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3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.18 触れる解かれる歩く

 指先が2人の背中に触れた瞬間、もう一度離れないように、精一杯腕を伸ばした。頼りない脚に力を入れ、地面を強く蹴った。指先から掌へ、そこに遅れて胴体が背中に近づき、肩が2人の肩に触れた。

 追いついた。
 やっと、2人に追いついた。
 安堵なのか達成感なのか分からない感情が込み上げた。

「私にも、ちゃんとあったんだ。やっと見つけたんだよ」

 私は笑っていた。しかし、2人は私を見て、呆れた顔をした。

「やっと気づいたかバカタレ」

 三女が肩を竦めた。そして、私を指差した。

「私は、昔も今もあんたが後ろにいたことなんかなかったんだぞ」

 何も言えなかった。意味が分からなかった。
 2人はずっと前にいて、私はそれをずっとずっとずっと追いかけていた。追いかけていたはずなんだ。

 戸惑う私の肩に2人は手を置き、三女がもう一度口を開いた。

「ずっと一緒に歩いてきたじゃないか、前に進んできたじゃないか」

 2人の体温が私の体を温めた。
 目頭が熱くなって、鼻先がくすぐったくなって、じんわりと視界がぼやけて、何が何だか分からなくなって、喉が詰まって、唇が震えて、目尻から頬へと伝い、私はやっと音を発した。
 声にならない声を、誰に向けるでもないその声を、2人が許すまま、自分がせり上げるまま、我を忘れて発し続けた。

 一人でずっと焦っていた。足許を見ては、必死に背中を追いかけた。転ぶことも、立ち止まることもあった。それでも、2人に追いつきたくて、一緒に歩みたくて、もがきながら前に進んだ。やっと追いついたと思っていた。
 でも、2人はずっと隣にいたんだ。

 追いついたんじゃない。私は今、やっと紐の結びが固かった目隠しを外したのだ。
 これからはちゃんと見れる。

 気が付くと、2人の姿は見えなくなっていた。

 ――嗚呼、そうか。

 三つ子への執着が、依存が、ぷつりと音を立てて切れた。
 頼りない脚の震えが止まった。
 2人のいたその先に、道はなく、ただ広々とした空間が広がっている。追うものは、もうない。
 一度、深呼吸をする。肩の力を抜く。
 恐れることはない。迷うことはない。もう、私は、自由に歩ける。
 まだまだ頼りなさのあるその足をゆっくりと持ち上げ、一歩踏み出す。
 道がないなら作ればいい。作れることを喜べばいい。
 これからは、自分の道を作るのだ。


#エッセイ #日記 #記録 #三つ子 #3人を生きる  

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