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「美術部のゆうれい」 本編

○高校・職員室(昼)

清水Ⅿ「美術部の廃部危機を宣告された」

 静かな職員室で、清水颯真(16)の「えっ!?」と驚く声が響く。

清水「(戸惑いながら)部活やるための人数、ぎりぎり4人いましたよね。確か、夜間の人もカウントしていいってことで。その人たちが辞めちゃったんですか?」

 小野、のんびりした口調で、

小野「1人が継続届を出さないって言ってね。新入部員も来るかどうか怪しいもんだから、部活としてはこのままだと廃部の方向になるかなあ」

清水「続けるには部員確保が必要ってことですよね……」

小野「あとは、文化祭ポスターとか選ばれたら少し猶予ができるかもね。でもほら、大石くんから聞いたけど2人はバレー部だったんでしょ? なら、今からそっちとかどうかな。バレー部も試合やるには人足りてないみたいだから喜ぶと思うよ」

清水「(苦笑して)怪我して辞めたんで。美術部がなくなるなら、部活はもう大丈夫です」

〇タイトル

○高校・教室(昼)

 教室を出ていく生徒やお弁当を広げる生徒たち。
 清水は席に座って大きなため息をつく。
 清水の隣で、カップラーメンを啜る大石和哉(16)。

清水「カズも美術部が廃部かもって話、もう聞いた?」

大石「(うなずいて)まあ、しょうがないよな。部活らしいこと何にもしてねぇし」

清水「(苦笑して)だな。ほぼお菓子食べて駄弁るしかしてない」

大石「今から軽音部とか入っとくか? 先輩にすげぇかわいい子いるってよ」

清水「へー、俺はそんな興味ない」

大石「颯真はそうだろうけどさぁ。あ、でも廃部の前に幽霊は見てみたいわ」

清水「(笑いながら)何それ。ゆうれい?」

〇同・廊下(夕)

 美術室の電気を消して、廊下に出る。歩いていく大石と清水。

大石「そういや、バレー部から今度、体育館来てみないかって誘われて、颯真の分も勝手に断っといたけど良かった?」

清水「助かる。運動部の空気感しんどいしな」

大石「それわかるわ」

 階段を降りていく2人。

清水「美術部は先輩いないみたいなもんだったし、自由で良かった」

大石「まあ、自由すぎて、何も描かなくなってたけど。せっかくだし、廃部になる前に何か描いとくか?」

清水「いいね、それ。(ポケットやリュックを確認しつつ)スマホ忘れたっぽい。取ってから帰る。また明日」

大石「じゃあな。今くらいの時間だったら幽霊いるんじゃねぇの。(にやついて)会ったら部員に勧誘しといて。まだしばらく、駄弁る場所ほしいし」

清水「りょーかい」

 清水、笑って手を振り、大石を見送ってから美術室へと戻る。

〇[回想]同・教室(昼)

 にぎやかなお昼休み。

大石「隣のクラスのやつから聞いたんだけど、真っ暗な美術室で人影を見たって話があってさ。しかも何か光ってたって。人魂とかじゃね?」

清水「……情報少なっ」

大石「何人か見たってやついるんだよ。髪長い女だったってのもあった。怖すぎだろ」

 わざとらしく自分の腕を擦る大石。

清水「(呆れて)何だそれ」

〇同・美術室(夜)

 暗い美術室。
 清水、「何もなくても夜の美術室って怖いな」と思い、中へ入るのをためらう。
 息を吐いてから中の様子をうかがうと、ぼんやりと光っているのが見えて、一瞬ぎょっとする。
 すぐに暗さに目が慣れてきて、光っているのはキャンバスだとわかる。

清水「絵?」

 と、気になって、電気もつけずに中へ足を踏み入れる。
 近づいてみれば、緑色に光っている絵。夜空の絵のように見える。

清水「……オーロラ?」

 清水、「綺麗な絵だな」と思いながら絵に見入っている。

清水「(物音にびくっと反応して)何!?」

 人影が清水に近づいていく。西野凛(18)が絵を指差して、

凛「それ、蓄光塗料使ってるから光って綺麗でしょ」

 清水、振り向く。
 顔は見えないが、髪が長いことはわかってハッとする。

清水「もしかして、ゆうれい……」

 凛、ニコッと笑う。

凛「そうそう、あたしが幽霊の正体。こんな中で動いてたら、噂になっちゃってね」

清水「何だ、やっぱただの見間違いか」

と、ホッとする。

凛「そのわりにはすごい驚いてなかった? 幽霊信じてたんだ?」

 凛が電気をつけて、お互いの姿が見えるようになる。
 パーカー姿の清水とジャージ姿の凛。
 清水、「確か夜間の部員は先輩だったな」と思い出す。

清水「美術室は何もなくても、ちょっと怖いだけです」

凛「確かに、彫刻とかもあるからね……(思い出して)あーっ、もしかして昼間の美術部? 前も見かけたことある。もう1人いるよね」

清水「はい。先輩みたいにまともに描いたことはないですけど」

凛「そっかぁ。じゃあ、廃部になっても困んないね」

 凛、筆を持ったまま寂しそうに笑う。

清水「まあ……(気まずそうに目を泳がせて)あ、俺スマホ探しに来たんですけど、あったりしませんでしたか?」

凛「あったよ。後で届けようと思ってた」

 凛、ポケットから出したスマホを渡す。
 清水、受け取って頭を軽く下げる。

清水「ありがとうございます。助かりました。絵、頑張ってください」

凛「うん、ありがと」

 背を向けて歩き出す清水。
 美術室から出る直前に振り返る。

清水「あの、1つ提案があるんですけど」

 凛、首を傾げる。

〇同・教室(朝)

 清水、登校してきた大石に昨日あった話をする。

大石「えーっ、幽霊見たのか。いいな」

 と言いながら、空いていた清水の前の席に座る。

清水「綺麗な絵を描く人だった。で、文化祭のポスター権利勝ち取って、とりあえずの成績残して、何とかしばらくは廃部にならないようにしようって話になった」

大石「そっかそっか……って、は? 何て?」

 清水、文化祭ポスター募集についてのプリントを大石へ渡す。

清水「あんな真面目にやってる人の居場所がなくなるのはもったいないじゃん」

大石「真面目にやって、居場所なくなったもんな俺ら」

清水「だらだらやっても居場所なくなりそうだから、また真面目にやってみるか。って言っても、ポスター描いてくれるのは西野先輩なんだけど」

大石「そら、俺らが描いたところで落ちるだろうし」

清水「うん。先輩がやってみるって言ってくれた。期限、来週でぎりだからみんなで案出し合おう」

大石「おー。噂の幽霊さん、楽しみだわ」

清水「お前が見ると減るから見るなよ」

大石「何でだよ!?」

 清水、クスクス笑う。

〇同・美術室(夜)

 机にお菓子を広げてある。すぐに打ち解け、盛り上がる大石と凛。

凛「へぇ、2人ともバレー部だったんだ」

大石「そうなんですよ。けっこー真面目に頑張ってたんだけど、先輩から目をつけられて居づらくなったんで辞めました。だからって、颯真から高校は美術部にするって言われたときびっくりでしたよ」

 と、お菓子を口に入れる。

凛「何でいきなりまた美術部? うち別に部活入らなくてもいいよね」

大石「美術の成績が良かったから、入ってみようかなって思ったみたいで。俺も何となく一緒に入部したんです。初めの頃はデッサンとかしてたけど、そのうち、先生来ないし自由にだらけてって……気づけば廃部危機です」

凛「ほぉ。じゃあ、絵は描けるんだね」

 清水、紙パックを3つ持って美術室へ入ってくる。
 大石、片手を上げて、

大石「お疲れ」

清水「自販機、地味に遠かった……」

 清水、大石と凛にそれぞれ紙パックを渡す。

凛「ありがとう。じゃんけん勝ってよかったぁ。じゃ、どんなポスターにするか決めてこっか」

 凛、ルーズリーフに文化祭ポスターイメージを描き始める。

〇同・美術室(夕)

 凛、両手を振って入ってくる。

清水「早めに来てもらっちゃってすみません」

大石「今日は、俺のおごりでたこ焼きあるんで」

凛「わーい。バイト早上がりの日は全然来れるから気にしないで」

 たこ焼きを頬張りつつ、真剣にポスターについて案を出し合う3人。
 凛、ルーズリーフに描いていた内容を消しゴムで消して描き直す。

〇清水家マンション・颯真の部屋(昼)

 清水、椅子に座ってスマホで大石と凛とのトーク画面を見ている。
 凛から送られてきた文化祭ポスターイメージの画像を見て、清水もルーズリーフに絵を描く。

〇スーパー・バックヤード(昼)

 凛、お弁当を食べながら、スマホで清水から送られてきた画像を確認する。
 少し考えて【その案で描くね】と返事を送る。
 大石と清水から、同時に【よろしくお願いします】と送られてきたのを見てふっと笑う。

〇美術室(夜)

 凛、画用紙に絵を描いていく。

〇高校・廊下(夕)

 清水と大石が教室から出ると、手首に包帯を巻いた凛が手を振っている。

清水「え、その手……大丈夫ですか?」

凛「(包帯を巻いた手を胸のあたりに上げて)ごめんね。実は昨日、2人が帰った後、派手に転んでケガしちゃった。しかも、転んだときに描いてた絵に絵の具をぶちまけてダメにしちゃった……」

大石「(うろたえながら)その手じゃ、描くの無理そうですね」

凛「あ、でも筆持つくらいなら何とか。(しゅんとして)ただ、強く持てないから上手くは描けないかもしれないのと、もう明日までだし間に合うかどうか」

清水「(優しく笑って)無理しないで、お大事にしてください。むしろ、俺らが何もできなくてすみません」

凛「そんなのは全然っ! ほんとにごめんなさい。ケガ治ったら、他のことで頑張るからね!」

 とぼとぼと落ち込んだ様子で去っていく凛の背中を見つめる清水と、悔しそうな大石。

〇同・美術室(夕)

 凛、汚れて滲んだ絵を眺める。

凛「これじゃ、上から塗ってもだめか」

 絵をゴミ箱に捨てて、美術室を後にする。

〇ファミレス(夕)

 賑やかな店内。ハンバーグを食べる大石と、飲み物のみの清水。

大石「ケガしたら、しょうがないよな」

清水「俺らが描いたところで出来上がりは想像つく」

 清水、テーブルの上で拳を握りしめる。

大石「色塗るだけとかならな。さすがに下書きからとか画力が足りねぇわ」

清水「次なんかあるまでに、練習しとくくらいしかできないよな」

〇駅のホーム(夕)

 清水、ぼんやりと電車を待っている。

清水M「バレー部は怪我をして辞めたのではなく、本当は居場所がなくなって辞めた。真面目に頑張っても、先輩たちから好かれなかった」

 清水、来た電車に乗ろうと歩いていく。

清水M「でも、西野先輩は違う。真面目に頑張ってて、ろくに描かない俺らにも優しかった。あの人の居場所は、まだ守れるだろうか」

 と、電車に乗らず踵を返す。

〇高校・美術室(夕)

 清水、息を切らして中に入ると、すでに電気がついている。

 大石が「よっ」と片手を上げる。

大石「良かったわ。俺だけ張り切っても、さすがに颯真より下手だしどうしようかと思った」

清水「(笑って)俺が下書きするから、カズは色塗るの手伝って」

大石「任せろ。色塗りは……たぶんそれなりにできっから」

清水「それなりかよ」

 大石と清水、腕まくりをする。
 清水、画用紙を持ってきて鉛筆で薄く描き始める。

〇同・美術室(夜)

 清水、神妙な面持ちで机に腰かけている。

N「文化祭ポスター選考、結果発表日」

 凛、入って来るなり、辺りを見回す。

凛「あれ、大石くんは?」

清水「今日バイトになったらしいです。ポスター、いい線いってると思ったんですけどね」

凛「だめだったね。清水くんと大石くんの力作、あたしは好きだったよ」

清水「(笑って)まさかのパソコンでデザインされた作品でしたね」

 凛、清水が座る隣の机に腰かける。

凛「ね。これからリベンジできるもの、あるかなぁ」

 清水、俯いて何も言えない。
 夏帆、美術室に入ってきて、

夏帆「あの、入部って今からでもできますか?」

清水「(驚いて)えっ、できますけど、どうして……?」

夏帆「最近、美術室が電気ついてるけど授業じゃなさそうだからずっと気になってて。そしたら、美術部がちゃんと活動してて、文化祭ポスターにも応募したって聞いて。今までちゃんと活動してないと思ってたけど活動してるなら、わたしもやりたいなと思って来ました」

 清水と凛、顔を見合わせる。

凛「やったー! 廃部回避だ!」

清水「よっしゃー!」

 戸惑う夏帆をよそに、ハイタッチをする2人。

〇コンビニ・レジ(夕)

 人がいないコンビニ。大石、こそこそとスマホでトーク画面を確認する。

大石「(呟くように)俺も混ざりたかったな……」

 画面には【美術部存続決定!】の文字と、清水と凛、夏帆のスリーショットが送られてきている。

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