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未来館ビジョナリーキャンプを振りかえる その2「道を照らす者」

未来のビジョンを描き、それを実現するアイデアを考え、周囲を巻き込みながら、自らも行動できる人=ビジョナリーとして集った15~25歳の若者たち。「2030年に、私たちはどうやって気持ちや考えを伝えあっていたいか」をテーマに、ビジョナリーたちが立場や価値観の異なる人々と語り合いながら、未来のコミュニケーションを語り合う──。そんなイベントが2019年3月に開かれました。名付けて、「未来館ビジョナリーキャンプ」。会場はもちろん、東京・お台場にある日本科学未来館です。

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連載2回の今回は、キャンプの1日目と2日目に行われたトーク・セッションを紹介します。

このキャンプには、15歳~25歳のビジョナリーだけでなく、研究者、クリエイター、データサイエンティスト、そして未来館の科学コミュニケーターも参加しました。今回は、若者たちの導き手となった彼らの言葉を振りかえってみます。

コミュニケーションを追求する! 研究者との対話

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3人の研究者は、講義室ではなく、机のない空間で目の前のビジョナリーと向き合います。1時間のフリートークがどんな展開を見せるのか、誰にも分りません。専門用語が出てくるたびに、未来館スタッフがリアルタイムで関連情報を検索し、スクリーンに投影していきます。
緊張した雰囲気の中で、トークセッションは始まりました。

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「1歳以下の赤ちゃんは、例えるなら感情の塊のような状態かな。赤ちゃんの感じ方を "翻訳" できたら面白いね」

自身の研究を紹介しつつ、ビジョナリーに語りかける研究者。
少しずつビジョナリーたちが手を挙げ始めました。
研究者たちは一つひとつの質問に丁寧に答えていきます。

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英語の勉強、翻訳機に任せちゃダメですか?

翻訳機能をもったデバイスがたくさんあるのに、わざわざ英語を学ぶ必要ってあるのでしょうか? 
そんな質問に対して、3人の研究者はそれぞれの視点で問い返します。

「相手のコミュニティーの中に入っていこうと思ったら、翻訳機だけで本当に充分かな?」

「留学で学ぶことって、言葉の意味だけ? 根底にあるコミュニケーションスタイルも身につくよね」

「自分で学んだことで "なんか、前のわたしと違う!" って感じる瞬間、ない?」

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一人の力、二人いることで生まれる力

「勉強ができるのも能力の1つです。その一方で、"友達からノートを借りる力"、という能力もあります。助けてくれる人を見極め、交渉し、良い関係をつくる、これも生きる上で重要な能力です」

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「 "誰といるときに自分は能力を発揮できるのか" ということに興味があります。互いの脳で起こっていることを測定することで、人と人が無意識にどんな関係を結んでいるのか、それを知る手がかりを得たいと思っています。


言葉で伝えられないものを伝えたい!

言葉ではなく感覚を伝えたい!
そう語るビジョナリーに、また別の研究者がコップ手渡しました。そして自身も配線でつながった別のコップを手にとります。研究者のコップにはビー玉が入っていますが、ビジョナリーのコップは空っぽです。

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研究者がビー玉が入ったコップを静かに振ると、空っぽのコップを握ったビジョナリーの手に、ビー玉の振動が伝わりました。

「ホントにビー玉が入っているみたい!」


技術がそれを伝えるとき

「もし、テレビに戦場の様子が映し出されたとき、銃声や爆発の振動がこちらに伝わってきたら、そのとき私たちは何を感じるんだろう」


ビジョナリーたちは自分自身の感覚を想像してみます。

静まりかえった会場に研究者の言葉が響きます。

「その技術を使ったとき、私たちの体はどう反応し、心は何を感じるのか、考えてみてごらん」

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セッション終了後、3人の研究者は、休憩時間を使って、集まってきたビジョナリーたちとの対話を続けました。

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コミュニケーションを創造する!

クリエイターとの対話


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3人のクリエイター※1 は、"それ" を使うときの使い手の気持ちにどう応えるか、実際に創り出した作品を見せながらビジョナリーたちに語りました。

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あるクリエイターが、自身の作品のである、泡で表現された文字をビジョナリーたちに見せます。

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写真提供:松山真也 氏


書き残せることが強みでもある文字が「今この瞬間しか存在しない」姿で表現されたとき、かえってメッセージが強く心に刻まれたことに、ビジョナリーたちは衝撃を受けました。

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あるクリエイターは、ものづくりの発想段階からすでにコミュニケーションが始まっていると語ってくれました。

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「モチーフは誰もが知っている簡単なものを使う。ルールや操作もシンプルにする。準備段階が難しくなればなるほど、誤解が生まれやすくなる。コミュニケーションも同じ」

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簡単なカードを使って「特別なテクノロジーがなくても、描かれた世界に自分が関わっている感覚を体験できる」ことを示してくれたクリエイターもいます。

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フラスコとカギ。それぞれの絵柄が描かれたカードを、向かい合わせにして重ね、手をスライドさせると、まるでマジックのように新しいカードの絵柄が現れます。そこに描かれているのはフラスコの中にカギが入っている絵柄。手の動きと映像の変化が同期したことで、まるで自分の手がフラスコの中にカギを入れたような感覚を、会場の全員が共有した瞬間でした。

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ビジョナリーたちにとって、世界を新しい切り口で捉えなおす体験は驚きの連続でした。

コミュニケーションを広げる、加速する!

データサイエンティストとの対話


現実社会で私たちは、どんな情報を送りあっているのでしょうか。
私たちが、日常生活でやりとりしている「データ」を切り口に、コミュニケーションの多様性、そしてコミュニケーションの可能性についてビジョナリーに語ってくれたのは、地球規模で情報伝達を行っているブルームバーグ社のデータサイエンティストです。

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「SNSは僕たちのコミュニケーションの幅を大きく広げたんだ」

「はじめは文章だけだったのが、写真を送れるようになり、それが動画になり、今ではリアルタイムでの配信が可能になった。ここまで情報の伝え方が多様化したのはなぜだろう?」

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「ビッグデータをより高速で動かせるようになったことで、分析できることが多くなったからなんだ」

「画像解析技術も進歩するし、VRやAR※2の仮想世界の解像度も高くなる。リアルタイムで共有できる感覚も増える。これからは、触感、さらには匂いや雰囲気まで伝えられるようになるかもしれない」

スマートフォンで何気なく送りあっている写真や動画、そして音楽。思い描く将来のコミュニケーション場面で、自分たちはどんなデータを送りあっているのだろう。ビジョナリーたちは、思いついたことをメモやイラストで書き留めながらトークに聴き入っています。

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情報 × 情報、その先にあるもの

「情報ビジネスの世界では、異なるデータを組み合わせて使うことができるようになりました。たとえば個人情報とGPS位置情報。2つを合わせることで、いつ、どこに、誰が立ち寄ったかが分かり、その情報をもとに、その人にピッタリの商品情報を送ることもできるわけです」

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「データの可視性もキーワードの1つ。たとえば、文章から書き手の気持ちを可視化する技術はすでに現実のものになりつつあります」

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情報と情報が組み合わされ、別の情報が生み出されることに驚くビジョナリーたち。

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高速で様々な情報をやりとりできるようになったということは、そして、情報が組み合わされて新たな情報になるということは、データ量が加速的に増加の一途をたどることを意味します。

「ギガバイトにテラバイト、その先はペタ? じゃ、その次の次はなんていうか知ってる?」

世界に存在するデータの量は2年ごとに2倍に増えていき、2020年までには世界のデータ量は40~50ゼタバイトになるという予測に驚くビジョナリーたち。

iPadにこの情報を入れて積み上げていくと、2021年には月に到達してしまうかもしれない、というデータサイエンティストの話を聴いて、誰かがつぶやきました。

「情報量そのものがコミュニケーションの課題になるかもしれない」

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送る側の責任、受け取る側の責任


SNSで数百万人に間違った情報を拡散してしまったらどうなる?

情報のきりとり方を誤ったせいで、事実の一部分だけが強調されてしまったら?

データサイエンティストたちからビジョナリーに問いが投げかけられました。

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「テクノロジーは便利だけど、それが発達したからといって、考えることを放棄してはいけない。むしろ今まで以上に、なぜ? どういうこと?と考えることが大切になってくる。データの正しさや価値を見極める責任が、情報を送る側にも、受け取る側にも生じるだろうね」

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デジタル画像を加工して自分の"盛り顔"を簡単につくれるようになり、フェイクニュース動画が決して珍しくなくなった2019年の社会。

情報をやりとりするときに一人ひとりが背負う責任の重さを改めて自覚したビジョナリーたち。

夢を語るだけではビジョナリーにはなれないことを一人ひとりが痛感した瞬間でした。


コミュニケーションを深める! 

科学コミュニケーターとの対話 


未来館の科学コミュニケーション活動を統括する科学コミュニケーション主任が語ったのは、これからのコミュニケーションを変えていくかもしれない技術の話です。

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人と機械の学習

「人間は経験を蓄積し、法則性を見つけ出し、その法則性から課題の解決策を考えてきました。やがて、ビッグデータを高速で処理できる計算機と人工知能(A.I.と表記)が登場し、機械も法則性を見つけ出すことができるようになりました。A.I.は、人間が気づかない法則性をビッグデータから見つけ出し、示してくれるようになっています」

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わたしたちのコミュニケーション場面に、A.I.はどんな形で関わることができるんだろう?

ビジョナリーたちは、トークを聴きながら、思いついたことを書いていきます。


A.I.はコミュニケーションを変えるか

「近い将来、機械が言語以外の情報を分析し、私たちがわかる形で示せるようになる可能性があります。たとえば、本人も無意識に行う仕草をA.I.が解析し、言葉にされない気持ちを数値で示してくれるかもしれません」

A.I.がコミュニケーションのパターンを分析し、まだ誰も気づいていない法則性を見つけたら、コミュニケーションはどんなふうに変わるんだろう。
ビジョナリーたちは様々な場面を思い浮かべます。

「私の考えがちゃんと相手に伝わる?」

「私の気持ち、全部相手に伝わったら。 困るかも・・・」

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コミュニケーションは誰のもの?

誰から誰へ、どんな技術で、それは伝えられるのか。
ビジョナリー一人ひとりが自分のコミュニケーション場面を振りかえり、これからどんなコミュニケーションをしていきたいかを改めて考えなおす、そんなセッションになりました。

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ビジョナリー、加速!

すべてのトークセッション終了しました。

ビジョナリーたちは、研究者、クリエイター、データサイエンティスト、そして科学コミュニケーターから受け取った言葉をあらためて振りかえり、腑に落ちるまで話し合います。

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そして、2030年に自分たちはどんなコミュニケーションをしていたいか、さらに対話を深めていきます。

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「離れている家族の気配を感じられるようなものが必要だよ!」

大学生と高校生がタッグを組んだあるチームは「家族のコミュニケーション」をチームのテーマに据えました。

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「私たちが高齢者を助けなければならない社会がくる!」

別のあるチームは、高齢化していく社会で自分たちは何をしたいか、何ができるか、真剣に話し合っています。

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こんな社会にしたい!

でも想い描いた未来社会のビジョンに近づくにはどう進めばいいんだろう?

そのヒントを、ビジョナリーたちはトークセッションで見つけることができました。


道を照らす者

自分のビジョンやアイデアを、より具体的に、言葉で表現できるようになったビジョナリーたち。

"まだ明らかになっていないもの"を探究する人。"まだそこにないもの"を創り出す人。日々変化するものを捉える人。科学や技術の向かう先を見極める人。いわば "先輩ビジョナリー" とも言える研究者、クリエイター、データサイエンティスト、そして科学コミュニケーターとの対話が、次世代ビジョナリーたちの行く手を照らす光になったようです。

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ときに厳しい指摘を受けて立ち止まる瞬間もありますが、そのたびにめざすビジョンを五感でたしかめ、描いた未来に近づくアイデアを深めていく次世代ビジョナリーたち。

ファイナルプレゼンテーションまで、あと1週間。

若きビジョナリーたちの前進は続きます。

その3に続く


※1『クリエイターって、どんな人?』

クリエイターと呼ばれる人々は、自分の中にある何か表現するアーティストや、目的に合った何かを創り出すデザイナーなど、"何かを創り出す人"を指します。

デザイナーとして活動するクリエイターは"こんなモノがあったらいいのに!"に応えるモノづくりのプロであると同時に、気づきのプロでもあります。日常生活の様々な場面で、多くの人が困ったり、不足を感じたりする場面を「まいっか」「しょうがないか」で片づけないで、「ここでこんなモノがあればこの場面を変えられるかも、もっと心が動くかも」という一瞬の発想を拾い上げ、それをもとにイメージ通りのものを創り出すのです。

私たちの日常生活の中で当たり前のように使っている物の形はクリエイターが使い手の気持ちを考えてデザインしたものがたくさんあります。

このプロジェクトには、アーティスト、アートディレクター、デザイナー、そしてエンジニアなど、様々なポジションで活躍しているクリエイターの皆さんが参加してくれました。

※2 『VRとAR いったいどんな技術なの?』

VR(Virtual Reality):

「仮想現実」と訳される。仮想世界をディスプレイに映しだし、自分が実際にそこにいるような体験ができる技術。ゲームやシミュレーションなど、すでに様々な場面で使用されている。以下はその例。

〇 宇宙飛行士になって火星を歩く 
〇 住宅を建てる前に設計図から再現した部屋に家具を配置してみる
〇 ゲームの中でゾンビと戦う

AR(Augmented Reality):

「拡張現実」と訳される。現実世界をもとに、その上にCGなどで作った仮想現実を加える技術。以下はその例。

〇 地図情報から得られたある場所の現実の風景に仮想現実のキャラクターをいっしょに映して、まるでその場所にキャラクターがいるかのような体験をする。
〇 現在の風景の中に昔その場所にあった建物を加えて景観を再現する。


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