胸オペ所感(性同一性障害 GID・FtMにおける身体的治療: 乳房切除術を受けた感想)

18/05/22追記: タイトルの不親切が過ぎたので長くしました。

乳房切除術(胸オペ)をしたのでその感想とか適当に書く。
山梨大学医学部附属病院形成外科。
術式は乳輪外側半周切開(乳首の身体の外側を半周切ってそこから中身を出すやつ)。

ステータス
GID(性同一性障害・性別違和)、FtM(女性から男性へ)。
21歳。親元暮らし。アルバイター。
2016年4月(20歳)にホルモン療法開始。バストサイズは当時F60。
1年5ヶ月後の2017年9月(21歳)に乳房切除。当時A70くらい。
自宅から病院までは、電車とバスを乗り継いで片道6時間3500円くらい。
入院手続きの時間に間に合わないので前泊。
早起きが苦手だから初診と検査のときも泊まったけども。



入院は1週間。
1日目に説明。
2日目に手術。
3日目に安静解除(ベッドから出て普通に過ごしていい)。
7日目にドレーン・点滴が外れる。
8日目に抜糸、退院。

持ち物。キャリーで持ってけ。悪いことは言わん。行きはいいが帰りがキツい。同行者がいたり宅配便使うならいいけども。
あと大きめの洗濯ネットを1枚用意しよう。上腕がびたいち動かせないさなかに、縦型洗濯機とそれの上に設置された乾燥機と格闘したくなければ。洗うのは下着が主だろう。ネットにひとまとめならば看護師さんに取ってもらうのを頼むハードルがたいぶ下がるから。
カトラリー持ち込みの場合、旅行用携帯用のやつじゃなくて普段使いをそのまま入れよう。ここは荷物の嵩のケチりどころではない。不慣れなカトラリーは手が滑る。ベッド下まで落ちたそれは1人では拾えない。
あと耳栓。自分の屁にも相槌を打つような老い込んだじいさまが隣のベッドだったりするとそりゃあもう大変だから。だったから。

何も言わなかったけど男性病室に通された。ネームプレートは姓のみの表記。図らずも男性トイレデビューをキメた。個室に入っちゃえば一緒だった。

リブバンド(術後胸に巻くサポーター的なやつ)とT字帯(術中術後に履く紙製パンツ)が売店での自費購入だった。2700円と360円。レジの人がこれ高いねえと驚いていた。あまり捌けないようだ。普通は肋骨折ったときとかに使うものらしい。

手術中に酸素マスクをテープで固定するからヒゲは剃るように——とは手術の説明のときに言われるはずだが、他にもあちこちテープを貼る。
点滴が利き腕ではない方(たぶん)の前腕。ドレーンが脇・肩。カテーテルの管固定が左右どっちかの腿あたり。もちろん創傷部である乳輪周り。
この辺の体毛は処理しておこう。腿のを剥がすとき、看護師さんリムーバーのボトル持ってきて数分格闘してたから。
できれば術前検査のときなんかに、術後の装備がどんな感じになるかを訊いておいて、入院前日にやるのがいい。入院してから手術するまでにも1回入浴はできるかもしれないが、時間に限りがあったりして十分に処理できない可能性がある。あと剃刀の類が安全の観点から持ち込み禁止な場合も。

手術後は腕が一切動かなくなる。まじで。血抜きのドレーンは胸の付け根と脇の間というかなんというか、とにかく上腕を少しでも動かすと響く位置にぶっ刺さっているので腕は肘から先しか動かない。いや動くには動くんだが、痛いしテープでぐるぐるで具体的にどうなってるのか分からなくて怖くて動かしたくない。

さらに、そのせいでベッド上で身体を動かすのが非常に難しい。上体を起こすのは腹筋でどうにかなるが、起きた後座る位置をずらすのもベッドから足を降ろすのも立ち上がるのも、腕で体重を支えずにこなすのは困難である。クレヨンしんちゃんのケツだけ歩きが実用に耐えることを発見する。

身を起こしているとリブバンドが重力でずり落ちてきて直すのが手間なので、基本寝たまま過ごす。たびたび看護師さんや先生が見えるのでそのたびに身を起こすのも少々大変だが。本もスマホも持ちづらいのでイヤホンで音楽を聴くばかりになっていたが、このイヤホンを付け外しする動作がまた難しいんだ。肘から先だけで耳元に手を伸ばさにゃならぬ。

1週間ばかり寝てばかり、さらに寝返りが打てないので後ろ髪がぺったんこになる。あと髪洗うの辛い。腕が上がらないから。首を傾げて片手で半球づつ頑張る感じ。

そう、寝返りが打てない。ただ横向きになるのも無理。脇を圧迫するから。看護師さんに、寝たきりはよくないから意識的に体勢変えてくださいねーって言われたけど無理。
というか上腕のみならずあらゆる動作がドレーンの出ているところに響く。全身が筋肉で繋がっていることを体感できる。特に脊髄反射と無意識がやばい。よろけてたたらを踏むとか。手が滑って何かを掴むとか。くしゃみとか。うたた寝中に声を掛けられて普通に手を使って起き上がろうとしたりとか。

病院給食が美味しかった。栄養士さんが監修してるとああこういう内容になるのか、と納得した。調理法や食器も興味深かった。毎日フルーツが付いた。豪華。

費用。70万くらいってパンフにあったけど、55万くらいだった。事前に先生からこれは最大値であって平均や中央ではないとは言われてたけど。高く付かなくて何より。
というか、「乳房切除術」自体は相当安いのね。約13万。で麻酔が10万、他が入院とか管理とか検査とか投薬とか注射とか処置とか病衣とか食事とかとか。3枚綴りの診療明細書とか人生初だよ。

ATMの引き出し上限額。普段銀行使わない人間だからこれに引っかかった。診療料金支払誓約書のお世話になってしまった。みんなも染色体検査とかのときにやらかしたんじゃなかろうか。私はやらかした。

退院後妙にだるかった。たぶん水分不足。入院前と同じだけ水飲もう。

退院後1週間ほどはリブバンドを着用する。肩ストラップを縫い付けるべきかどうか悩んでいるうちに7日が過ぎた。たぶん付けるべきだった。
ちなみにリブバンドには手術中の出血と思しき汚れが付いていた。表示ラベルを確認して退院後1回洗濯した。

再診も済んだ。退院の2週間後、手術の3週間後。抜糸後に貼っていたテープが外れた。経過は良好とのこと。

創傷部、3週間ばかり洗えていないわけで、垢と血が塊になっている…と思いきや、その実垢と血とかさぶたの塊だった。ので、無理に引っ張って剥がさないほうがいい。かさぶたまで一緒に剥がれて痕が残りそうな感じになるから。

肝心の、平らになった胸の話だが……。
私の認識身体における胸は平らなので、齟齬が消滅した今、私は語る言葉をなくしてしまった。当たり前を尊ぶのはとても難しい。魚の目に水見えず、失って初めて分かるなんとやら、ってやつだ。
失っていることには多大な不快感を覚えていたが、取り戻したことはすぐに忘れてしまった。喉元過ぎれば、ってやつだろう。
ただ、齟齬が消え、その結果言葉がないということは、つまりはめでたしめでたしということだ。

1年後↓。


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