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省エネ建築物に空調設備がどう影響するか実証してみた!

どうもこんにちは、沖やんです。
今回も設備設計オタクの回をやります。
今回は、建築物省エネ法で空調設備がどのように影響するか、どれくらい重要かを解説します。


建築物の省エネ性能向上の必要性

人間が生活していくにはエネルギーが必要です。(当たり前の話)
建物を利用するにもエネルギーが必要ですが、時代を経るにつれて建築物における必要エネルギー量が増加していること、昨今の地球温暖化を抑制する必要があることを鑑み、建築物の消費エネルギー量を削減する必要があります。

建築物の消費エネルギー量を削減する法令「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」もあり、現在の建築物(特にこれから新築する建築)ではこれに適合する必要があります。

建築設備で最も消費エネルギー量が多い設備は

ところで、建築物の消費エネルギー量のうち、各設備がどれくらいエネルギーを使うのかというと、ほぼすべての建築物で空調設備が最大割合を示します。業務する場であるオフィスビルでは空調設備がおよそ50%を占めます。(建築物省エネ法における地域区分の6地域における値。東京都などは6地域に含める)

つまり建築物では、空調機器が最もエネルギーを使う設備なのです。

事務所モデル建築物の設備ごとの基準消費エネルギー量
引用文献:モデル建物H28_基準値計算結果_v4_20200916 (kenken.go.jp)

空調機器の省エネ性能の実証

ということで、空調設備が省エネ建築物にどのように影響するかを実証したいと思います。

以前空調機器の省エネ性能比較で検証した、この記事の事務所ビルで、それぞれの空調機器で省エネ性能を比較します。
(ご覧になってない方は以下のリンクからご覧ください。)

以前と同様、以下の設備機器で比較します。
●店舗用パッケージエアコン 冷房能力11.2kW×10系統
●ビル用マルチエアコン 冷房能力56.0kW×2系統
●ガスヒートポンプエアコン 冷房能力56.0kW×2系統
●空冷モジュールチラー 冷房能力118kW×1系統
●吸収式冷温水発生機 冷房能力140.7kW×1系統

今回は「非住宅建築物に関する省エネルギー基準計算プログラム」を使って、省エネ性能の指標となる「BEI」の値で比較します。
基準となる建物(モデル建物)と比較して、値が小さいほど省エネ性能が高いことを示します。
ただし、モデル建物法による計算(事務所モデルを採用)のため、計算結果は「BEIm」で表示されます。

なお、建物の外皮、換気設備、照明設備、給湯設備、昇降機(エレベーター)は同じ条件で比較しています。

https://building.lowenergy.jp/

 このプログラムで計算した結果が以下の画像になります。

エネルギー消費性能評価まとめ

注目すべきところは合計BEImと空調BEIです。空調BEIが合計BEImより高く、空調BEIの値によって、合計BEImの値も変動しています。

比較的小能力の店舗用パッケージエアコンが、最も省エネ性能が高いことを示しています。
逆に能力の大きい吸収式冷温水発生機は、空調BEIが1.0を超え、合計BEImでも最も高い値を示しています。

今回の計算結果の考察と、ZEB建築物について

各空調設備機器の考察

空調設備機器の1台当たりの能力を、あらためてここで比較します。

↑小能力
●店舗用パッケージエアコン
●ビル用マルチエアコン
●ガスヒートポンプエアコン
●空冷モジュールチラー
●吸収式冷温水発生機

↓大能力

以前の記事より

今回の検証において、店舗用エアコンの場合は10系統に分けられていますが、各室内機の電源を制御することで、使用していない系統の消費電力を最小限にすることができます。このためBEIを下げることができます。

逆に空冷モジュールチラーや吸収式冷温水機は1系統でまとめられているため、室内機が1台でも動けば室外機を動作する必要があるため、消費電力・消費ガス量を最小限にしにくいということがあり、それがBEIの高さにつながったとみていいでしょう。

ビル用マルチエアコンとガスヒートポンプエアコンはそれぞれ2系統ずつなので、上記の中間の値を示しています。

また、以前の検証でガス使用空調機器より電気使用空調機器のほうが、効率が良い考察を出しました。

電気式空調が効率良い理由
電気式空調が効率が良い理由、それは電動機(モーター)とインバータが技術競争の結果、めっちゃ技術的に発達したためです。としか言いようがない
そりゃみんな電気式空調になるし、分野は違うけど電気自動車を推してくるわけですわ〜〜〜

以前の記事より

ここでもガス使用空調機器より電気使用空調機器のほうがBEIが小さい結果、つまり効率のいい結果が出ています。

ZEBを目指すには

より省エネな建築物を目指すために、一つの指標として「ZEB」(net Zero Energy Building)があります。一言でZEBと言っても、省エネ性能BEIの値によっていくつかのランク付けが以下の通りあります。

●「ZEB Ready」BEIが0.5以下の建物
●「Nearly ZEB」創エネルギー量を含めてBEIが0.25以下
●「ZEB」創エネルギー量を含めてBEIが0.00以下
(この他、10000㎡の建物で適用される「ZEB Oriented」がある)

ZEBの定義 | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」 (env.go.jp)

「ZEB Ready」「Nearly ZEB」「ZEB」とも、創エネルギー量を含めない分のBEIが0.5以下とすることが必須ですが、前述の通り空調設備が最もエネルギーを使う設備です。

また、換気設備と照明設備はそれぞれ以下の革新的な省エネ機器を使えます。

●換気設備:全熱交換器(室内の空調された空気と外気の熱を再利用する機器)
●照明設備:LED照明(蛍光灯より少ないエネルギーで利用できる機器)

しかし、空調設備には革新的なものはないため、地道に消費エネルギー量を絞っていくことになります。

今回の検証結果でも、換気設備・照明設備は合計BEImより小さい値を示していますが、全熱交換器とLED照明を使用した結果、このような値を示しています。
給湯設備とエレベーターは高い値を示していますが、利用頻度はそれほど多くないため、合計BEImへの影響は少ないといえるでしょう。
結局のところ空調設備のBEIが合計BEImに最も影響すると言っていいでしょう。

まとめ

今回の省エネ性能(BEI)比較検証では、空調設備機器に焦点をあてて検証しました。
建物全体で省エネを目指す必要はありますが、建築物の消費エネルギー量が最も多い空調設備が、建築物の省エネ性能に最も影響を与えると言えます。
より省エネを目指す方法の一つとして、店舗用パッケージエアコンを使用して空調の系統をできるだけ細かくすること考えられるでしょう。

しかし、大規模建物の場合、設備機器スペースが大きくなってしまうため系統分けを細かくすることが難しくなります。この場合は以下の方法が考えられます。

●コージェネレーションシステムで熱使用効率を上げる
●地中熱ヒートポンプなどの地中熱利用

とはいえ、建物ごとに省エネの手法は異なるため、ここが設備設計において難しいところです。
よりよい省エネ手法を提案できることが、設備設計者に求められることであり、提案できるとよい設計者と言えるでしょう。

以上、今回の記事でした。感想などをいただけるとありがたいです。コメントお待ちしています。

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