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【日記】ラーメン屋の行列に並んでみた。

 三連休真ん中の日曜日。暇を持て余していた私は六本木の美術館に行くことにした。素晴らしい日本の芸術を堪能した後、コラボパフェを食す。ほんの寸刻前に観た芸術品のように上品なパフェに満足した私はこう思った。「あ〜!ラーメン食べたいな〜!」

 時刻は午後3時。軽い朝食を食べてから家を出て、昼ごはんも食べずに立ちっぱなしで美術品に向き合っていた私は、パフェだけで満足することができなかったのだ。あま〜くなった口の中は、こってりしょっぱいラーメンを求めている。しかし、そのとき私がいたのは格式高い六本木。ラーメンの店などないかとあまり期待せず食べログで検索したら、星3.9の名店がすぐ近くにあることに気がついた。昼食にも夕食にも中途半端なこの時間、もしかしてこれはチャンスなのでは?と思い私はその店に向かうことにした。このとき軽い尿意を覚えていたが、まぁそこまで急を要するわけでもないと無視したことを、後で後悔することになる。

 東京ミッドタウンを出て、軽く迷いながらも5分ほどで店に到着。15時過ぎという中途半端な時間にもかかわらず、十数人ほどの行列ができていた。結構並んでいるなと思ったが、ラーメン屋なら回転は速いだろうし、そこまで時間はかかるまいと列の最後尾に加わる。私のすぐ後に並んだチャラそうな兄ちゃん3人組も、「30分はかかんないっしょ」と言っていた。

 その30分が経過。列はほとんど進まない。後ろの兄ちゃんたちもおかしいと思ったのか、1人が「ちょっと前の方確認してくるわ」と店の入口の方に向かった。すぐに戻ってきてこう言う。「全然変わってねー!列が進まないだけでちょっとは人減ってるかと思ったんだけどなー!」

 そのとき私は本を読みながら待っていたのだが、並び始めた頃は微かだった尿意が、だいぶ激しくなっていた。尿意に気を取られ、小説に集中できなくなる。私は本を鞄にしまった。

 少し列が進む。列が進むのはありがたいことだが、私の立ち位置は換気扇だか室外機だか、何やら熱風が出る機械(この手の物に私は詳しくないのだ)の隣になった。今は7月半ば。幸い日差しはほとんど差しておらず、この時期にしては恵まれた天候だったと思う。しかし、それでも真夏に熱風に吹かれ続けるのは拷問でしかない。さらに、汚い話になるが私はこのタイミングで尿意だけでなく便意まで催した。熱風による暑さと、尿意&便意による寒気(?)の狭間で私の闘いは続く。

 列に加わって1時間が経過した。後ろの兄ちゃんたちは、「もう1時間並んだんじゃね?マジ?こんなことある?!」と騒いでいる。私も尿意と便意がそろそろ限界だった。もう諦めようかという考えも脳裏を掠め、後ろを振り返ると15人ほどが列を成していた。15時から並び始め、そのときは16時。夕食には些か早い時間帯だが、それでもこの行列とは、さすが食べログ3.9の名店。気づけば私の前はあと数人である。ここまで来たら頑張ろうという気持ちになった。

 しかし、10人程度の行列に1時間以上かかっている店である。あと数人といえども何分待たされることか。それまで私の膀胱と肛門は耐えられるのだろうか。なんとか尿意と便意を紛らわそうと、私はnoteアプリを起動した。気軽な気持ちで並んだラーメン屋の行列でこんなに大変な思いをすることになるとは思っておらず、せっかくならそれを記録しておこうと思ったのだ。そうして書き始めたのがこの記事である。

 アウトプットとは偉大な作業だ。あれほど私を苦しめた便意も尿意も、この記事を書いている間は比較的和らいでいた。以前塾講師をしていたとき、授業の間は暑さも寒さも便意も尿意も喉の渇きも眠気も、ありとあらゆる全ての感覚が失われていたのを思い出す。塾講師の私は目の前の授業に全神経を注いでいた。そんな中、気怠げな子どもたちから「せんせートイレに行きたいでーす」「暑いでーす」「えー私は寒い」「水飲んでいいですかー?」などと言われると軽い怒りを覚えたものだが、それだけ私の授業がつまらなかった結果なのだから致し方あるまい。完全に私の力不足であった。

 閑話休題。この記事を書き始めてから、店の中に案内されるまでは案外そこまで時間を要しなかった。15分もかからなかったのではなかろうか。むろんたったの15分弱でこれほどの長文記事を書き上げられるわけがなく、そのとき書いたのはちょうど行列に加わるくらいの部分までだ。それ以降は店を出た後に書き加えている。

 さて、トータル1時間15分ほど並んだ私はついに店に通された。店内は思ったよりも狭く、カウンター席が9席あるのみである。なるほど、これなら多少時間がかかっても致し方あるまい。あらかじめ心に決めていた「柚木塩らぁ麺」の食券を購入し、席に座る。食券を店員さんに渡したあとは、もちろん速攻でお手洗いに行った。

 お手洗いから戻ると、私とほぼ同時に入店したカップルは既にラーメンを啜り始めていた。私が戻るタイミングを見計らっていたのか、私にもすぐにラーメンのどんぶりが渡される。せっかくだから写真を撮りたかったが、そこはさすがの六本木。ラーメン店もなかなか高級感に溢れており、その中でパシャパシャやるのも憚られたので、写真を撮ることなく黙ってラーメンを口にした。

 最初の一口を啜ると、口の中にふわっと柚子の風味が広がった。個人的にはもう少しこってりした味付けの方が好みだが、食べログ3.9も納得の食べやすい味である。わざわざ別添になっていたトッピングのネギやお肉もおいしい。しばし私は目の前のラーメンを食すことに集中した。

 ラーメンは5分程度で完食。せっかく来たので「トリュフを添えた濃厚卵かけごはん(400円)」というのも気になったが、事前にパフェを食べていたのもあり、かなりお腹いっぱいになったので諦めた。ここまで並ぶのであれば、追加で卵かけご飯も食べられるくらい万全の状態で挑めばよかったと少しだけ後悔。席を立つとき、店員さんたちがやわらかく「ありがとうございました」「またぜひお越しください」と言ってくださったのが印象に残っている。六本木のラーメン屋はいわゆる厳つい雰囲気とは縁遠く、女性一人でも入りやすかった。

 さて、私が店に滞在していた時間は10分もあったかどうかといったところだ。注文してからラーメンが提供されるまでの時間も短かったし、一体なぜ1時間以上待たされたのかは疑問である。先ほど席は9席あるのみと書いたが、逆に言うと9席はあったのだ。いや、私の感覚がおかしいだけで実際はそれくらい時間がかかるものだろうか?席数は9席、1人あたりの滞在時間は多く見積もって20分、十数人の行列が捌けるには何分かかるでしょう?という問題があったら一般的にはどういう答えが導き出されるだろうか。まぁこれを深く考えるのはやめにしよう。

 こうして私のラーメン行列物語は幕を閉じた。私の長文ぐせは以前から重々承知しているが、ラーメンの行列に並んだだけの話で2,500字を超えているとは……と苦笑しているところである。ではそろそろこの記事のまとめに入ろう。

 正直今回のラーメンは、確かにおいしかったが1時間以上並ぶ価値があるとは思えなかった。しかし、今回の経験から得た知見が四つある。

一つ、ラーメン屋の回転が速いとは限らない。
二つ、列に並ぶ前にトイレは必ず行っておくべし。
三つ、尿意等を逸らすにはアウトプットが最適である。
四つ、食べログ3.5以上の店に行くときは、お腹を空かせて万全の状態で行くべし。

 このわずかな知見のために私は1時間以上暑さや尿意等に苦しんだわけだが、どうせ暇だったわけだし、たまにはこういう休日も悪くない。

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