ゆうきまさみ先生とコミック版「機動警察パトレイバー」とついて

ハイパーテクノロジーの急速な発達とともにあらゆる部分に進出した多足歩行式大型マニピュレーター「レイバー」。

しかしそれは、レイバー犯罪と呼ばれる、新たな社会的脅威をもまきおこした。

続発するレイバー犯罪に対抗すべく、警視庁は本庁警備部内に特殊機械化部隊を創設した。

通称「パトロール・レイバー中隊」――――――

パトレイバーの誕生である。

機動警察パトレイバー1巻 Prologより
(アニメなどの映像媒体でも冒頭に似たような内容のナレーションが流れます)

というわけで、今回はコミック版「機動警察パトレイバー」についてです。


1.概要

冒頭に引用したナレーションある程度世界観が説明されていますが、少し補足をすると、近未来の東京を舞台に"レイバー"を運用する警察の部隊(小隊)のお話です。冒頭で引用したナレーション通り"パトロール・レイバー"→"パトレイバー"であり、主人公(特車二課第二小隊隊員)たちは警察官です。なお、"レイバー"は本作では特殊車両扱いであり"特車二課"に配備されている一方、従来の特殊車両が配備されているのが"特車一課"となります。

2.作品としての特徴

2-1.オペレーティングシステム

ロボットものとして、"ロボットを制御するオペレーティングシステム"にスポットが当たり、話の中核になっている点は特徴に挙げて良いと思います。さらに、コミックの第1巻は1988年で、オペレーティングシステムの話を前面に打ち出した1作目の劇場版が1989年だったという点は特筆に値すると思います。

2-2.メディアミックス

機動警察パトレイバーは作品の展開方法として、多数の媒体(アニメ、OVA、映画、コミック、小説、他)を利用した、いわゆる、「メディアミックス」という手法をとっています、私個人としてはメディアミックス作品として一作挙げるのであれば、この作品になると思います。なお、私が最初に触れた「パトレイバー」は1作目と2作目の映画でした(テレビで連続で放映されていたものを視聴しました)。
今回のnoteではコミック版を取り上げていますが、媒体が微妙に設定が異なっており、その差異を取り上げると説明が大変になりますのでこのnoteでは言及しません。ご容赦下さい。このnoteでは媒体への言及がない場合、コミック版の設定を指しているものとします。

3.推しの理由

3-1.特車二課隊員第二小隊隊員の成長

特車二課隊員第二小隊隊員の人間としての(特に精神的な)成長を丹念に描いており、その描き方が素晴らしいと感じました。
なお、レイバーの操縦技量に関しても、泉野明(第二小隊一号機パイロット)が作中を通して操縦技量を磨き、さらに特車二課第二小隊が運用するAV-98"イングラム"は、パイロットの動きを学習することができるレイバーであり、パイロットである泉野明と共に成長し、作品の最後に作中で何度か戦っているレイバーである"グリフォン"に勝利した際にも「泉の圧勝だ」(後藤隊長談)というセリフがあるので、レイバーの操縦技量に関してもしっかりと成長しています。

3-2.メンターとしての後藤隊長

隊員の成長とセットで語っても良かったのですが、このnoteでは分けます。特車二課第二小隊隊長である後藤喜一隊長は、媒体で性格が異なりますが、コミック版では部下である特車二課第二小隊のメンバーの精神的な成長を助ける描写が随所にあり、メンターとしての描写が多く、非常に魅力的な描かれ方がされています(なお、劇場版などでは部下である篠原遊馬や捜査課の松井警部補をうまく使って事件の背景を探らせる描写があります。こちらはこちらで好きです。もっとも、コミック版でも、第二小隊の初出撃の際に華々しいデビューを飾らせるために苦戦している第一小隊の救援に行かずに見捨てた結果として、第一小隊が壊滅の憂き目に遭ったりします)。
同じようなメンターとして部下の精神的な成長を助ける、という作中の役割で見た場合、似たようなキャラクターとして、"機動新世紀ガンダムX"のジャミル・ニートや、以前取り上げたトム・クランシー氏の"ジャック・ライアン"シリーズに出てくるジェームズ・グリーアCIA副長官が挙げられると思います。
組織の内部を舞台として選び、さらに主人公の「成長」を描く場合、必然的に主人公の上司もどう描くかについて考える必要がありますが、描かれ方が素晴らしいと感じました。
("メンター"という書き方をしたのは後藤隊長が組織の中で"上司"としての役割以上に精神的な成長を促す部分が多かったためです。なお、人材育成の手段として「メンタリング」というものがあるそうです)

3-3.第一話と最終話のサブタイトル

第一話のサブタイトル:ザ・ライトスタッフ【あっ軽い人々】
最終話のサブタイトル:THE RIGHT STUFF―正しい資質―
(第一話の「ライトスタッフ」はカタカナ表記ですが、"軽い"という意味合いだと思われるので英語表記すると"LIGHT"だと思われます)

どちらも読み方は、「ザ・ライトスタッフ」となります(恐らく、ゆうきまさみ先生は第一話のサブタイトルと最終話のサブタイトルはセットで考えられていたと思われます)。最終話を読んでいた当時、この巧みな語呂合わせと共に、伏線回収が成立しており、キャラクターの成長を描くコミックの最終話として、これほどまでに相応しいサブタイトルがあるのか、と舌を巻きました。

(パトレイバーで推したい部分に関しては、まだありますが、全部取り上げると長くなりますし、まとめるのに時間がかかるので今回はここまでとします)

4.余談

4-1.私個人の創作への影響

メタバースを舞台とした私の作品で、主人公とルームシェアするメンバーの数が6人なのは、意図的に特車二課第二小隊隊員のメンバーと同じにしています。また、登場人物のメンター的なキャラクターを登場させた事も影響されています。

『「引きこもりを加速する」から生まれた「サイバスフィアフローズ」』加筆版

4-2.関連する作品について

コミック版の作者であるゆうきまさみ先生は新谷かおる先生のアシスタントを務められた経験があり、「機動警察パトレイバー」以前に連載された、「究極超人あ~る」に新谷先生のご家族の名前が出てきます。私自身は、「機動警察パトレイバー」を読んだ後「究極超人あ~る」を読み、その後新谷先生の代表作の一つである「エリア88」を読みました。

4-3.「機動警察パトレイバー」のグッズについて

「機動警察パトレイバー」関連のグッズはいくつかありますが、個人的にこのグッズが"作中世界にいかにもありそうなグッズ"だと感心しました。
(手に取りやすい値段だったので、私も買いました)。

篠原重工粗品タオル

4-4.押井守監督について

最初に触れた「パトレイバー」が1作目と2作目の映画であったため、二作品の監督を務められた押井守監督の作品(ただし映画ではなく書籍が中心です)いくつか触れた事があり、アヴァロンの小説版である「Avalon 灰色の貴婦人」や、映画化もされた「立喰師列伝」などは読みました。2作目の映画のノベライズ(2作目の映画のノベライズは押井守監督で、1作目の映画のノベライズはアニメ版のシリーズ構成等をされた伊藤和典氏になります。調べてみましたが、1作目の映画のノベライズは電子版が出ているのですが、2作目の映画のノベライズは電子版はなさそうです)は映画版と小説版のどちらも読んで比較も出来るのですが、2作目の映画のノベライズで追加されたシーンは「食べる」シーン(例を挙げると、野明と遊馬が篠原重工の社員食堂で食事するシーンや、後藤隊長と陸幕調査部別室の荒川が密会する際に、立ち食いそば屋など、食事ができる場所を選んでいるなど)が多かった印象があります。

また、最近読んだ押井守監督の書籍はこれが面白かったです(パトレイバーは関係ありませんが)。1968年から2017年までの映画で「1年に1本のみ」という縛りのみで選ばれた映画が掲載されており、押井守監督が「何故その1本を選んだのか?」という思考の過程や、押井監督の映画に対する引き出しの多さなどを垣間見ることが出来ます。

押井守の映画50年50本

4-5.ロボットを制御するシステムに関して

パトレイバーでは、ロボットを制御するオペレーティングシステムの話が出てくるのは書きましたが、それ以外にも、ロボットの制御をソフトウェアで補助したり、あるいはパイロットなしの無人機として登場する描写がある作品はいくつかあります(私の場合、機動戦士ガンダムに偏っていますが)、以前、マイクル・ムアコックの際にインテリジェンスソードの話をしましたが、その辺りの興味からつながっていると思います。以下は、読んだことのある作品です(電子書籍が出版されているものはリンクを張りました)。

ガンダム関連:
ゼファーファントム(アウターガンダム)
EXAMシステム(機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY 小説版)
ALICE(ガンダム・センチネル―ALICEの懴悔)
疑似人格コンピューター(機動戦士ガンダムF90)
モビルドール(新機動戦記ガンダムW)

アウターガンダム (電撃コミックス) Kindle版

機動戦士ガンダムF90 (電撃コミックス) Kindle版

ガンダム関連以外:
ミッションディスク(装甲騎兵ボトムズ)

装甲騎兵ボトムズ I.ウド編 (角川スニーカー文庫) Kindle版

装甲騎兵ボトムズ II.クメン編 (角川スニーカー文庫) Kindle版

装甲騎兵ボトムズ III.サンサ編 (角川スニーカー文庫) Kindle版

装甲騎兵ボトムズ IV.クエント編 (角川スニーカー文庫) Kindle版


アウターガンダムの著者である松浦まさふみ先生の作品だと、ゼファーファントムから進化したAI(ただし、火器管制にパイロットが必要となっているので、無人機ではなくなっています)が登場する、「機動戦士ガンダムReon」がある他、「機動戦士ガンダム ムーンクライシス」でも無人機が出てきます。

この辺りの作品に触れた後に、アーサー・C・クラークの「都市と星」の新訳版を読んで、都市を制御する"中央コンピュータ"を知りました。アーサー・C・クラークが生み出した"知性を持つAI"だと、「2001年宇宙の旅」の"HAL9000"が有名ですが、それ以前に執筆された作品です。

5.関連ページ

5-1.「機動警察パトレイバー」関係

機動警察パトレイバー公式サイト

機動警察パトレイバー・作品ごとの世界設定

5-2.「機動警察パトレイバー」以外の作品

機動新世紀ガンダムX

『機動新世紀ガンダムX』公式サイト

機動新世紀ガンダムX Re:Master Edition(1)

"新機動戦記ガンダムW DUAL STORY G-UNIT"の作者であるであるときた洸一先生による機動新世紀ガンダムXのコミック版


ジャック・ライアン・シリーズの登場人物

トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%BC%EF%BC%8FCIA%E5%88%86%E6%9E%90%E5%AE%98-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3-%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B31/dp/B08BGBL5TL

アウターガンダム

機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY

ガンダム・センチネル

機動戦士ガンダムF90

新機動戦記ガンダムW

装甲騎兵ボトムズ

新谷かおる

"アシスタント"の項目にゆうきまさみ先生の名前があります。

5-3.関連note

トム・クランシーについて

5-4.その他

メンタリング

6.追記(2023年2月5日)

機動警察パトレイバーに関連するクラウドファンディングがありましたので支援しました。

【パトレイバー】幕張国際レイバーショウ 警備出動プロジェクト

2023年02月06日 23:59までだったのでギリギリでした。

実際にデッキアップしている所に出くわしていませんが、Twitterで何度か見かけたことがあり、存在は認知していました。実際にデッキアップされると、映えると思います。
なお、コミック版だと4巻で"東京国際レイバーショウ"が開催され、特車二課第二小隊はこのイベントの警備にあたっています(そしてそのイベントに乱入した"グリフォン"と交戦しています)。

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