生きてるやつが勝ちなんだ/舞台鬼滅の刃 感想

舞台「鬼滅の刃」遊郭潜入を観劇する日々。ひとまず全体を把握したので感想をまとめようと思う。ある程度のネタバレはあるので何も知らずに観たい方はご注意ください。
千秋楽は12月10日です。まだ間に合うので是非。配信も是非。

全体として戦闘が多く、ちょっとしたギャグシーンやキャラクターとしての見せ場(俳優の良さを売り込めるような見せ場)もあり、子供から大人まで楽しめる舞台だった。原作も好きな身として、ここはいただけないなあと思うようなところはない。どころかきちんと作中の主題である対比構造を丁寧に拾って演出していて、想いがビシバシと胸を震わせてくる作品だった。

原作が突然関連のある回想シーンを捩じ込む形式のため、舞台でも同じようなことが行われており、ここで!?と思うような場面は若干ある。……あるものの意図は分かるしこれくらいのスピード感がないと終わらないだろうと思うようなボリュームなのでさほど気にならない。

ミュージカル要素も兼ね備えた舞台の本作だが、皆美声揃いなことも没入感を高めている。

鬼チームの歌がとにかく上手いこと。上手いこと。強敵であることがよく伝わる。
妓夫太郎の独白は元々心動かされるシーンではあるが、遠山さんの歌声の効果で更に涙が誘われる。
堕姫の発声も素晴らしい。上弦としての強さと気高さ、そして傷ついてきた女性としての地鳴りのような怒声が感情豊かに襲いかかる。謝花兄妹の熱演が凄まじく、何度見ても面白く、家に帰ってもずっと歌が頭から離れない。
後述するが無惨の歌も見どころである。

炭治郎も上手いが、綺麗というか、お行儀の良い上手な歌というところも鬼の上手さとはまた違って、彼の慈しさがよく伝わる。禰󠄀豆子との子守唄のシーンの熱演は今年一かもしれない。

アクションも魅力的だ。プロジェクションマッピングを使いつつも演劇らしい古典的な演出が多く臨場感があった。堕姫の帯や禰󠄀豆子の覚醒など見応え満載である。
殺陣も素晴らしく、禰󠄀豆子の回し蹴りは何回でも見てみたいと思うほど。可愛らしい髙橋かれんさんから繰り出される足蹴りは迫力しかない。あんなに動けるのすごいなと感動。
帯が何本も入れ替わり立ち替わり襲いかかる中、潜ったり飛び越えたりしながら戦うシーンは見応えがある。
宇髄は体格の良さもありつつ佇まいが忍びらしく軽やかで、立ち姿からして店の女将が骨抜きにもなるわねと思わざるを得ない。

鬼舞辻無惨は直接だれかと見えるわけではないが、今回堕姫との回想や無限城でのお怒りのシーンで恐怖を残していた。他者の扱い方をよくわかっていて堕姫に甘くしかし冷たく接したかと思えば、重々しく怒りを歌い上げる。姿も様子もころころと変わる完璧な生き物である彼を演じる喜英さんの演技力に感服した。

一番印象的だったのは最後のカーテコールでしばらく産屋敷と向き合うシーンだろうか。
憎しみの表情は浮かべていないのに、憎悪を感じる。無に近い冷えた表情なのに語り尽くせないほどの表に出さない思いを感じる。1000年分の静かな激情を感じられる良い演技だった。
そして歌われる主題歌。舞台鬼滅の刃の世界観を彩る迫力満点の歌をぜひ現地で聴いてほしい。

開演5分前まではセットを撮影することもできる。豪華に作り込まれた花街のセットは現地に行く価値がある。10分前になると役者も現れて密かに芝居を始める。観劇体験として良い思い出になるはずだ。

華やかな遊女たちの明るい歌から始まる今作。彼女たちは笑顔で舞い、遊郭の仕組みを歌に乗せて軽やかに説明する。あまりにも華やかだからこそ、どこか気味が悪い。
当然客は遊郭とこの「鬼滅の刃」遊郭編が、そんな明るく希望に満ちたものではないことを知っている。なのにあんなにも明るい歌で始まり、豪華なセットと煌びやかな衣装を食い入るように見ながら花街に引き込まれていく。
そのギャップが遊郭とそれに翻弄された彼女たちの明暗を暗に示しているような気がする。

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