note用エッセイ画像

3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.11 三つ子と「私」

 ――2人と手を離してみたらどうだ。

 私は笑顔を顔に貼りつけたまま、首を傾げた。
「これは、2人にも話したことがあるんだけどね。今まで3人は仲良く手を繋いでいたんだよ。だから、他の2人がしていることとか考えていることは、しっかり見えるし、いろいろと影響を受ける」
 確かに、2人がしてきていることは、うんざりするほど見てきた。見てきていろいろ考えた。
「でもさ、それって、その3人の中にないものには手を出しにくいんだよね」
 言葉の意味がよく分からない。
「手を繋いでいるからさ、3人の外にあるものは見えにくいし、手が塞がっているから手を伸ばせない。それって、凄くもったいないじゃない」
 嗚呼、だんだん漠然とだが、その言葉の意味が鮮明に見えてきた。
「せっかく、3人いるのに、視界が狭まってしまったらさ。そうでしょう? 3人いるなら、3通りの世界があった方が面白いじゃない。だから、さ」
 先生は、手を離すような仕草をしてみた。
「まずは片手を外してみてごらん。それだけでも違って見えてくるはずだよ。2人に囚われずに、自分がしたいこと、一番したいことが見えてくるはず。そしたら――」
 先生は両手を顔の横に持ってきた。
「いつの間にか両手を離しているはず」
 不意に視界がぼやけた。溢れ出さないように必死に堪えた。
「大丈夫。手を離したって、いつでもまた手を繋ぐことはできるんだから。今度手を繋いだときは凄いぞ。3人で魅力3倍なんだから」

 先生は、分かっていたんだ。気づいていたんだ。
 私よりも先に私のことを。

 2人が羨ましかった。2人に、どうやったら近付けるんだろうと、ずっと、ずっと考えていた。考えれば考えるほど、2人しか見えなくなって、肝心の自分自身が見えなくなっていた。
 気が付けば、自分が本当に一番したいことが見えなくなっていて、見えない中で唯一見えている2人に縋っていた。
 別に金属工芸がしたかったのは、嘘じゃない。でも、それは私が今本当にしたいことなのか。
 もう一度、今度はしっかりと自分自身を探して、捕まえて、問いただしてみた。

 答えは「NO」だった。

 その答えを聞いた瞬間、見えなかったものが、見えてきた。
 自分に掛けていた呪縛から解放されたような気がした。
 私が本当にしたいこと、私がどんな「私」を選びたいのか。

 次、先生のところに行ったとき、私の手にデッサンの紙はなかった。
「先生、私、心理学を学びます。……教えてくれてありがとうございました」
 その選択に、先生は何も言わず、ただ真っ直ぐ私の目を見て、笑っていた。
「頑張れ」
 ただ、それだけの言葉に大きなメッセージが乗っていたような気がした。

#エッセイ #三つ子 #日記 #記録 #3人を生きる

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 自分の記録やこんなことがあったかもしれない物語をこれからもどんどん紡いでいきます。 サポートも嬉しいですが、アナタの「スキ」が励みになります:)