見出し画像

自分をみっともないと思った夜の話

 突然だが、私は今自分のことをとても恥ずかしく思う。その理由は先ほど母から「男に飢えている」と言われたからだ。なぜそんなことを言われてしまったのか。

 親に恋愛の相談はしないと決めているので深刻な話をしたつもりはない。母から「この辺に住んでいる多くの女の子は結婚するまで実家にいる」と言われたので「実家にいたら婚活の動きが取りにくいし余計に結婚なんかできなくない?」と軽い気持ちで言ったのが原因だった。いや、今思えばそれだけが原因ではないだろう。振り返ると自分が大学に入学してからというもの、言葉の節々に「異性との接触がないこと」への不安をにじませていたと思う。親との会話でも、友だちとの会話でも。

 私は中学受験をし、中高6年間を私立の女子校で過ごした。その頃は恋愛になど全く興味はなく、むしろ小馬鹿にしていたところがあったと思う。そして、男に頼ることなく自分で自分を幸せにしている私のことが好きだった。周りが「大学生になったら素敵な彼氏が欲しい♡」といった会話に花を咲かせる中、私は女子大に進学を決める。出会いを求めてインカレサークルに入るなんてことはもちろんなかった。

 しかし、高校時代の友人たちが共学の大学に入り、男友だちや彼氏を作るのを見ていつの間にか不安を募らせるようになってしまった。正直なところ、「今」恋人が欲しいという気持ちはほとんどゼロに近い。周りに合わせて「学生時代のうちに恋愛したかった〜」なんてことを言ったこともある気がするが、本当のところは今の自分が付き合うなんて全く想像できない。むしろちょっと気持ちが悪いような気もする。クリスマスを一緒に過ごす人がいなくて寂しいとか、ラブラブなカップルを見て嫌気が差すといった気持ちが未だに分からないくらいだ。

 では私は何が不安で不満なのだろうか?思いつく限り書き出してみよう。①ずっと女性ばかりの環境にいる自分は世間知らずなのではないか?、②今はよくても今後の恋愛や結婚に支障が出るのではないか?

 ……もっとたくさん悩んでいると思っていたが、いざ書き出してみると全てこの二つに集約されるようだ。悩みというのは書き出してみると自分の中で整理されるということを身を持って実感した。ちなみに現時点で彼氏いない歴=年齢であることを恥じているとか、自分自身に魅力がないのではと不安になっているいうことは全くない。では書き出した二つの悩みを一つずつ深掘りしていくとしよう。

 まず、①ずっと女性ばかりの環境にいる自分は世間知らずなのではないか?、という悩みについてだ。結論、これに関しては後からいくらでも取り返しがつくだろう。そういえば私はスマホを持たせてもらうのが遅く、SNSのことなど世間の流行が全く分からないというコンプレックスを中高時代ずっと持っていたのだ。それが今となってはTwitterのフォロワー2000人超え!インスタも人並みには使いこなしているしこのコンプレックスはすっかり解消されたのだった。

 そう思えば少しくらい周りに遅れをとったってそれが何だ?という感じである。社会人になってからは男性と関わることもあるだろう。これから世界を広げていけばいい話だ。それに、Twitterで多くの人と繋がったり年間何十冊もの本を読んだりしている私の世界はきっとそこまで狭くないぞ。知らんけど。

 次に、②今はよくても今後の恋愛や結婚に支障が出るのではないか?、という悩みについてだ。これが厄介な曲者である。「彼氏がいなくて寂しい!今すぐ彼氏が欲しい!!」という悩みであればまだ簡単な話だ。マッチングアプリなり何なりで恋人を作る努力をすればいい。まぁそれも神経をすり減らすので辛いけれども……。

 繰り返すが私は「今」彼氏を作りたいわけではないのでマッチングアプリで悩みが解消されるわけではない。実際にマッチングアプリを入れてみたこともあったがコレジャナイ感が強すぎて半日でやめてしまった前科もある。ただ、今はよくても一生恋人がいない人生は嫌だ……という漠然とした不安が私を悩ませるのだ。

 大学生になると恋バナする機会も増えるが、初恋の経験もなく好きなタイプも分からない私は話すことなど当然なくいつの間にか私のことは抜きで話が進んでいく……そんなときに、このままで私は将来大丈夫なのだろうか?という不安が頭をよぎる。今後恋愛や結婚をしたいと思ったときはどうすればいいの?男性と話したことすらほとんどない私が恋人を探す?方法はマッチングアプリ?婚活パーティ?それともお見合い??恋愛経験ゼロの私がそれでうまくいくの???そんな不安が頭の中をぐるぐる、ぐるぐる……。

 バッサリ言ってしまえば、今悩んでも意味がない。これに尽きる。そうは分かっていても悩んでしまうのが人間というものである。いや、違う人もいるかもしれないが少なくとも私はそうだ。

 さて、話を冒頭に戻そう。母はそんな私のことを「男に飢えている」と言ったのだった。既に書いた通り私はもともと男に頼ることなく自分で自分を幸せにしている私のことが好きだった。そんな私が「男に飢えている」と言われるまで異性のことで悩んでいるとは……!ここまで読んできた人は何を今さらと思うだろうが、そんな風に言われるほどひどい状態だとは露ほども思っていなかったのである。自分のプライドがガラガラと崩れる音がした。

 異性のことでここまで頭を悩ます今の私を、過去の私が見たら間違いなく軽蔑するだろう。自分のことが恥ずかしくて恥ずかしくてたまらず、一旦気持ちを整理しようとこの文章を書き始めた。書き始めると自分が何に悩んでいるのかが可視化され少し気持ちが落ち着いたような気がする。確かに私は「男に飢えている」と言われても仕方がないほどくだらないことで悩んでいたのだ。

 さて、先ほど「異性のことでここまで頭を悩ます今の私を、過去の私が見たら間違いなく軽蔑する」と書いた。これは間違いなく事実だが、では私は過去の私より劣っているのだろうか?

 確かに過去の私の方が自信に満ち溢れていたと思う。しかし、恋愛に悩む人や恋愛そのものを小馬鹿にし続けた私は人として優れていると言えるだろうか?今の私はしょうもないことでくよくよ悩むみっともない人間で、そんな自分を恥じている。しかし、そんな自分の弱さを受け止めて前に進むことで他者の弱さにも優しくなれるかもしれない。過去の私が「そんなことで悩むなんでくだらない。理解できない」と一蹴していたところを、今の私なら相手の悩みに歩み寄ることができるかもしれないのだ。

 くだらないことで悩んだあの夜も、自分を恥じて涙を流したこの夜も、きっと私の糧になる。そう信じて私は明日からも生きていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?