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思ってたんと違うカミングアウト

パートナーの家族

私のパートナーは韓国人、身体が男性、心は女性、恋愛対象は女性だ。私はパートナーが男性として生活していた時に出会い、結婚前に女性であるとカミングアウトを受けた。私の恋愛対象は男性だが「問題ない」と答え、出会って8ヶ月で結婚した。

パートナーの家族は父・母・兄の3人。父と母は昔、飲食店を経営し根っからの仕事人間だったそう。ご飯はいつもお客さんのために作った料理のおすそ分けを食べて、いわゆる自分のために作ってくれた「母の味」はあまり記憶にないと話していた。特にお父さんとはあまり会話もなく、家族で外食に行っても勝手にメニューを決めて「さぁ、食え」というオラオラタイプの人だと聞いていた。

そんな義理の両親と結婚前に一度だけビデオ通話で挨拶をした。その時もお義父さんはほとんど話はせず、私が挨拶をした時だけ少し微笑んでくれた。パートナーは「両親には絶対カミングアウトしない」と言っていたので、その時は終始緊張した表情で挨拶も早々に終わらせた。私の両親には事情を話して承知済みだが、パートナーは家族の誰にもカミングアウトしておらず「絶対理解してもらえない」と言っていた。

故郷へ

それから半年ほど経って韓国への渡航規制が緩和されたので、韓国が大好きな私はさっそく航空券を買った。両親に久しぶりに会うパートナーはてっきり男性の格好をして行くかと思ったら、「もう嘘は付かない、男性の服なんか着たくない」とあっさり両親へのカミングアウトを決意。その瞬間、嫁としての緊張の初対面なんかより、とんでもない修羅場になるんじゃないかと悪い予感がした。おぉ、マジかよ...

実家に帰る前日くらいにお義母さんに「今、女性として生きている」とサラッとメールで伝えたらしい。当日だとビックリしすぎて倒れた大変だからだ。母の返信は「何を話してるか分からないから、当日話そう」とのこと。うん、そりゃそうだ。

緊張のご対面

そんなこんなで実家訪問の当日。
パートナーは肩くらいの茶髪を一つに結びにし、マーメイドのロングスカートで、私より濃い目のいつものメイク、外見は完全に女性で訪問した。お義母さんはいったいどんな反応だろう。韓国ドラマだと、たいがいオモニ(母)はウリアドゥル(息子)に何かあったらすぐ失神するけど本物もそうなのか...

そしていよいよ初のご対面。お義母さんはパートナーの姿を見るなり、、なんと爆笑。「あなた、そんなに変わっちゃったら誰か分からないじゃん!!」と。そして私を見るなり、よく来たね~とギューっとハグしてくれた。

(えぇぇぇぇぇぇ、なんか思ってたんと違うぅぅぅぅぅ)

さらにお義母さんはさすが飲食店をやっていただけあって、サムギョプサル、チャプチェ、大きな焼き魚などたくさんのご馳走を用意してくれていた。もちろん突然「娘」になって帰ってきた我が子に複雑な気持ちもある様子だったが、「あなたが幸せならいい」と言って、久しぶりに共にする食事を楽しんでいた。

そして仕事が終わり飛んで帰ってきたお義父さんとのご対面。一気に緊張が走る。我が子の顔を見るなり「なんて格好してるんだ!」と殴りかかる…と思いきや、黙って向かいに座り「いつからだったんだ?」と落ち着いて話すお義父さん。え、これも思ってたんと違う...

パートナーが言うには、キッチンのほうでお義父さんお義母さんは二人で「こんな大事なことを一人でずっと抱え込んでいたなんて苦しかっただろう」と話していたそう。お義父さんはため息こそ多かったが「お前が幸せならいいんだ」と、息子のスカート姿を見ながら必死に受け止めようとしていた。なんだ、このめちゃくちゃいい家族は。

緊張のご対面 part2

そして次の日は現地ガイドと運転手役をやって、思いっきり私達をもてなしてくれたお義父さん。しかしこのまま平和に終わると思いきや、お義母さんから「ソウルにいるお兄さんにも全部話したから、明日会ってご飯を食べておいで」と言われ予想外の第2ラウンドが始まることに。

私たちはソウルに戻り、お兄さんに会った。パートナーから「もしかしたらお兄さんが一番理解してくれないかもしれない。一番緊張する。」と言われていたので、私の笑顔もまた硬直していた。お兄さんがレストランの入り口に現れ近づいてきた。無表情のお兄さんを見てさすがに今度こそ修羅場か...と思いきや「水臭いぞ、なんで黙ってたんだ」と笑顔になった。
いや、もう何を信じたらいいか分からんわ。

結局、お兄さんとパートナーは韓国人らしく何度も乾杯したくさんビールを飲んだ。「一年に一回は韓国に遊びに来い。金なら出してやるから。これからはもっと家族仲良くやろう」と言ってくれた。そのあとトイレに立ったパートナーがミニスカートを履いているのを見て、お兄さんは「オーマイガー」と言って笑ったが、複雑そうな気持ちの中にもやはり愛が溢れていた。

平等なチャンス

重大なカミングアウトをした先には「温かい家族の愛」があった。お義父さんは別れる際に私に「俺たちはもう長くないから、兄弟がもっと仲良くするように君が仲介してやってくれ」と目をウルウルさせながら必死に訴えてきた。経営のために必死に働いてきたお義父さんお義母さんも、やはり一番最後に残る大事なものは「家族」。

もちろん今回の家族みんなが理解してくれたケースはだいぶ恵まれているパターンだ。カミングアウトをしてしまったことで傷付き後悔する人もたくさんいる。でも私は自分らしく生きる覚悟を決めた者しか見ることができない未来が、誰にでも必ず存在すると信じている。

今は苦しいかもしれない、怯えて暮らすしかないかもしれない。でも一歩踏み出して自分の殻を破るチャンスは、みんな平等に与えられている。そのチャンスを後回しにするか、絶対に掴んで離さないという強い意思で挑むか、それは本当に自分次第だ。幸せじゃない自分を選んでいるのも自分。昔は自分も親のせいにしていたが今はもういい加減気付いた。

パートナーは家族みんな理解してくれないと思い込み、自分だけ独りぼっちだと長年家族と距離を置きチャンスを後回しにしてきた。もちろん怖かったからだ。でも今回のカミングアウトで、彼女はこれから全く新しい世界を開く事になるだろう。彼女は私をいつもハラハラドキドキさせるので、本当に結婚して良かったと思う。これからもとても楽しみだ。

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