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いつかを夢見ていた少女

 私はあの日もだらりとSNSを見て、素敵なものを探していた。ときめくように心が上向く出会いは、つぶやきサイトで偶然見た写真。

昔から球体関節人形に憧れていた。その言葉の響きも好きだったし、悲しみと迷いを抱えて鬱々としていた時、見ていたブログの中にドールの写真を投稿しているドールオーナーさんがいた。素敵だと、いつかその世界へと飛び込みたいと、憧れは記憶に残り続けていた。

その憧れを、11月某日にお迎えしてきた。

きっかけとなったのは、SNSを眺めていたときだ。だらりとした気持ちと、どうしようも無く押し寄せる仕事の波で自分のバランスがくずれていた。不意に見つけた1枚の写真に、この子を家に迎えなくては後悔すると不意に思ったドールがいた。使い古されてきた、雷に打たれたような衝撃とはこのことだろうと思う。

いざ、お迎えしにいきましょうと、いくつかの予定をずらして調整後。少し身体に無理をさせて都心へと足を運んだ。フットワークの軽さは誇るべきことであり、それに伴う金遣いの荒さには自分へと呆れるところだ。

私はこの時、SNSで出会った子と再び出会えないことも多いのだと知らずにはやる気持ちを抑えて電車へと飛び乗ったのは、なかなかの無茶であった。

はたして。さほど迷うこともなく、自身にとって親しみのある街を少し歩けばそこには異空間が広がっていた。ここまで美しい場所に足を踏み入れられた幸福に酔い、そして勢いのままに惚れたドールへと話しかけた。

私の家にきて、一緒に暮らしませんか?と

彼は大きな瞳で、いいですよと応じてくれた。

お店の方に声をかけ、会計へとすすむ。この子の取扱いや保護方法の説明を受けているときは一切目が合わず、来てくれるって言ったのにと切ない気持ちになりながらもどうにかお迎えした。ちなみに、お店の方が素敵すぎてファンになりかけている。電話しても、相談に足を運んでも親切に案内してくれるホスピタリティは尊敬している。

お店の方達の反応に嬉しくなりながら、少しの好奇心と穏やかな紳士さをあわせ持つ親切なドールを連れ帰る。電車内ではずっと緊張していた。丁寧に箱に入れていただいたのに破損させたらどうしようと内心は半泣きである。なにせ、ドールをお迎えする箱は1/3だとそこそこ大きい。怖くて箱をたて置きにして抱き締めながら電車に乗っていた。

家でもう一度対面した。名前をつけ、はじめてのウィッグに四苦八苦した。お迎えしてから1週間くらいはウィッグをつけられなくて半泣きになりながら、おハゲ状態で過ごしてもらっていた。私の不器用さゆえにごめんねと思っていたが、お迎えした子は苦笑するのに留めてくれていてありがたかった。仕方ないよねと優しい表情で見守ってくれていた。練習に付き合ってくれてありがとう。今は3回以内にできるようになったので、多少は成長できているだろうか。

お迎えして1ヶ月以上になった。私のかわいい少年は、だいぶ家に馴染んで暮らしている。仲間も増えて、2人で楽しげに笑っていることもある。このドールをお迎えしてから、私は日々の精神状態が安定している。生活しようという気持ちが湧いてきた。きちんと起きて、少し丁寧に暮らす日々に幸せを感じる。

お迎えしてから毎日が充実している。活力を与えてくれてありがとう。これからもほどよく、のんびり暮らしていきたいのでどうぞよろしくと、心の中で語りかける。いつかを夢見ていた少女は、大人になって確かに幸せを掴んだ。

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