『ゼロからつくるビジネスんモデル』を読んでみた

本書は日本におけるビジネスモデル研究の第一人者である、井上達彦氏がアイディア創出から、ビジネスモデル構築、事業の循環までを一冊にまとめ上げた総ページ数500Pを超える大作です。

実務の最前線で活用されている方法、海外のイノベーション教育プログラム、学術の先端領域が記載されていることはもちろん、各章で数多くの事例をあげて解説されているので、これからビジネスを立ち上げる、新商品を開発するという方にとっては、目から鱗の一冊です。

書籍
ゼロからつくるビジネスモデル
井上達彦 著

スノーピークの事例

本書では、ビジネスモデルとは何かを解説する章で、アウトドア総合メーカーである、スノーピークを実例に紹介しています。スノーピークは新潟県三条市に本社を構え、品質が高く、徹底した顧客目線で商品を開発し、ハイエンドキャンプ用品という新たな市場を開拓してきました。

そんなスノーピークにも業績悪化のタイミングがありました。オートキャンプブームを席捲し、1993年には売上高25億5000万円までなりましたが、ブームの終焉と共に売上高14億5,000万円、経常利益4,000万円まで下落します。

そんな時、スノーピークはユーザーの声「社長、製品が高いよ」を聞き、徹底的に顧客の声に答えるビジネス戦略を取りました。それまでのスノーピークは最高の技術と素材を用いて、最高品質の商品をメインに展開していました。なぜ、スノーピーク商品がブームを席捲したのかというと、他にハイエンド商品の市場がなかった事が分かったのです。

スノーピークが展開した戦略は以下になります。

・問屋を介さずに販売店に卸す
・1,000点あった取り扱い店舗を250店までに絞り込む
・販売店には全ての製品を置いてもらえるようにする
・スノーピークの社員を店員として配置する

問屋経由の収入をゼロにして良いのか、売上を維持できるのかと、当然社員から疑問の声が上がりましたが、代表取締役の山井氏は「顧客を幸せにできるのだから売上は下がらない」と言い切ったそうです。結果として、売上は増加し、見事V字回復しました。

ビジネスモデルの要になるもの

スノーピークのビジネスモデルはミッションや目標を反映し、完成させました。スノーピークのビジネスモデルは、イベントを企画してコミュニティを作り、テントに加えてシートやタープなどの関連商品の合わせ買いを促すモデルです。

このモデルは、「儲けよう」という発想でうはなく、ミッションにこだわり、お客様を幸せにしようという姿勢から生まれた結果だと本書では語られています。

ビジネスモデルは目標やミッションと関連づけることが重要

ビジネスモデルをミッションや目標と関連づけていれば、難しい経営判断に迫られたタイミングでも、不具合が起きても、原因を突き止めて理想の状態に戻すことができます。

ビジネスモデルは人間のカラダと同じだと、本書では図解と共に説明しています。

■人間のカラダ
①不調や痛みを感じる
②熱が出る
③炎症反応が出る
④悪化すると大病、死に至る

■ビジネスモデル
①顧客から不満が出る
②売上が減る
③赤字になる
④悪化するとリストラ、倒産の恐れ

ビジネスで売上が下がる、赤字になる異変に陥った場合は、市場の変化や流れに対して、ビジネスモデルが順応できていないことを指します。理想とするビジネスモデルの構造をイメージし、価値の届け方が分かっていれば、迅速かつ適切な戦略を立てることができます。

ビジネスモデルの定義を再度確認する

ビジネスモデルの定義は様々な考え方がありますが、本書では1つ分かりやすい例があげられています。アレックス・オスターワルダー氏、イヴ・ピニュール氏が提唱した定義です。

ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し顧客に届けるかを論述的に記述したもの

上記の定義が認識できると次のようなことができるようになります。

・ビジネスモデルを適切に分析して設計することができる
・投資家やパートナーに説明して、必要な経営資源を集めやすくする
・成果をめざすとき、現状を動かしている基本的な論理をもとに考えられる
・何らかの不具合が起きたとき健全な状態に戻すことができる

スノーピークの山井氏はビジネスモデルとはミッションとか経営理念を実現するものだと本書で語られています。誰に、何を、どのように提案するのかが、経営者にとって最も大切な仕事の一つです。

ビジネスモデルの描き方


本書ではビジネスモデルの描き方は大きく分けて2つに整理できると紹介されています。それは、以下です。

①要素に注目するアプローチ
②関係に注目するアプローチ

ビジネスモデル自体は、様々な要素が有機的に結びついて生まれるシステムです。要素だけに注目しても描き出すことはできません。2つの描き方双方のアプローチから補完していく必要があると言います。

要素に注目したアプローチ:事業コンセプト


要素に注目する場合、最初にビジネスモデルを構成する要素を定め、文字にしていきます。原型は「事業コンセプト」です。事業コンセプトとは「顧客は誰か」「提案する価値は何か」「その方法はどんなものか」という3要素です。本書ではさきほどまでのスノーピークを事例に以下で紹介されています。

■構成要素
顧客は誰か:

都市部にすみ、知的好奇心が強く、所得水準も高い人

提案する価値は何か:
高品質&ハイエンドのアウトドア商品、自然志向のライフスタイル

方法はどのようなものか:
企画/デザイン/生産連携を一人が担当する。燕三条の協力工場とパートナーシップを築く。問屋を介さない直接取引をおこない、社員が販売をおこなう。ユーザーコミュニティを構築してイベントを開催する。

上記のフレームワークの特徴はシンプルに表現し、ビジネスを成り立たせている基本構造にフォーカスできることです。しかし、言葉を使うということは、その言葉が適切かどうか注意する必要があります。また、「方法」が漠然としてしまうので、コスト構造や収益構造は描き切れないのです。そして、「顧客」「価値」「方法」の3要素の関係性が伝えきれないという点もあります。

要素に注目したアプローチ:ビジネスモデルの4つの箱

先ほどの事業コンセプトよりも収益の上げ方をクローズアップしたのが、ビジネスモデルの4つの箱というフレームワークです。

・顧客価値提案

・主要経営資源・主要業務プロセス

・利益方程式

特徴
収益モデル(商品やサービスの価値×販売数量)
・コスト構造(直接費と間接費)
・商品やサービス1単位当たりの目標利益率
・経営資源の回転率(在庫回転率、スタッフの稼働率など)

こちらのフレームワークもスノーピークを例に表であらわされています。

■構成要素
顧客価値提案
高品質&ハイエンドのアウトドア製品
自然志向のライフスタイルの提案

利益方程式
高付加価値の製品を適正な価格(利益率)で販売
問屋を介さない直取引による流通コストの削減
神県議をかけつつそれを上回るリターンを実現

主要経営資源
キャンプと自社しえ品に精通した社員
燕三条の協力工場とのパートナーシップ
熱烈ファンとコミュニティ
高付加価値ブランド

主要業務プロセス
ユーザー目線で企画し仮説検証する
企画/デザイン/生産連携を一人が担当する
問屋を介さない直接取引をおこない、社員が販売をおこなう
「スノーピークウェイ」などのイベントを開催する

上記4つの箱にあてはめると、スノーピークの利益方程式が鮮明になります。ハイエンドアウトドア製品を適正価格で販売することで利益化し、特約店と直接取引をおこなうことで、コストカットをしています。

また、店舗に正社員をおこなうことできめ細かい対応を徹底することで、ハイパフォーマンスを発揮していきます。社員の徹底した教育体制と、ユーザー目線の商品開発がそれぞれの関係性をフォローアップしているという構造です。

4つの箱にも弱点が存在し、それは顧客が誰なのかを記入する箱がないことです。顧客とどうやって関係性を作っていくのかが不透明だと、集客チャネルの選定がうまくいかないことがあります。


要素に注目したアプローチ:ビジネスモデル・キャンパス

事業コンセプトと4つの箱よりも、包括的にビジネスモデルの要素を書き出せるフレームワークが、「ビジネスモデル・キャンパス」です。下記の9つの要素が描き出されます。

顧客セグメント、顧客との関係、チャネル、価値の提案、主な活動、主な資源、パートナー、収入の流れ、コスト構造でビジネスモデルが表します。

パートナー
燕三条協力工場
海外縫製工場

主な活動
企画/デザイン/生産/連携を一人が担当
キャンプ地での社員研修
実体験に基づく販売

価値の提案
高付加価値のアウトドア製品
自然志向のライフスタイルの提案

顧客との関係
親密かつ継続的

顧客セグメント
都市部に住み好奇心が強く所得基準も高い人

主な資源
製造工程ノウハウ
高付加価値ブランド
キャンプに精通した社員
熱烈なファンコミュニティ

チャネル
直営店と特約店(問屋を介さない直接取引)

コスト構造
問屋を介さない直接取引による流通コストの削減
正社員の雇用と教育
自社施設でのイベント開催

収入の流れ
熱烈ファンの数×購買金額×継続時間
平均を上回る1坪当たりの売上×適正利益

ビジネスモデルキャンパスを使用すると、それぞれの要素のストーリーを考えやすいというのと、全体の繋がりも分かるため、ビジネスの解像度を上げ明確化できます。

ここまで3つのフレームワークを紹介してきましたが、本書では「事業コンセプト」から「ビジネスモデル・キャンパス」へと要素を追加して膨らませていく方法を推奨しています。

関係に注目したアプローチ

関係に注目したアプローチでは、価値交換図とピクト図解があります。価値交換図は、2000年頃にeコマースが台頭したときから、ビジネス誌で使われてきたフレームワークです。矢印や記号を使って、それぞれの関係性を表現することができます。

一方、記述様式を標準化して、比較できるようにしたのがピクト図解です。ピクトグラムと呼ばれる絵文字を使って、見える化する手法です。関係に注目した2つの図解は、どちらも記号が必要となるため、このレポート内では記載しませんが、ピクト図解でいえば、例えば下記のようなモデルが記載されています。

①シンプル物販モデル
②小売モデル
③広告モデル
④合計モデル
⑤二次利用モデル
⑥消耗品モデル
⑦継続モデル
⑧マッチングモデル
⑨フリーミアムモデル

上記のビジネスモデルは、ピクト図解を考案した板橋悟氏が、9つに整理したものです。このモデルを組み合わせたりして、自社のビジネスモデルに役立ててください。

ビジネスモデルの仮説検証

ビジネスモデルを構築するためには、仮説検証のっサイクルが必要不可欠です。「分析・発想・試作・検証」を想定した上で、チーム編成をおこない、モデルの構築していきます。例えば、以下のチームが理想的です。

・データに強く、論理的に思考できる人
・直観力に優れ、アイディア発想できる人
・実務に長けていて、現実的な青写真が描ける人
・アイディアや計画を厳しく評価できる人

ビジネスモデルの構築については、様々な手法があり、書籍もいくつもありますが、ほとんどの専門家が「仮説検証のサイクルを回す」という意見で一致しています。以下の4つのステップです。

①分析:まずアイディア発想に先立ち、調査して分析します。大きな問題については、細かく砕いて整理します。

②発想:「分析」によって事実を整理できれば何が大切なのか明らかになってきます。整理した事実をもとに創造的に「飛躍」させて発想します。

③試作:「発想」によって「考え」がひらめいたらそれを形にしていきます。形にしていくことで、ご自身の考えも、より具体的になります。

④検証:「試作」をつくり、市場に受け入れられるかどうかを実際に確かめます。検証結果は、次のサイクルの「分析」における新しい起点となります。

ビジネスモデルのプロトタイプを構築する


試作を作成する上で、発想や考えが浮かんだら、プロトタイプをつくるという思考が重要です。最初からコストや時間をめいっぱいかけて完成品をつくるのではなく、顧客に見せてフィードバックをもらえるところまで、まずは形にしていきましょう。

アイディアが形になれば、他者からの評価がもらえます。その意見を取り入れサイクルを回し、ブラッシュアップしながら完成品を作り出すのです。それがプロトタイプを作るということです。

具体と抽象の往復運動でアイディアが生まれやすくなる
ビジネスの世界では「抽象的」というと、誉め言葉には当たらないことのほうが多いですが、抽象化することで複雑な物事を単純化することができ、抽象化によって応用がきき、視野が広がっていきます。

そして具体化することでアイディアが明確になり、ビジネスモデルにかかわる発想が促進され、検証可能になります。

抽象と具体を往復させることで、ビジネスモデルの「分析・発想・試作・検証」のPDCAが上手く機能していくというわけです。

まとめ

本書を選定した理由は、現在のコンサルワークにおいてクライアントと一緒にビジネスを作り上げる機会も増えてきており、「集客」の知識だけでは限界があると感じたためです。

直近、どうすれば売上が作れるかの観点よりも、ビジネスの軸や見せ方、顧客にとっての分かりやすさという視点で、質問を受けたり、意見を述べる機会が増えています。

Web集客の知識でいえば、最適解は出せないものの、これまでの知識を使って回答することができますが、ビジネスモデルというと話は別です。

今回本書の中で、ビジネスモデルを構築するためのアプローチ方法をフレームワークや事例を通して知ることができました。まずは、クライアントのビジネスにおいて、フレームワークに当てはめ、どういった構造になっているのか分析していきます。

今回のレポートは本書の中の一部を切り取ったため、再度他の章も読み進め、次回以降にレポート化していきます。


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