第六章 太陽の塔光発電所その1
万博記念公園のシンボル、太陽の塔には3つの顔がある。一つ目はもちろん、胴体の上、もう一つはお腹、そして背中。しかし、実は、あまり知られていないが当初は4つ目の顔があった。
それは塔の地下部分に設置されていたのだが、万博(もちろんこれは大阪での一度目の万博だ)の終了のどさくさで、どこかへ行ってしまったのだ。
それがひょんなことから、見つかり、塔へ返されることとなった。
大々的に発表されることもなく、返却は地味に行われた。そもそも第四の顔が有名ではなかったからだ。
「岡本さんのや、ってうちのお爺さんが言うんやけど、どこの岡本さんなんか分からんで。誰からもろたん?言うても岡本さんとしか言わんし。もうお爺さんもボケてきてるから。まさか岡本太郎さんやとは。いやお爺さんも、そのまたお爺さんから譲り受けたみたいで、なんで誰からもろたんか何も分かりませんねんけどね」
返しにきた奥本香織さん(48)は苦笑いしながらも、よく、喋った。
しかし、この後太陽の塔にこの顔が再設置されると、大々的に発表されなかったはずの返還が大変なニュースにならざるを得ない結果となったのだ。
第四の顔が万博当時設置されてあったと思われる場所を探していたら、壁に引っ掛けるフックのようなものがあるのに気付いた。
「多分ここやろ」と言うことになり、そこへ再設置された。
設置されると、ガチャリと音がして地下室の天井から大きなハンドルが降りてきた。場所としてはちょうど塔の中心部分、そこから軸のようなものが降りてきたのだが、そこに地面と並行に4本の丸太が十字に伸びているのだ。
「なんやこれ!」
「万博の時、こんなんあったんか?」
「いや、ないやろ…多分」
「そやけど、あれ設置したから出てきたんやないのか」
「まあ、タイミング考えたら、そやろな」
「設置する場所間違えたんか?」
「間違えて作動するカラクリておかしいやろ」
「これは多分…こっそり隠して作った遊び心みたいなもんちゃうか」
「うーむ、よう分からんけど、なんやろな、これ」
「グルグル押して回すハンドルちゃうか?」
「ちょっと回してみるか」
その場にいたのは十数人。4本の丸太に2、3人ずつ位置につき、ゆっくりと押してみた。力を入れて、せーのっで押すと、少しずつ動き出し、やがてスムーズに回り始めた。
ゴゴゴゴゴ…重そうな音が響く中、別の音が混じり出した。
ウィーン…
どうも天井の上、つまり上の階から鳴っているようだ。上の階もまだ地下だが、そこからが太陽の塔内部であり、上までずっと吹き抜けである。そこには生命の樹という、塔の高さいっぱいまである巨大なオブジェが飾られている。
「上から音なってへんか?」
「俺見てくるわ!」
「俺も」
二人は上のフロアへと上がっていった。
「あ!」
それを見て二人は立ち尽くした。巨大な生命の樹が、グルグルと回っているのだ。
「どういうことや」
「えっと…これってつまり…そうか。つまり下で回してるハンドルはこの生命の樹と繋がってるんや。そやからアレ回したらこれも回るんや!」
「なるほど!そやけど…これがどないしてん。何の意味があんねんな」
「アホやな。これがアートやないか!さすが芸術家の作るもんは違うな」
解る男風に一人が頷きながらそう言った。
「おーい!うわ!これは…!」
慌てて入ってきた現場責任者が、グルグル回る生命の樹を見て絶句した。
「な、なんや、何でこんな大きいもんがグルグルと…いや、もしかして、これのせいなんか、外のあれは」
「外のアレてなんです?」
「ちょっと来てみい」
3人は急いで太陽の塔の外へ出た。すると何故だか昼間でさえ違和感を感じるほどに明るい。いや、眩しいというべきか。
「上、見てみい。ちょっと眩しいけどな」
言われて見上げると
「あ!」
太陽の塔の一番上の黄金の顔がギラギラと光っている。とてもまともに見てはいられない。
「なんや、この光は!」
「一体何があったんや!」
現場責任者が途方にくれている。
「実は…いや関係…あるよな?」
一人がもう一人に言う。
「うん、絶対回してるせいや」
「回してる?ええから説明せい。いや、止めるのが先や、まず、その回してるの止めろ。こんな眩しかったら周りからも苦情くるぞ」
「はい!」
3人は、また慌てて地下へ降りた。
「わ!なんやこれ!こんなんなかったぞ!」
初めて見た現場責任者は驚いて叫ぶが、ハンドルを回しているみんなにしてみれば、驚く流れはもう終わっているのだ。責任者のリアクションに反応もそこそこに、まるで仕事のように一生懸命ハンドルを回している。
我に帰った責任者は叫ぶ。
「おい、止めろ止めろ!」
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