『アイム・ブルー(I’m BLUE)』第21話について

『アイム・ブルー(I’m BLUE)』とは、現在Sportsnaviで連載している、スポーツライター木崎伸也さんによる、木崎f伸也名義での初のフィクション小説です。イラストは『GIANT KILLING』で有名な漫画家のツジトモさんが描いています。


内容としては、2030年と言う未来のサッカー日本代表を描いた小説なのですが、代表に密着してきたスポーツライターの木崎さんらしく、登場人物や状況の一部は現在の代表が元になっていそうで、裏側の描写も真に迫っていそうです。6月10日現在、第21話まで進んでいます。

第1話はVRが出てくる話で、ありきたりな未来の小説なのかなと思ったのですが、序盤以降は人間関係や戦術、過去を振り返る形で近代のサッカーに焦点が当たっており、自分も先日全話を一気に読み返してしまいました(一部のバックナンバーを読むにはアプリのインストールが必要だと思います)。

さて、自分がこの時点でこの小説について書こうと思ったのは、現在の代表関係者がモデルになっていそうな登場人物達の中で、特にほぼそのままなのではないかと感じるのが、ハリルホジッチ前監督を元にしていると思われるオラルだからです。

木崎さんは本田選手に密着し、ハリルホジッチ前監督に対しては批判的な記事で知られています。

この作品が残り、ハリルホジッチはなんて酷い監督だったのだろうとのイメージが定着する事を危惧して、自分の考えを書いておきたいと思いました。

自分は1994年アメリカ大会からワールドカップを見始めたため、イタリア代表の、従って守備のしっかりしたサッカーのファンです。また、地元神奈川のマリノスのファンでもあります。2010年南アフリカ大会、岡田ジャパンが本番前の試合で結果を残せていなかった事から、マスコミや世間から壮大なバッシングを受けました。岡田監督時代のマリノスを知り、同監督のファンでもあった自分は、岡田監督ならきっと大丈夫と信じており、周知の通り日本代表は自国開催以外で初めてベスト16に進出しました。

2014年ブラジル大会では、恐らく多くの人がそうであった様に、自分も前年コンフェデレーションズカップのイタリア戦等を受け、華麗なサッカーで成功してくれるのではないかと夢を見ました。その夢は儚く砕かれました。

ハリルホジッチ前監督の就任時、フィジカルやデュエルを重視し、縦に速いサッカーを標榜した事は、元々その様なサッカーも好みでしたし、2014年の不甲斐ない結果を受けて、厳しさが必要だとも思っていました。また、世界のサッカーも進化しており、クリスチャーノ・ロナウド選手の様に、一世代前では考えられない様なフィジカルを持った選手達による速いサッカーが主流になってきており、それにもマッチしていると思いました。

アイム・ブルー第21話では、日本サッカー協会会長の冨山が、予選突破までの過程やその後の会見を回想します。その中で、オラル(ハリルホジッチがモデルと思われる作中の前日本代表監督)がいかに選手や協会を信頼しなかったか、不和をもたらしたかが描かれています。

しかし、自分は日本のマスコミや世間の方が先にハリルホジッチを信頼しなかったのではないかと思っています。ハリルホジッチは予選の段階から、本戦で戦えるチーム作りを目指していたと思います。日本の場合、本戦の相手と予選の相手では大きくレベルが異なります。本戦を見据えたハリルホジッチのサッカーは、予選ではザックジャパンと比べて地味な試合になりがちだった。でもザックジャパンが本戦で通用しなかったから、2014年のベスト16、アルジェリアを率いて優勝国ドイツを1-2と苦しめたハリルホジッチを呼んで来たはずです。予選がザックジャパンよりつまらないと文句を言うのは門が違う。

ハリルホジッチが異様にプライドの高い監督である事は様々な情報から伺えます。そして、下記本の霜田元技術委員長へのインタビューによると、日本代表監督に就任する前、膨大な調査をして日本が進むべき方向を考えていたと言います。そんな準備をしていたハリルホジッチが、予選の試合がつまらないと、常に粗を探して批判ばかりする日本のマスコミに怒りを覚えても不思議ではないと思います。またマスコミは選手に取材して書くので、選手への不信感も募っていたかもしれません。アイム・ブルー第21話でも描かれている予選突破後の会見は、そんなマスコミ等に文句の一つ(多く?)でも言いたくなってしまうから、延期したのではないかとも思います。

冨山はオラルにはめられていようが、そんな雰囲気で無かろうが、解任するつもりなら、経済違反で無いのなら予選突破直後に解任すべきだったと思います。

現実では本番2ヶ月前と言う信じられないタイミングで無事に(?)ハリルホジッチを解任した日本代表は、先のガーナとの壮行試合、スイスとの練習試合と続けて0-2で敗北しています。やはり何でも批判するマスコミから批判的な記事が噴出しています。一方で2010年の状況と類似しているため、本番では行けるのではないかとの見方もあります。しかし、自分はそうは思いません。確かに本番前に成功すると気が緩むとか、逆の場合は気が引き締まる等の傾向はあるのかもしれませんが、それはフィジカル同様、あくまで代表スタッフによる精神的なピーキングの枠内で議論されるべきだと思います。2010年当時の日本代表は、岡田監督のやりたかった前からの守備が事前の試合で成功しなかったため、闘莉王選手等を中心に弱者の戦法を訴え、転換した結果だったのであり(また、その結果本田選手を1トップで起用したのも慧眼だったと思います)、今回は本番2か月前の監督交代と言う、明らかにマイナスとなる判断を受けて、新しく西野監督の元で代表を再構築している途中で、まだ結果が出ていないと、状況が異なるので参考にはならないと思います。

批判一辺倒ではない記事としては、3バックと4バックの可変システムを使う準備をしているのではないかとの記事もありました。

自分も、右サイドバックが手薄である事から、3バック、強いては可変システムを検討している可能性はあると思います(それでも、現代表で数少ない得点源である原口選手を不慣れな右サイドで使ってしまうと、全体の得点力が落ちてしまうのではないかと思いますが)。

残すところは6月12日のパラグアイ戦と本番です。それ等と連動して今後アイム・ブルーがどの様に展開していくかも楽しみですし、西野監督がパラグアイ戦等を経てどの様なチームを構築するかにも興味はあります。

とかく過ぎた事は忘れやすく、とにかく今は前だけ向いて全力で応援しよう、と精神論になりがちな世間の中で、ハリルホジッチ監督とは何だったのか、その解任とは何だったのか、きちんと評価され、それこそ2030年等の未来に向けてその分析が生かされていく事を望みます(今後も楽しみな選手達も育っていますしね)。

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