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アジアの解放の虚構を分析した本「大東亜共栄圏」

本(大東亜共栄圏)

副題が「帝国日本のアジア支配構想」と書かれた本書は、日本がかつて「アジアの解放」をスローガンに推し進めた大東亜共栄圏について、立案から実行、破綻までを時期列的に分析し考察した本です。 

筆者の安達宏昭さんは東北大学の教授で専攻は日本近現代史であり、本書は新書版ですが、その内容は研究論文の質量といってもいい程です。
合わせて筆者は研究者であるがゆえに、多くの資料などの文献を参考にしながら、極力私情を抑制しつつ客観性を重視した分析手法であったと推測します。

筆者が先ず指摘したのは、日本が経済自給圏を運営するだけの経済力、つまりは国力を持ち合わせていなかったということです。この指摘は本書で最後まで一貫した主張であり、国際的な統括力がない日本が、なぜこうした構想に走ったのかを分析しています。

歴史的にも大東亜共栄圏の目的は「アジア解放」という名目が有名ですが、時系列的に言えば、アジア解放以前に「自存自衛」があったと筆者は指摘します。
資源が乏しい日本が自存自衛するためには、資源が豊富な中国やインドネシアなどを支配下に置く必要があった訳で石油や鉱物資源、米、綿花などの各種資源を確保するために、民間企業がアジア各地に進出して、活動を始めます。

大東亜共栄圏の形成は、日本指導下での独立と、日本による強力な支配の両方を備えたものだったと筆者は分析しています。
よって結果的に、日本が想定していた不平等な階層秩序に、東南アジアの諸国を置くことが困難だったのであり、大東亜共栄圏とは、日本の独善性が表れた一方的な構想だったと結論付けています。 

満州事変以降、国際的に孤立しつつあった日本は、アメリカやイギリスに対峙する分極的世界をドイツやイタリアと共に構築しようと構想をしましたが、その実態は19世紀における大国主義そのままに、ひたすら領土の拡大を目指すものであり、その国力からは比較できないほどの野望を抱いていたと歴史が証明しています。

2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻も、まさに大国主義の復活を狙った他国への侵攻であり、21世紀の現代においても、またもや歴史が繰り返されたという悲惨な現実を直視する必要があり、そこから何を学ぶべきか、改めて考えなければならないと思いました。

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