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バナナマン設楽さんに助けられた話

大袈裟なタイトルを付けてしまって勘違いされないかドキドキしている。でもこのタイトルしか思い浮かばなかった。
他の人が読んでも大した話ではないかもしれない、とだけ前置きしておく。

十数年前、美術館の展覧会特設売店のバイトをしていた。社員さんはどの方も優しく楽しい人ばかりだったがその中でも特に1人、面倒見の良い男性社員さんがいた。
僕や多分他のみんなの事も、趣味嗜好を熟知していて別の地方へ出張に行った時や誕生日に、それぞれが好きそうなお土産やグッズを買ってきてくれる。
どこかに食事に行ったら絶対お金をこちらには払わせない。こちらが誕生日に何かをあげた時より、その人が僕らに何かをくれた時の方が嬉しそうに見えるくらいの人だ。

そんな良い人なので慕われていたし、細々と交流は続けさせてもらっていた。

四年前、その社員さんが突然亡くなられた。納骨が済んでお墓がどこか、こちらに情報が入ってすぐ、お墓参りに行った。
お墓に名前が刻まれてるのを見て、事実である事を実感してボロボロ涙が出た。
それ以来毎年お墓参りに行っている。

そこは樹木葬の共同墓地なのでお供えなどは出来ない。僕はペットボトルのお茶を持って行き、お供え台に一旦置き、手を合わせた後、持って帰った。
次の年はホラー漫画の単行本。もちろん僕が好きで買った物だが、その社員さんも好きそうな本だった。
こんな本見つけましたよ。
と報告した。

お供えはするが、その後持って帰る
という事を考慮すると、どうしても自分で使える物になってしまう。
普通は故人の好きだった物をお供えするものではないだろうか。
かといって後で自分は要らないからと捨てるわけにもいかない。毎年その事で少しモヤモヤしていた。
本なら自分としては納得がいく。怖い話は僕も社員さんも好きだったし共通の会話だった。
でも毎年ちょうど良くその手の本が見つかるとも限らない。
本にしても食べ物にしても無理矢理買うのは違う。それでお墓参り自体を面倒臭く感じるようにはなりたくない。

3年目もお茶だった。
4年目の今年、お墓のあるお寺の最寄駅に着いた時
毎年お茶もなんだかなあ、と迷いながら改札を出た。改札前のスペースに和菓子屋さんがお店を出していた。駅前によくあるワゴンで売っているあれだ。

季節は秋、お彼岸だったため、おはぎが目に入った。ちょうど良いかもしれない。後で食べるにしても2つ入りなら余らせないで済む。いや、隣のずんだ餅も美味しそうだ。
あ、いつの間にか自分で食べる事をメインで選んでいる。自分の好きな物、食べるのに困らない量。
僕は何をしに行くんだっけ?

そもそもあの社員さん甘い物好きだっけ?
おはぎ食べる?
ずんだ餅好き?
辛い物の方が好き?
っていうか何が好みだっけ???

あんなに僕らバイトの事を分かってくれていた社員さんの、その人の好みをこっちは全然知らなかった気がしてきて申し訳なくなった。

コーヒー好きかな?確かスタバ行ってたような、でも何飲んでた?ブラックか甘いのか?
結局無難にお茶を買って僕はお寺へ向かった。

バスで行けば近いのだが歩くのが好きなのでいつも徒歩2.30分かけて歩いて向かう。
その道中僕は頭の中で設楽さんに相談した。

よくあるバラエティ番組。
僕はゲストで(もちろん実際には僕は単なる会社員でそんなもの出られない)鮮やかな彩りのセットの中央、バナナマンのお二人に挟まれるように座っている。ぼくら3人の後ろにはたくさんの芸能人の人たちが一段高い場所に座っている。
コーナーとコーナーの間のちょっとしたトークのコーナーで相談を持ちかける。

「こんな事があって、なんかすごく罪悪感に苛まれて。どうしたら良かったのかなって。来年どうしょうかなって思ってるんです」
設楽さんはゆったり包み込む声で応える。
「なるほどねぇ〜難しいよね〜」
日村さんも頷く。
おもむろに語りだす設楽さん。
「でもさあ、やっぱそういうのって気持ちだからさぁ〜ホントはなんだっていいんだけどね。だって絶対来てくれるだけでめちゃめちゃ嬉しいじゃん。毎年行ってんでしょ、すごくない?そんなんで絶対、俺甘いもん嫌いなんだよ、とか言わないでしょ。ありがとう、でも俺はいらないから持って帰って食べな!って言ってるよ」
もちろん僕の脳内の話なので
来てくれるだけで嬉しいだの、毎年行くなんてすごいだの、全部自分で自分を褒めている、こんな所に書くのは恥ずかしい行為ではあるのだけれど、それでもこの言葉は自分で考えながら出したというよりも、設楽さんの口から不思議とスルスルと出てきた。
そして自分で自分に答えてるだけなのに、気付かされた気持ちになった。
あの社員さんは優しく面倒見の良い人だ、そんな事で怒るわけもないし、きっと行くだけで喜んでくれる人だ。もちろん怒られるから好みの物を買いたいわけではない、気持ちの問題だ。でもだからこそ気持ちがこもっていればそれだけで喜んでくれるはずだ。
僕が1番分かってなかったのは社員さんの好みではなく、社員さんの人柄だったのかもしれない。
僕は設楽さんに答えた。
「そうですよね!ホントそうです。きっと好きじゃないもの買っていっても笑ってくれます。
今度からずんだ餅買います。食べたいからこれにしちゃいました!って報告します。きっと仕方ねえな、帰ってゆっくり食べな!って笑って言ってくれます」

すごくスッキリして、その社員さんの優しさや、設楽さんの温かさに勝手に触れて、恥ずかしながら涙でウルウルしながらお寺へ向かった。

来年はきっとずんだ餅を持って伺います。

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