エピック系ストリングス音源の話

お疲れ様です。
さて、前回ポップス系ストリングス音源のお話をしたのですが、
今回は映画音楽、とりわけ現代風のいわゆる『エピック系』ストリングス音源のレビュー・お話をしようと思います。

ポップスについてはこちらから。

では早速。

・エピック系ってそれ専用の音源を使った方が良いの?

それはありません。後述しますがエピックに特化した音源もあってAreiaだとかNOVOだとかあるのですが、基本的にはオーケストラストリングス音源を持っておけばそれで完結することが多いので、なにも『これはエピックです!』っていうものを持っておく必要はありません。
ここからは、各音源の紹介と実際の使用感を説明しますので、忖度なし、正直な意見で行きたいと思います。

※以下はお勧め順ではありません。

Cinematic Studio Strings

通称CSS。
まあ大王道といえばこれでしょう。初心者もとっつきやすいプレイアビリティと音質、値段もコスパ上場です(円安の今は少し高いですが)。
発売から7,8年ほど経ちましたが未だその地位をゆるぎないものとしている稀有な音源の一つで、ドライステージで録音されたハリウッドスタイルの音源というのが売りになっていて文字通り映画音楽風の激しい音色が出ます。
ただ弱みとしてはレガート遅延の問題があり、MIDI入力の場合全体を前にずらすだとか、マルカートでCC1のエクスプレッションを調整してやるだとかでやってやらないといけないので、打ち込み面においてはやや不親切な面があります。ちなみに使いようによってはゆるいポップスで使えないことはないです。

・Cinematic Strings2

CSSの前任を務めた音源ですが、人によってはCSSのドライさが嫌でこちらをチョイスする人もいます。私も今はCSSですがCSSのレガート問題とぶつかった頃、CS2に戻っていた時期もありました。音はウェットでふくよかな音がします。CSSが出るより前ポップスに使っていましたが輪郭がぼやぼやだったので多分ポップスには向きません。CSS同様キースイッチでアーティキュレーションを変えていくので使い方で迷うことはないでしょう。

・LA Scoring Strings 3

LASS。
Audiobro社から出ている2010年代一世風靡をしたLASS2.5のアップデート版です。ドライ一徹。完全にクロースマイクオンリーでリバーヴの味付けはあなたがしなさいね、といった具合の割り切った音源でCinematic RoomやPro-Rなどは必携かと思われます。其のままで鳴らすとクロースなので何とも言えないちゃちな音に聞こえます。その点も加味して中上級者向けの音源で、使いこなせばいい音でなってくれますし、編成を自在に変えられるのでポップスからソロからエピック迄やろうと思えばどれもできるようになっています。一方でピッチが異常に悪いので(仕様だそうです)、人によってピッチ補正プラグインを入れている人もいるほどなのでこの辺りも含めて、人は選びますが後述するMSSの登場で下位グレード化して安くなったので(昔は15万円くらいしました)、デモなどを聞いてよければ買うのもアリです。

・Modern Scoring Strings

MSS。
同じくAudiobroから出ているもので一応LASSの上位互換と銘打っていますが、実質は役割が全く違います。アタックが早くドライなLASSに対して、MSSは重厚でかつ重たい立ち上がりをしていて音自体はその膨大なサンプル量だけあって瑞々しいです。映画音楽に使いたいのならばMSSの方が望んだ音になりますが欠点として高音域になるほど音がシンセくさくなるというもので、これも参考動画を見ていただければ分かりますが、結構シンセな音がします。低音楽器はそれなりに良い音がするのでオスティナートなんかを低音で鳴らしたい時は重宝するかもしれませんがレガートはそこまで期待できないです。但し、アップデート毎に改良されているので悪い音源では決してありません。LASSより全然使いやすいのでここは好みとも言えます。

・Areia

Audio Imperiaから出ているストリングス音源です。文字通りエピックストリングスを売りにしていて、とにかく派手に鳴ります。ということは、繊細な鳴りは不得手で、どうやっても派手にしかならないという、勢い一徹の音源となっています。これについては後述のNOVOと非常に傾向が似ているので、あとでご説明しますね。

・JAEGER、Albion ONE、Metropolis Arkなど総合音源

同じくAudio Imperia、ほかにSpitfire、OTの3社からですがいずれも総合オーケストラ音源で、この中のストリングスに着目します。
総合音源なのでそもそもパッチが『Low Ensemble』『High Ensemble』などにしか分かれていません。つまりViolin1、2なども分かれていないので致命的な部分があり、この手の総合音源はあくまで本チャンではなくモックアップとしてくみ上げるための音源として考えた方がよろしいでしょう。海外の動画ではシュートアウトでこれら音源も参戦していて、音質自体は担保できる良さがありますが、パッド的なオーケストレーションでもない限りは使いにくいし、アーティキュレーションも少ないのでやりづらいんじゃないかなあと思います。

・Cinestrings Core

Cinesamplesから出ている音源です。
柔軟で使いやすく余計な癖が無い優等生系の音源です。
名の通りCinema系のジャンルに適合する分厚いサウンドが特徴で、
アーティキュレーションも一通りそろっています。一方で、癖がなさすぎるそのサウンドから無個性すぎる、表情が無いなどの評価もあるので、でも動画などをよく見てみましょう。

・EWQL Hollywood Strings

HSO。Eastwestから。
発売されて十数年経ちますが、未だに前線に駆り出される老兵のような音源で、Opusエンジンに変わってから磨きがかかり、音の操作性がよくなりました。名の通りいわゆるハリウッドスタイルの音を目的としていながら派手派手しい音から繊細な音まで使い分けができるのでお勧めはしやすい・・かと思ったのですが、この音源の欠点はとにかく要求スペックが高い事です。SSD1TBはまだしもマシンスペックのメモリ64GBはあった方がよくHDDやメモリ32GBだとオーバーロードしたりDAWが落ちたりして作曲どころではなくなるので、マシンに自信がある人にはお勧めできますが、本体の費用(10万円ほど)とマシンの費用を考えるなら辞めといた方が良いです。ついでに、CCの操作が独自なので他のMIDIデータとの互換性がなかったりします。
一応EW社からサブスクで1か月無料で音源を使えるので試してみてはいかがでしょうか。(ちなみに400GBあるマンモス音源という点もお忘れなく)。

・NOVO Strings

NovoはAreiaと同じ立ち位置でHeavyocityから発売されています。
金管楽器版のForzoなどと併せてエコシステムを組めるという強みがある一方で音はチープ。派手ですが思いっきりシンセ音がすることや、セクション分けもおおざっぱにしかされていないわりに、費用が6万円もするなど、何かとコスパの悪い音源です。他の金管や木管はまだ使い勝手があるだけに弦はちょっとなあ、という印象で、Areiaも正直そういう所があります。なのであまりファーストチョイスにはお勧めしませんが、Heavyocityの製品自体はDAMAGEをはじめ、お薦めできる製品ばかりなので映画音楽を作りたいなと思ったら手を出してみるといいでしょう。

・Majestica

8dioから出ているお手軽エピックオーケストラ作成キットです。
何といっても派手。でも先にあげたNOVOなどに比べると総合音源の癖してどれもそれなりにしっかりなってくれるという利点があります。悩みすぎるようならこれを買っておいた方が、それだけで完結するという利点では良いと思いますが弦にこだわるのであればこれもセクション分けはされていないのでお薦めできません。ただし、派手なパーカッションやブラスも同梱なのでオールインワン音源として扱うならエピック分野においては選択肢でしょう。音は古臭いですが派手さだけでいえばHans zimmer stringsより派手です。また、そのような性質上繊細な表現は苦手です。

・Anthology Strings

8dioから。
当時Adagio StringsというHSOと張り合っていた音源の進化系のような立ち位置がこの音源です。130GB越えの大容量とかなり容量を食いますが、他の音源もそれなりに食うので本格的な音を目指すうえでは、あまり気にすることではないでしょう。シンフォニックを売りにはしていますが後述のBerlin同様、シンフォニックを目指しながらも編成は小さめなので音は細くなりがちですが繊細な表現を求められるセクションでは活躍することもあるでしょう。

・Spitfire Symphonic Strings

Spitfireから。通称SSS。かつてはこの音源がHSOなどと拮抗する強い音源(当時はMuralという名前)でした。SSSと名を改めた後は使いやすいインターフェースになり、音質も値段相応によく、しっかりしたストリングス音源としてこれを持っておくのは間違いはないでしょう。欠点としては大編成なのでアタックがどうしても遅くなることです。スリリングな音楽を作ろうとすると奏法やオーケストレーションに工夫が必要になってきますのでそこは注意点です。
ちなみに、以下いくつかSpitfireが続きますが、Spitfire音源が必ずしも良いというわけではなく私が買っているものがSpitfireが多いというだけなので、巷では雑な品質ともフォーラムで言われてもいますし、その点では注意が必要です。

・BBC Symphony Orchestra

こちらもSpitfireから。UIとエンジンが独自のものとなり、物議をかもしている音源です。かの有名なBBC交響楽団の音をサンプリングした総合音源ですが、弦の音もそれなりに良いです。正直言うとKONTAKTの時の方がメモリの消費も含めて使いやすかったのですが、音質自体はコア音源でも十分な戦力になりますし、プロフェッショナル音源はお高いですが買って損はまずないと思います。これぞ交響楽という音がします。派手な鳴りを求めるとちょっと違うかなとなりますが、上記SSS並みには良い音が出ますのでお勧めです。そのうえで、この音源だけで金管やパーカスなどオーケストラのエコシステムが完結するので結局お得だったりします。どんな手触りか試してみたい方はまずはSpitfire公式から出ている無料の超ライト版を試してみるといいかもしれません。

・Hans Zimmer Strings

これも同じくSpitfireから。国内レビューを見かけないので書いておきます。
まず言っておくとこれだけでエピック弦のメインにするのはまずもって不可能です。基礎アーティキュレーションもないし、飛び道具系の奏法ばかりなので、あくまでサイドで使うための音源と考えた方が良い事、次に名前に冠してあるハンスジマーっぽい音は期待通りには出てくれない、音がシルキーな代わりに細いです。Spitfire全般がそうですが独特の癖が高音域になるほど出てくるので好みが非常に分かれやすい音源ともなります。
良い点を挙げましょう。まずはチェロやベースの文字通りとんでもない人数で録音しただけある凄まじい音圧の低音域。雷鳴のようなと表現されていますが確かにそうです。ハンスジマーが得意とするオスティナートを再現するうえでこれ以上ない武器になるでしょう。また、奏法は飛び道具ばかりですが、FX系の『こんな音もあるの!?』といったエフェクト系の音が盛りだくさんでドラマや映画のサウンドに貢献できる材料が沢山あります。また、好み次第ですが高音域の癖もハマればきっちりハマるのでレガートとショートくらいしかありませんしヴァイオリンも1,2と分かれていませんが、先ほども申し上げた通り飛び道具として、あるいはレイヤーとして使うにはうってつけです。

・Berlin Strings

Orchestral Toolsより。
SINE版になってから評価がガクっと上がった音源でもあります。
OT社製品はデモ音源やでも動画で上手く見せて購買意欲をそそる、ある意味Spitfireと同じような戦略をとったりフォーラムでステマ的なことをするのですが、実際蓋を開けるとなんじゃこりゃ、となる音源も多い訳で、Berlinも当初はその立ち位置でした。ですがバージョンアップと改良の果て、独自のエンジンであるSINEにシフトしてからは使いやすさが上がっています。
音のサンプル自体は古いままですが、使い勝手が良い事と昔はばら売りだった特殊奏法なども一括で今は買えるのでそのあたりも良心的になりました。
音としては編成上チェンバーサイズに近いので高音域は綺麗ですが細めです。なのでエピックに使うというよりオーケストラ音楽全般に使うといったイメージで考えていただくといいかと思います。昔は嘘っぽいと言われていた低音楽器もどういう仕組みなのか割とリアリティが増していて、海外ではストリングスライブラリの上位に食い込むに至りました。問題は値段ですね。通常時899€。かなり高いです。

Vienna系

弦音源の老舗といえばViennaですが、実は私はあまり持っていません。ChamberとAppassionataくらいです。理由としては独自のエンジンが他音源と組み合わせるには遣いにくい事と音としては派手さはなく、あくまで原音重視の脚色の無いリアリティ音源だからです。
イメージ的には大河ドラマなんかをやりたかったらVienna、ハリウッド映画をやりたかったら他の音源というくらい違うので今回はエピックということと、あまり音源を持っていない事で除外させていただきます。

・Nashville Scoring Strings

NSS。AudioOllie社から発売されているチェンバーサイズの弦音源です。
音自体は優秀で使い勝手も良いですがこれもやっぱりセクション別には分かれていないです。同社製パーカッションライブラリ、LA Modern Percussionと同じタイプのUIをしています。Spitfireのチェンバーもそうですが、エピック弦においてチェンバーサイズの音源というのは少々迫力不足となります。NSSはチェンバーサイズにしては大きめの音が出るので使えないことはないですが何かの音源と組み合わせる必要がありそうです。

・Spitfire Chamber Strings

ポップス弦ではファーストチョイス並みにお薦めしたのがこの音源です。丁度いい弦のサウンドが出ます。これか、Spitfire Studio Stringsかの二択をレイヤーして使うことをポップスではお薦めしました。が、今回は少し趣旨がエピック弦なので、先のNSSでも書いた通りチェンバーは繊細でバイト感のある音には向くのですが派手派手しい音を鳴らすには人数感が足りません。なのでチェンバーの音はあくまでNSS同様レイヤーして繊細さをプラスする目的ならありかなと思います。元々はBML Sableという音源でしたがその組みなおし音源でもあります。Disco FallなどSession strings Pro2にあるような特殊奏法も入っていて、とりあえず何はなくとも持っておくと便利な音源ではあります。ただ、Spitfireのお家芸というか、どうにもこうにもピッチが悪い事、あとは値段設定が高くて、今のご時世もともと高いSpifire音源なのに余計に高いです。

・Pacific Ensemble Strings

Performance Samplesから。
2022年後半に出てきた新しめの音源で、個人的にはCSS同様に推しやすい音源ではあります。アタックも割と早く編成数も大きい。音自体はエピックに耐えうるものだと思います。この会社では小規模弦音源VISTAやOceaniaなどクワイア系も音源が他にもありますがとにかくプラグアンドプレイの即戦力系音源が多いです。一方これもセクション分けがなかったりパッチがバラなので使いにくいイメージがあるのですが、音は矢張り優秀な部類に入ります。少し優秀過ぎてCSSのマルカートにあるようなLush(荒々しさ)感がないのでそこでどう判断するかによります。あとはポルタメントがかかりやすいことについては人によって意見が変わるでしょう。値段は張って599$。

・Tokyo Scoring Strings

ISWから。通称TSS。
アニメやゲームの劇伴、アニソンのストリングスを担当することの多い室屋ストリングスの音をキャプチャした『ジャパニーズサウンド』を目指した音源です。ですが少々食い違いがあるのか映画なんかでよくある『海外から見た日本』みたいな少し誤った解釈があるのかなと思しき点もいくつかあります。ミックスまでは相澤氏が手掛けておりますがサンプル単位の編集はISWなので少し日本の弦とは違うなと感じます。音についてですがここまで紹介した音源がふくよかな音に対して薄めで、質感はざらざらとしていて弦の生々しさがある一方高音域はシンセくさく、いわゆる『プレステっぽい音』と各所で言われるに至ります。(それが狙いなのかもしれませんが)
ゲームサウンドを求める上であえて薄いストリングスが必要な場面もありますから、そういう場面で活躍してくれるでしょうが、Tokyo ScoringシリーズはDrumも併せて何となく個人的には一番手になれない『二番手音源』のイメージはあります。

・The Orchestra/Strings of Winter

これも総合音源です。Kontaktで動作します。
着目したいのはStrings of Winterで、これ自体がエピック弦の主力になるわけではありませんが、効果音的使い方でヒステリックな鳴りを求めた時、すんなりその音がでるので部分的におすすめしておきます。

・で、結局どれがいいの?

前にポップス系ストリングス音源について書いたときもまとめましたが、
正直言うとこれは好み使い勝手、環境に依存します。正直言えばどれも良い音です。ただその方向性が違いますし、キースイッチが嫌いな人もいれば、パッチがバラバラなのが嫌な人もいれば、個別エンジンが嫌な人もいるのでそこは見極めて行ったり試せるなら試して言って決めるのが一番です。それに音の好みの狙う先を自分でしっかり考えておく必要があります。今回は前回と違って褒める一方ではなく、欠点を注視して書かせて頂きました。これは無用な散財をしないためと、ご自身の狙う通りの音にたどり着く一助になればという思いからです。私自身これだけたくさんの音源を買っておいて、未だに理想の音源にはたどり着いていません。どの音源も一長一短です。なのでソロ弦とレイヤーしたり、別音源とレイヤーして近づけていくということをしているのです。恐らく単体で完結する音源はないのではないでしょうか。

さて、今回も長々とお付き合いくださりありがとうございます。
エピックやポップス弦の参考になれば幸いです。

それでは。





























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