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「書かねばならない」という思いについて

時々、そう思う瞬間がある

それは、きっと私の心が揺れた瞬間に思うことで
「吐き出さねば抱えていられない」
という感情の時もあれば、
「心躍ったこの瞬間について誰かに知ってほしい」
という感情の時もある

概ね、後者の場合はTwitterこと現Xの140字に
なんとか言葉をはめ込んで、
ギリギリいっぱい詰め込んで、
時には2つに分けてまで書いて、
鍵のかかった私の小さな世界の内側に招き入れた人にだけ
こっそりと、ボトルメールのようにTLの波に送り出す

その時の言葉は、よく言えば詩的であり、
どこか不完全で、それでいて私の
「ねぇ、こんなことがあったの」
「これ、いいでしょう?」
「見て見て!聞いて聞いて!」
という心を満たしてくれるものとなっている

「気取った文章だな」と思うこともあるし、
後から見返して恥ずかしくなる時もある

それでも、私の選ぶ言葉はいつも綺麗で、
私は私の紡ぐ言葉が好きだ

そう、今日のこの気持ちもTwitter(現X)に書くなら
きっとこうだろう

「カーテンがふわりと揺れ、微かに金木犀が香る
 手元を照らすライトはお気に入りのすずらんのアンティークランプ
 喫茶店のオリジナルブレンドの紅茶にお砂糖を一杯
 ピアノ曲ばかり集めた私のプレイリストをかけながら、
 ゆっくりとページをめくる午後
 読むべき本は読むべきタイミングでやってきた」

でも、今日「書かねばならない」と思ったことは、
こんないつでも書けるようなものではない

死ぬまで生きる日記 土門蘭 著 2023年

この本は、タイトルや帯にある通り
「死」がひとつのキーワードになっている

「死にたい」という感情を長らく抱えてきた彼女は、
病院に行ってみたり、薬が飲めなかったり…
そして辿り着いたのか、カウンセリングだった

カウンセリングの過程で彼女が思ったこと、
カウンセラーから勧められて取り入れてみたこと、
章を追うごとに『螺旋的に変化していく』
(「螺旋階段を登るように」という言葉を
 本書に出会う前から私自身も使ってきたので、
 この表現に深く頷きながら読んだ)
彼女について描かれている

前提として、私の背景は彼女のそれとは異なる
けれど、彼女がこの本の中で語った
「強い不安感、恐怖、そして罪悪感」
という感情はよく知っている
(もちろんその時の彼女の感情と私の感情が
 同一ではないことは理解している)

今もまさに、先の見えない不安、恐怖、
向うべきゴールは遠くに見えているのに
そこへどうやって行けばいいのか分からず、
一寸先が闇のように感じ、泣きそうになりながら
なかなか一歩を踏み出せず、幾度となく二の足を踏み続け、
もはや地団駄を踏んだようになっている
そんな状態でいることに対する罪悪感も感じている

しかしながら、発作のように
「死にたい」という感情に強く苛まれたことはない
彼女が背負ってきたもの、抱えてきたものは、
もちろん私が背負い、抱えてきたものとは違う

最終章を読み進める中で、彼女が昔過ごした
自身の誕生日の思い出について書かれていた文章があった

私は唯一、そこで泣いた
「あ、泣きそう」
そう思いながら、もうそう思った時には遅くて
涙は両頬を重力に従って流れ落ちていった

私もその時、似て非なる、だけど似ている、
そんなかつての私の記憶が、感情が蘇り、
気づけば静かに泣いていた

私もまた、幼い私が「母に捨てられるのではないか」と恐怖し、
「どうして妹は連れていくのに私には選べと言うの?」
「なんで妹だけ?」「私はいらないの?」
そんな、いろんな感情を飲み込んで(正しくは、その瞬間は
その気持ちにさえも気づけていなかっただろう)、
縋る思いで「お母さんについていく」と言った日のまま、
7歳の私のまま、そこに私の一部を残してきたかのように、
まだそこにいる

祖父母の助けもありながら、とはいえ女手一つで
最後は私が望んだ大学院まで進学させてくれた母
自分の命と娘の命が天秤にかけられるなら、
迷うことなく私たち娘を選ぶと言う母
私がつらく、苦しい時、必ず味方でいてくれ、
私を傷つけるものに怒り、守ってくれる母
元気な時にもずっと気にかけてくれていて、一番に大切なのだ、と、
どんな選択をしても私が幸せならいいと言ってくれる
私の幼い時の記録を見ていたら、いかに望まれて生まれてきたのか、
愛されてきたのか、ひしひしと伝わってくる

少し離れて暮らす今、母との距離は
ちょうどいいものになった
妹はまだ、そう、あの時の嫉妬が残っていて、
彼女との関係はうまく構築できず、
好きになれずにいるけれど

いまもこれを書きながら、涙は止まらない
こんなにもたくさん愛されているのに、
大事思ってくれているのに、
大切にしてくれているのに、
こんなことを思ってごめんなさい

でもね、大好きだから、
疑うことさえ知らずに当然のように信じていたから、
大人になった今だから分かったことなんだけどね、
あの時本当に傷ついたの

この感情は、私にとって
「書かねばならない」ものだったの

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