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原爆の父の栄光と挫折を描いたアカデミー賞受賞映画「オッペンハイマー」

映画(オッペンハイマー)(ネタバレあり。長文失礼します)

今年のアカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した話題の作品です。私も遅ればせながら観て来ました。原子爆弾を開発し、原爆の父と言われた物理学者のオッペンハイマー博士を描いた映画で、180分の力作です。同氏の伝記を映画化してその生涯を描いていますが、実話に基づく映画製作は、クリント・イーストウッド監督が有名です。ただこの作品はそれとは違った作風に仕上がっています。

前半は若き日の博士を描いていますが、量子力学で優秀な理論物理学者でありながらも、イギリスに留学中には実験が苦手で実験器具を壊してしまうシーンがあり、さらに精神的にも尋常ではない頃で、教官の机に置かれたりんごに青酸カリを注射針で注入するシーンもありました。

後半は原爆開発のために、国家プロジェクトとしてニューメキシコの砂漠に街ごと含めた研究開発施設を建設しますが、ここから前半の静的な画面に対して動的なシーンが連続して展開していきます。バックの音楽の効果音がさらに臨場感を増していき、原爆完成までの工程が示されていきます。

そして砂漠での実験が成功し、遂に原子爆弾は完成する訳ですが、もはやそこまでが1つのピリオドであり、その後は大統領をトップとする軍の管理下に置かれ、原爆投下の時間さえ連絡してもらえません。
主人公が勤務する大学で建築家や技術者、科学者などの組合結成に向けての集会が開かれますが、こうした専門的職業の人間は、歴史的に見ても時の権力者の権力拡大のために、その能力を利用されてきました。

戦後反核に転向した主人公は、赤狩りの名目で公職を追放されますが、その裏には凄まじい謀略があったとこの映画は訴えています。私は伝記や関連文献を読んでいないので、どこまでが史実なのか推測できませんが、博士がソ連のスパイだというFBIへの告発には博士への私的な怨みがあったとする公聴会での衝撃的な証言が出てきます。

本編はこうした2つの公聴会を挟みながら、物語が進行していきますが、上記のように後半の原爆開発から完成までの過程は、観客を引き寄せるアクティブな展開となっていますし、終盤の公聴会でのカラクリを仕掛けた本人が暴露する場面では、サスペンスの謎が解けていくような構成に仕上げています。

冒頭に書いたイーストウッド作品とは違うと思ったのは、イーストウッドの場合は、きわめて事実に忠実に、ドキュメンタリータッチで描かれているのに対して、ノーラン監督はアクティブな展開やサスペンスの要素を取り入れながら、あくまでもエンターテインメント重視のハリウッド的手法で、この伝記を映画化したと感じました。

NHKの「映像の世紀」でもオッペンハイマーの特集があったので、一応の予備知識はあったと思いますが、公職追放の影にそうしたカラクリがあったとは勿論知りませんでした。(写真は公式サイトより引用しました。)

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