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理想の朝をつかまえる【SS】

Good Morning!

 目覚ましの音楽が鳴って、ボーカルの息遣いの音で目覚める。起き上がると、朝はちょっと肌寒かった。大きく伸びをしてから、フローリングの床をぺたぺた歩いてカーテンを開けた。ミントグリーンのカーテンはこの前、一目惚れして買ったお気に入りだ。

 今日の天気は快晴。綺麗な青空が、寝起きの目に眩しくて染みる。ほんの少しだけ窓を開けると「にゃー」と鳴きながら、朝ごはん催促のため猫の福之助ふくのすけがやって来た。外に出て行かないよう気をつけつつ、10秒ほど外の空気を感じて、すぐに窓を閉める。早起きすると気持ちがいい。

 今日は福之助のが遅起きだった。珍しいこともあるものだ。いつもはあたしのほうが遅くて、枕もとで朝ごはんの催促を起きるまでされる。それでも起きないと、部屋を走り回る。一度、走り回ったところに慌てて起きたものだから、こうすれば起きてくれると覚えてしまったらしい。まったく、賢い猫だ。

「おはよう、福之助。朝ごはん何にする?」

 福之助の頭を撫でようとすると、見事に避けられた。さっさとごはんのあるところに向かったかと思えば、いい子にお座りをしてこちらをちらちら見ている。

 今日はゆっくりできそうな朝だ。福之助のごはんも、新しいものを出してあげよう。

 昨日、スーパーで2割引きだったのを買ってきた新しい味。いつもの味に混ぜて出してみる。気に入らないと一口も食べてくれないこともあるけど、これはどうかな。

 福之助は品定めするようにしばらく眺めてからふんふんと匂いを嗅いで、ゆっくり食べ始めた。お、良かった。お気に召したらしい。

 その愛らしさに堪らず頭をなでれば、食事の邪魔をするなと怒られた。言葉を話さなくても、何となくそんな顔をされた気がする。

「ごめん、ついうっかり。ごはん中だよね」

 さて、あたしも自分の分の朝ごはんを用意しよう。その前にテレビをつけて、BGMに流しておく。芸能ニュースであたしが外れた試写会の映像が流れていたので、そこだけは画面もちゃんと見た。この人を生で見たかったな。公開初日の舞台挨拶もきっとあるだろうから、絶対に当てなくちゃ。

 次のニュースに変わったところでキッチンへ向かった。トースターに食パンをセットして、フライパンで目玉焼きとベーコンを焼く。残りもののコンソメスープと、カットフルーツを入れたヨーグルトをお皿に盛りつける。それから、サラダも忘れずに。冷蔵庫にミニトマトが余ってたからこれも今朝出してしまおう。

 出来上がった理想的な朝ごはんをテーブルに並べていく。今日は、ばっちりだ。毎朝、なかなかこうやって準備できない。パンを焼ければまだいいほう。

 睡眠時間と朝ごはん。どっちも捨てがたいけど、どちらかといえば睡眠をとってしまうから、朝ごはんの時間がなくなってしまう。

「……お、1位だ」

 トーストにかじりついて、半熟の目玉焼きとしょっぱいベーコンを味わいながら独り言ちる。テレビ画面に映るのはあたしの星座。普段着ない色の服で好調だって。クローゼットをチェックしてみようかな。買ったはいいものの、着ていなくてどうしようか迷っている服があったはず。

 コンソメスープを飲んでほっと息を吐く。のんびりと過ごせる、いい朝だな。
 福之助が向こうでおかわりの催促をしているのが聞こえた。

 ──なんてそんな、理想の朝。

 ぼんやりする頭で思い浮かべているうちに、何度目かわからないボーカルの息遣いが聞こえてスマホを触った。
 そろそろ起きなきゃまずい時間だ。ドタドタと走り回る音とご飯を求める鳴き声が聞こえる。わかったよ、と口の中で呟いてベッドから降りた。早くしろとばかりに足元にすり寄ってきた福之助に笑いかける。

 理想の朝は、残念ながら今日も逃してしまったけど。

「おはよう、いい朝だね」

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