしれない。それは今となってはもう分からないが。

「人生のロールモデルを見つけるべき」という考え方には懐疑的だ。自分の人生の理想は自分の中にあるべきで、誰かの理想は自分の理想にはなり得ないから。しかし知らず知らずのうちに、私は井ノ原さんを目指していた気がする。性別も職業も、生まれた時代も違うけれど。私は、わきまえずに自分の信じる道を行き、それでいて周囲を気遣って、人生を楽しみたいのだ。

「イノッチのどこが好きなの?」と聞かれたら。次からは「イノッチは我が人生の師匠なのだ」と答えよう。キョトンとされるかもしれないが、これ以上の答えは見つからない。

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