ストリングス音源を考える(2023前半)

お疲れ様です。
早速ですが今回はストリングス音源についてあれこれ考えようと思います。
というのも、特にポップスなんかにおいては難儀されていらっしゃる方も多いと思います。いろいろ考えてはみて、また組み合わせを変え、という結果、とくにこれといってピンとくるものはなかったという総論で帰結する場合もありますよね。自分がまさにそうです。

ポップス弦の話


ポップス弦で悩まれる方は非常に多いイメージです。というのも、日本のポップスサウンドはドライで速いパッセージを求められるからです。ほとんどの音源は海外産で海外で録音されミックスされたサンプルですから、必然ウェットでホール感の強いものが多くなりがちです。恐らくですが1つの音源で全部ができるということはないのではないでしょうか。
ということで、組み合わせを考えてみます。

前提として

以下は私の個人的な感覚でのレイヤーの例ですが、例えばChamber Stringsだけで済むならその方が良いのですが、私の場合Performance Legatoを使わない古い人間というか、Spitfire製品自体音量やピッチ感も何となく悪い気がするので普通のパッチを使うのもあって、若干アタックが遅いです。その為アタックの早い音と混ぜるというやり方を取るのですが、音を重ねるほど音のまとまりがなくなるのでレイヤーは1つ迄、計2音源にしておきましょう。
また、全部の場面でレイヤーするのではなく、繊細な場面ではレイヤーしない、パワーが欲しいところでレイヤーするなど、打ち込みにも工夫が必要です。

また、今回レイヤーするにあたって大事にしているのは
・アタックの速さ
・リアリティ
・まとまり
・ドライさ

です。この辺りを大事にするとポップスで使い物になるかと思います。

組み合わせを考えるとき大事なのはベースになる音源がある程度万能であることです。小編成でタイト~柔軟な音が出せて基本奏法あるのは恐らくSpitfireChamber Stringsになると思います。次に同社Studio Stringsかなと。この2つを先に比較すると、後者はドライステージでの録音をしているだけあって比較的ドライです。いわゆるポップス的な薄さが欲しい場合はこれがいいでしょう。しかしヴィブラート表現が非常に無機物的なので、全体的に味気はないです。一方前者Chamberは編成ではStudioの半分、また録音環境もAIR Studioのホール録音なので、残響感があるというのがデメリットの反面、元々小編成なこともあり、生々しさとアタック感、表現の豊かさを獲得していると思います。ベースなのでどちらでもよいと思いますが、予算が出るのであればChamberの方が後悔はしないのではと思います。

Chamber Strings+LASS3

定番のドライな組み合わせだと思います。LASSは8型にしてあります。
Divisiが使いたい人には用途別で部分的に弾かせるといいかもしれません。
ここで気を付けたいのがフルでドライにしたらいいというものでもなく、むしろChamberについてはクロースマイクだけにするとノイジーな部分やシンセ臭い部分が際立ってしまう一面もあります。LASSもそうですが、Spitfireはピッチには甘いところがあるので、そこを揃えながら、リバーヴか備え付けのツリーマイクなどを調整してやっていくといいかもしれません。

・Chamber Strings+Tokyo Scoring Strings

鳴り物入りの割には単体では使いにくいTokyo Scoring Stringsと組み合わせると割と使いやすく化けてくれます。TSSはポップスやアニソンでおなじみの室屋ストリングスの音をサンプリングしたISW社の音源で日本の音を再現できるよう8型編成で録音されました。しかしながら、歌モノというより劇伴を目指したのか、実際単体で使うといまいち輪郭がはっきりしないところや、弦のざらつきの生々しさの対価に音がまたくすんでいたり、高音がシンセっぽかったりとあらが目立ちます。Tokyo Scoring系は別記事で書きますが、非常に惜しい音源です。あと一歩のところで他に譲ってしまうような2番手音源と言いましょうか。Drum Kitでも同様の事が言えます。閑話休題、ということでこの二つを組み合わせてその半分の編成Chamberを組みあわせることでリアリティと透明度を上げることとしました。割合目的としてもなじむ方だと思います。

・Chamber Strings+Afflatus Strings

お高い組み合わせです。Afflatusはクワイアやパーカスで有名なStrezovから出ている弦のオールインワン音源で、1st Chairから大編成まで自由に変えられるという点ではLASSに近いものがありますが音質がよくLASSとは違った素晴らしさがあります。凄まじくアタックが早いわけではないですが、程ほど早いです。大編成でも良し、室内楽サイズもあるので透明感を出したいならこの音源を使うといいと思います。弦ならではのうまみが良く出ていると思います。とはいえポップス用というよりシネマティック用途の音源が本懐なので、ちょっと規模感が大きすぎるかもしれません。また何といってもChamberだけでも9万円ほど、Afflatusで12万円ほどなので簡単には手が出ない音源かなあとも思います。もう一つ言うと若干高音が耳に刺さります。EQで切ればいいじゃないかという話ではありますが、EQ以前のサンプル段階で耳に刺さるものなので、それも中々しんどいところがありますね。

・Chamber Strings(/LASS3)+Cinematic Studio Strings

ちょっと例外的なのか案外スタンダードなのかもしれませんが、公式マニュアル曰くV1.7に上がってポップスにも使えるとのことで1曲だけそれっぽいデモもあがっていました。この音源については下記で詳しく書きますが、V1.7前提でいくと、マイクポジションがそれまでとがらりと変わったりもして、速いパッセージはマルカートを(素早いノートはRunになるようになりました)、遅いところはレガートを使い分けるだけでもそれっぽく鳴ります。ポップスと混ぜたいのであれば、Spot1のクロースマイクメインにしていくといいのですが、如何せんそういう目的の音源ではないのと、音のキャラと主張が強いこと、高音域がヒステリックな響き方をするので、曲種は選びます。とはいえ表現力が非常に高いので壮大なスケープが必要なバラード弦や比較的オーケストラルな弦、ゆるやかな弦の表現などには適するかもしれません。


オーケストラ系おすすめ

・Spitfire Symphonic Strings

使いやすいうえ非常に芳醇な音がします。
サンプル自体はBML Muralの再構築ですが、それを言えばChameberもBML Sableの再構築ですので、全体的に使いやすくなっていると思います。


・Albion ONE

総合音源です。オーケストラ要素を全部突っ込んであるので、このパッケージだけでオーケストラ曲のモックアップは作れると思います。とはいえ、音が良いのでパーツとして本番に組み込めるだけのパワーがあります。
シリーズが一応ありますが現時点では冷静なサウンドに特化したAlbion V、小編成型のAlbion NEO、エスニック系のAlbion Solsticeがあります。

・Metropolis Ark1

Orchestral Toolsから出ている総合音源。Albion Oneと役割は同じです。ここは好みになるのですが、収録内容も基本的にできることも同じ音源といった具合です。こちらも音が本格的なのでパーツで使っても良いと思います。ちなみにこのシリーズの2は民族的、3は打楽器的、4は小編成と役割が分かれています。

BBC Symphony Orchestra

Albion同様にオールインワンでありながら良い音でなるのがBBCです。デモ段階ではこんなもんかあ、まあ弦専用ではないしなあって感じでしたが実際触るともう少しイメージが変わります。十分実用に足る音かなというレベルには達してくると思います。

シネマティック系のおすすめ。

Cinematic Studio Strings(V1.7)

あれやこれやと試しては結局帰ってくる音源です。
発売から6年以上たちますが海外でも高い評価を得続け、継続的なアップデートを重ねている人気どころです。V1.7で大規模なアップデートが入り、マルカートなどの使い勝手や、兼ねてから問題だったレガートの遅延が割と解決されて更に化けました。正直シネマティック系音源のファーストチョイスはこの製品でいいのではないかと思います。価格も手ごろですし、やりたいことは大体できるようになっています。エピック系のストリングス音源ではこれを使うとまず失敗はしないだろうというところです。特殊奏法はないですが、基本奏法は大体あるので、これか、同社製の過去製品Cinematic Strings2でも使い分けでいいかもしれません。これ単体で使うもよし、Cinematic studio solo stringsという同社製のレイヤーを目的としてもいるソロ弦とレイヤー関係にしてにも使えますがかなりヴィブラートがかかるので少し調整が必要です。
またこのCSシリーズにはWoodwinds、Brass、Pianoが現時点でリリースされており、システム構築がこのCSシリーズだけで出来るので整合性が取れた音に仕上がりやすいという非常に強いメリットがあります。ただ、コスパが良く比較的安価なだけに手を出す人も多く、音も個性的ですので使っている人が多いイメージがあって、個性が埋没する可能性がありますので、その点では別の音源をチョイスするのは悪い事ではないと思います。

・Cinematic Strings2

CSSの前の製品ですが、別の利用方法があります。ドライステージで録られたCSSに対して、ウェットなCS2となのでCSSのドライ感が苦手な場合はこちらを使ってみるのをお勧めします。

Hans Zimmer Strings

あんまりレビューを見ないので書いておきます。
パズルみたいな音源です。
ハンス・ジマーのシグネイチャー弦音源と考えるとよいでしょうが、
彼の曲から連想される楽曲から期待されるような派手派手しさを期待すると痛い目を見ます。どちらかというと壮大ながらも繊細な動きの方が得意です。ヴァイオリンだけで60人もいる総勢350名近くの超編成、
持っていてもいなくてもいいのですが、あると幅は広がる音源です。ただし、10万円前後と高いうえに、300GBも消費するマンモス音源なので、ここは環境と財布によりけりです。さっき書いた通りそれ単体で聞くとCSSより繊細な音がして、よく言えばシルキー、悪く言えば高音域はエピック弦にしては細いです。何より、特殊奏法がメインでロング系とショート以外では基礎奏法がなかったりするので、ファーストチョイスには向きません。ハンスジマーのサウンドといえばダークナイトやインセプションを筆頭とした音を連想するでしょうが、どちらかというとインターステラーみたいな実験的なサウンドに近いのかなと思います。それなりに近い響きを持っているのが先述のSpitfire Symphonic Stringsで、こちらは高音がしっかり太いのでまとまりではそちらの方が圧倒的にまとまって聞こえる印象かなと思いますがSSSに比べると映画音楽向きというだけあってロング系の立ち上がりは早いですが、同時にAlbion Vなどの冷静なサウンドとも海外では言われています。激しく情動を揺さぶる所に目が行きがちな映画、特にハンスジマーの弦のシグネイチャーという理屈に対し、これらの点で賛否両論となった音源でもあります。CSSのコスパが良すぎるので相対的に色々悪く聞こえるかもしれませんが、決して悪い音ではありません。というかかなりいい音です。色々奏法があり、むしろこれでしか再現できない音や表現があるので、替えが利かない音源という立ち位置で考えてよいでしょう。楽々にメインの音をくみ上げられるCSSとは逆で、特に飛び道具的アプローチもできるので慣れた人ほど使うといいかもしれません。そういう意味では通常の使い方と当てはめて考えるより、あれこれ試行錯誤したり遊びを入れたりする、この音源こそインセプション状態になりそうな、本当にパズルのような音源という表現が合っている気がします。盛る形になるのですが、CSSなどと組み合わせると、いかにもシンフォな響きをして悪くありません。癖はありますが基本以上の扱いが出来れば大丈夫でしょう。ちなみにSpitfireのこの音源や近年のシリーズはVST規格ですがメモリを物凄く食います。SSD推奨。そこは注意です。

・結局のところ

まあ、ここまで来て言うのもなんですが、ぶっちゃけリアリティはどの音源も一定水準を満たしていて担保できるレベルなので、あとは好みです。そして生に決して届かない壁のようなものが依然存在していて頭打ちの印象も少しあります。色々とSpitfireなんかはAppasionataなど面白いレガートの新機軸を作っていたりするのですが、生録の弦には未だ勝てるものではありません。特に昨今は減っていますがメロディをなぞるような強いパワーが必要なアニソン系の弦なんかは強さ・速さ・透明度・若干のざらつきが必要なので、それを思うとすべてを満たす音源はまだ登場していないか、今後もしないのかもしれません。とはいえ、対旋律をがちゃがちゃやってそれっぽく聞かせるボイシングには適していて、顔にはなれないがいい右腕になるという感じの音源は多いです。あとはニーズ次第なのでどうともいえませんね。
ともあれできることは試行錯誤とよりよいオーケストレーションの工夫なので、結局このNoteも提案こそすれこれといった結末もなく終わることとなりますが、あなたの弦音源選びの一助になれば幸いです。








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