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第五章 宇宙エレベーター六代目通天閣その2

それからもノボルは毎日のように工事を見にやって来た。すっかりこの辺りでは有名人となり、新世界の住人たちからは「カントク」と呼ばれていた。この工事現場の特別顧問と言ったところだろう。
「よ、カントク。今日も出勤か」
「カントク、あとどれくらいで完成や?」
 などと親しげに声をかけられ、ノボルもいつしかすっかりこの工事について詳しくなっていた。
 そのうち観光で来た人たちに工事について説明するようになり、そうなると、それを面白がってノボル目当てに、人がやってくるようにまでなった。
 まだ完成してもいない通天閣がノボルのお陰でちょっとした観光名所になった。
 
 宇宙までのエレベーター通路の部分を残して塔の部分はほとんど完成という頃、ノボルはプッツリと来なくなった。
「せっかく最上階まで登らしたろ思たのに、どうしたんやろな…」
「体弱い言うてたからなあ、心配やなあ」
 工事現場のオッチャン達にとってもノボルの存在は癒しだった。
 ある者は故郷に妻と子を残したまま出稼ぎに来ていた。ノボルを久しく会わない息子のような気持ちで接していたのだ。
 ある者は自分の息子がまだ小さかった頃を思い出した。すっかり実家に寄り付かなくなった実の息子より、よほど可愛く感じていたのだ。
 ある者は、もし自分が結婚して子供が出来たら、こんな感じだろうかと半ば予行演習の気持ちでいた。
 みなそれぞれにノボルが来るのを楽しみにしていたのだ。
「子供やから、他に楽しいもんが出来て、もう飽きたんかもな」
 一番仲の良かったオッチャンは、そう言いつつも、あまり自分の言ったことを信じてはいなさそうだった。
 何かあったのではないか、と皆内心不安に思いつつ、それを口に出すのが怖かった。
 
 そして音沙汰のないまま一年が過ぎた。
 全く姿を見せなかったノボルがひょっこりいつものように、やってきた。
「カントク!カントクやないか!」
「どうしとったんや、今まで」
 皆が一斉に集まってきた。カントクが来ていると噂が走り、塔の上の方にいた人間までもが、慌てて降りてきた。
「うん、手術やってん。治ってからも、しばらく安静に、せなあかんかってな、ほんでリハビリしたり」
「そうかそうか」
 皆嬉しそうだが、まだこれを聞くまでは少し心配そうだ。
「ほな…もう、大丈夫なんか?」
「うん」
 皆が一斉に安堵のため息をついて、嬉しさを満面の笑みで表した。
「そうかそうか」
「うんうん」
 一年の間に子供はすごく成長する。少し背の高くなったノボルは、一年ぶりの皆の歓迎に少し照れ臭そうだ。そして顔色も前に比べて良くなっているように見えた。
「こないだからは走ったりも出来るんやで。もう少ししたら山登りもしてええって言われてん」
「そうかそうか!良かったなあ。でも無理すんなよ、まずは天保山から登れ。日本一低い山や!ガハハ」
 冗談を言うオッチャン達は、本当に本当に、嬉しそうだ。
 
 その後もノボルはカントクとしてちょくちょく現場に現れた。
 運動が出来る様になった事で、友達と遊びに行ったり山登りをしたりと、行動的になったおかげで、現場に来るのは毎日ではなくなった。それでもこの場所のカントクであり、有名人であり続けた。

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