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哲学者で研究者で愛妻家な夫は魅力的か 〜デ・キリコ展(東京都美術館)〜

まず、タイトルについて謝罪しておくが、デ・キリコがそうであったと言っているわけではない。彼のことを何も知らないで展覧会を見た私が勝手に想像したデ・キリコ像だ。ごめんなさい。

東京都美術館で8月29日まで開催中の「デ・キリコ展」に滑り込み!というほどギリギリでもないが、遅ればせながら行ってきた。

彼は、ダリやマグリッドなどのシュールレアリストたちに影響を与えた、マヌカンなどが特徴的な「形而上学的絵画」の画家らしい。
形而上学(けいじじょうがく)ってなんだ。マヌカンってなんだ。

平日お得チケットを使って、音声ガイドを150円引きの500円で借りたので、ナビゲーターのムロツヨシの声を、へぇ、ムロさんボケてないとこんな感じなんだなぁなんて思っていたら、肝心の説明を聞き逃して戻したりなんかしながら、平日の空いている美術館で大きな作品を一番前でじっくり見たりなんかして楽しんだ。

そういえば、今年の初めに母の友人の画家から「絵ってのは、ざーっとみて目に止まったものだけを鑑賞すればそれでいいんです」と教わったので、実践してみようと思っていたのだが、音声ガイドを借りた時点でその思いはどこかに吹き飛んでしまっていた。感性に任せた鑑賞は次回にまわそうと思う。

ちなみに初っ端でムロさんが「けいじじょうがく」について説明してくれていたんだけど、スッと入ってスッと抜けていったようで、何も覚えていないので振り返りとともにwikiでさくっと調べてみた。

形而上学(けいじじょうがく、: metaphysics)は、感覚ないし経験を超え出でた世界を真実在とし、その世界の普遍的な原理について理性(延いてはロゴス)的な思惟認識しようとする学問ないし哲学の一分野[1][注釈 1][注釈 2]世界の根本的な成り立ちの理由(世界の根因)や、物や人間の存在の理由や意味など、感覚を超越したものについて考える[2]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A2%E8%80%8C%E4%B8%8A%E5%AD%A6

調べても何を言っているかわからないが、自分の感覚を超えたものについて考える哲学的なことなのだろうと一旦は理解した(つもり)。

キリコはある日、いつもと違い、みたことのない奇妙なイタリア広場を見た。このことから描かれたのが形而上的絵画の始まり「イタリア広場」という作品だそうだ。展覧会のサイトでも見ることができる。

知っている場所の風景が見たことのない風景に感じる、というのは小説やエッセイなんかでよく聞く状況だが、私は今まで一度も実際にそう感じたことはない。知っている場所は、知っている風景でしかないのであるが、いつかこのような感覚に陥ることはあるのだろうか。

彼は哲学、とりわけニーチェが好きで、
「謎以外の何を愛せよう」
は、彼が大切にしていたニーチェの言葉だそうだ。

実際とは乖離のある遠近感や、ここにあるはずのないものを画面上に置くキリコの形而上的絵画は、確かに私には謎(理解が難しいもの)が多く、なんだかむずむずして、みていると落ち着かなくなる感じが心地よい刺激となり、とても楽しく鑑賞した。

展覧会は自画像から始まったが、自画像の彼は17世紀の衣装に身を包んでなんだか貴族のようだった。表情からは彼の自信ないしは、自信たっぷりに見せる外の顔を受け取った。今だったら、インスタグラマーになれそう。
弟や妻をモデルにした絵がいくつか展示されていたのだが、そのどれもに愛の眼差しを感じた。実際、妻は彼の良き理解者であったらしい。夫の良き理解者であった、と言われる妻が、妻側から見て実際に良き夫であったのかどうかには疑問が残るが、彼の絵からは妻や家族に対する愛が見えた。

さて、その他多く鑑賞することのできた形而上的絵画のほとんどは「マヌカン」であった。マヌカン=マネキンのことで、顔のないマネキンが描かれている。顔がないということは、誰を書いているのか特定し切ることができず、預言者や自画像などマヌカンが表しているものがわかっていたとしても、鑑賞者はその人物の想像を膨らませることができて面白い。

今回、私がマヌカン作品で一番心にグッときたのは、実は彫刻作品だった。彼は金メッキ等のピカピカ系の彫刻を残したのだが、(多分)全てマヌカンの作品が飾られていた。これもムロさんが教えてくれたのだが、彼は「彫刻こそ絵画的な柔らかさが必要だ」と思っていたらしい。
確かに、彼のマヌカン彫刻はとても柔らかく、顔がないマヌカンなのにも関わらず彫刻のマヌカンからは感情が伝わってくるように感じた。いや、いくつかのマヌカンからは確実に伝わってきた。ピカピカ光っていて色すらないマヌカンの彫刻たちは、身体の筋肉や馬のたて髪、立ち位置や身体の傾きから感情を語っていたと思う。
彫刻作品が、たったの一つもグッズ化されていなかったのが悲しい。

そうそう、グッズといえばデ・キリコ展のグッズはかなり充実していたように思う。特にTシャツ、よくある白黒ではなく、キリコの絵画から抽出した黄色、赤色のカラフルな色地と良い触り心地の素材に絵画や絵画から抽出した三角定規がプリントされていた。全部買いたいくらいだった。

そのほか、辻井伸行のピアノを聴きながら(音声ガイド)眺める、とても可愛らしい舞台衣装(ミナペルホネン風)や、ジャン・コクトー『神話』のための版画に出てくる特徴的なギザギザの水も面白く、すっかりデ・キリコが好きになって帰ってきた。

真昼間の上野公園は、2歩歩くだけで汗が吹き出してきて日傘とサングラスをフル活用しても暑すぎたが、平日に大型展覧会をゆっくり見られて、とっても満足。

まだ見ていない方は8/29までなのでぜひ。
9月からは神戸で巡回するようです。


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