話題の本‼️「検証ナチスは「良いこと」もしたのか?」
本(検証ナチスは「良いこと」もしたのか?)(長文失礼します)
第二次世界大戦やホロコーストを引き起こしたナチスが、逆に「良いこと」もしたのかについて検証した本です。この本、話題になっていると新聞記事で読み、早速買って読んでみました。共同筆者の小野寺拓也さんは東京外国語大学准教授で、田野大輔さんは甲南大学教授で、長年ナチスの研究を続けている歴史学者です。
この本を書くきっかけになったのは、予備校講師のツイートが、ナチスも「良いことをした」とする女子高生の小論文の文体の完璧さに困惑したというものでしたが、それに対して筆者(田野さん)が「何も良いことはやっていない」と反論すると、多くの批判するツイートがアップされ、中には30年何を研究してきたのだという嘲笑まがいのコメントもあったということです。こうした現象を踏まえて、総合的な歴史的検証の必要性を感じ、この本の発行になったと書いてありました。
先ず「はじめに」で触れているのは、歴史的思考力の前提では、「事実」「解釈」「意見」の三層構造が重要であると述べています。最初の前提となるのが歴史的「事実」であり、それを様々な史実や資料などを参考にしながら「解釈」して、その解釈を理解した上での「意見」を述べることが肝要であるとしています。
この重要性は、上記の批判ツイッターにその欠如が集約されているというもので、事実からの解釈を十分に検証しないで、自分の意見なり主張を述べることは、解釈に含まれる背景や真実を理解しないままの事実だけに基づいた意見は、昨今SNSで流行りの「切り抜き」の部分的解釈であり、最もわかりやすい事例として歴史修正主義に集約されるとしています。
アウトバーンの建設や失業率の低下、福祉政策や家族支援政策など、功績とされがちな事象を取り上げ、事象ごとにそれがナチ独自の政策である「オリジナル」があるのか、その「目的」は何か、さらに成果がある「結果」だったか、の3つの項目を順番に検証しています。
ナチスが唱えるスローガンの核が「民族共同体」であり、第一次世界大戦後のドイツの内的分断の元凶である民主主義や自由主義、マルクス主義の害悪を駆除し、国民が身分や階級の違いを超えて一致団結する「民族共同体」を建設するとしています。
オリジナル→目的→結果を順次検討していくと、プロパガンダで増幅された独自の政策とされるものは、前政権などで提唱されたものがほとんどで「オリジナル」はほぼ皆無であったこと。プロパガンダがナチスの躍進に大いに貢献しているということです。
ナチスの目的はあくまでも武力による領土拡大であり、各事象の目的は最終的にはこの目的を遂行するためのものであること。
目的がそうであるならば、結果も自ずと予想されるものであり、象徴的なアウトバーンの建設は、景気対策や失業解消も副次的なもので、決定的に寄与したのは戦争準備のための軍備拡張であったと指摘しています。
何より福祉政策や家族支援政策なども、ユダヤ人やナチスに異論を唱える者など、ナチスが敵視する住民は、当初より排除された差別政策であったことの重大性も繰り返し、指摘しています。
さらにこれは現代の日本にも通じる所がありますが、子育て政策についても、出産という自らの将来計画に関わる最もプライベートな問題を、国家が政策によって変えさせることは非常に困難を伴うと結論づけでいます。
「事実」だけを見れば、ナチスも「良いこと」をしたように思われますが、その背景にある「解釈」を深堀りし、その事実の客観性や妥当性、さらにその目的などそこに至るまでの経緯や原因などを総合的に検証し、理解した上での自分の意見を述べることの重要性を、2人の歴史学者が提示していると思いました。
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