映画『ドント・ブリーズ』感想

元々Twitterでしばらく前にお薦めされていて気になっていた映画で、今回お正月休みを利用してNETFLIXで視聴しました。
ミシガン州デトロイトにおいて、空き巣を働いていた三人の若者達。
一人は親に養育放棄を受けており妹といつかこの劣悪な環境と街を抜け出したいと願っているロッキー、その彼氏?で粗雑で下品なマネー、父親が警備会社に勤めており法律等にも精通していてこの三人の中ではある程度良識があると思しきアレックス。
この盗みを最後にしようと言い合いながら、娘を事故で喪い多額の示談金を保管しているというとある退役軍人の家に侵入するが、その退役軍人は盲目でありながら発達した聴覚と超人的な力で三人を追い詰めていく……という。
ホラージャンルではありますが、通して見ても所謂超常現象的なものは一切無しでした。


【以下、本編のネタバレ含む感想】

アメリカの映画において、こういった貧困層が住む街としてよくデトロイトが取り上げられている気がするんですが、そういった側面が実際に目立っているんですかね……。
私はゲームの『Detroit:Become Human』の印象が強いのですが(といってもDBHの話は2038年というそこそこ先の未来の話)、そこでも発達した技術がそこかしこに利用されている市街地とアンドロイドに職を奪われた人々の姿が目立つ住宅街……といった様子でした。
アレックスは父親がしっかりした職に就いている所為かそこまで貧困という感じは見受けられませんでしたが、ロッキーに好意を寄せているからかずるずると二人の盗みに付き合ってしまっているという感じだったのでしょうか。それともやはり彼も何かこの街というか父のもとから離れたいという気持ちがあったのか。映画を観終わった今となってはやめときゃ良かったのに……と思わざるを得ませんが。

盲目の老人の超人的聴覚が……!といった触れ込みだったので、侵入した瞬間に背中を取られて……というシーンを覚悟していたのですがそんなことは無かった。テレビをつけたまま寝ていた所為か寝室にまで侵入を許してしまう辺り結構無防備では……と思ったのですがそうでないと命がけのハイドアンドシークは始まらないか……。それでも目と鼻の先にいる盲目の凶暴な老人からどう逃げおおせなければならないかというスリルは確かにありました。

あまり気にしていなかった序盤の示談金の件でしたが、まさかその愛娘を事故で殺してしまった女性を誘拐して自分の精子と受精させていたという展開が個人的にこの映画において最もホラーだったのでは……と思っております。
愛娘を殺した罪を償わせるために誘拐して冷凍保存しておいた自分の精子で妊娠させて、自分の新しい子供をもう一度作らせるという……。
レイプはしないって言ったけど無理矢理自分の子を孕ませるのは十分レイプのようなものでは?!とか、娘を失ったからってもう一度子供を作ってもそれは失った娘さんの代わりに成り得ると思っているのか……?!とか(いやじゃあ示談金もらっちゃ駄目でしょとか)、この辺りの思考が本当に理解し難いというか狂気の沙汰の領域なのではと……正直この辺りで盲目でありながら聴覚が発達している超人的老人というホラー要素が色々吹っ飛んでしまうほどの強力な別属性が付与されてしまった気がする。

ロッキーが神に縋るシーンがありましたが神など居ないと切り捨てる老人の言葉が印象的でした……確かに軍人として視力を失い娘を亡くしている時点で神を信じていられる領域はとっくに通り越しているであろう。ロッキーの方はまだお金さえあれば妹と自由になれる可能性があるため希望があるけど、この老人に最早まともな希望は残されていないのだから……。

最終的に老人に致命傷を与え、何とか命からがら逃げ果せて妹と二人旅立つロッキーでしたが、結局友人二人は殺され間違いなく死んだと思っていた老人は一命をとりとめていたという。
妹を助けたいがためには金がどうしても必要だったし彼女にとって止むを得ない選択だったとはいえ恐らく将来この一夜の出来事はロッキーの人生の端に暗い影を落とし続けるだろうし、一方で老人も結局狂気の沙汰から来るものでありながらも一縷の望みを失くしてしまった辺り、誰も救われないという後味の悪さはあるかもしれない。


暴力的ではありますが過剰なグロテスクシーンも無く、時間も88分と見やすい映画ではあると思うのですが、数多のホラーを切り抜けているホラー鑑賞者にしてみれば物足りないかもしれない……。

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