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3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.19 三つ子再び

 相変わらず、私は、特に評価を求めるわけでもなく、執筆活動を続けたり、アクセサリーを作ったりして、自分の生活を充実させていた。
充実している中、三女が手を挙げた。

「起業しようよ」

 唐突過ぎて、最初、何を言っているのか分からなかった。
 折角、三つ子に生まれてきたんだし、何か三つ子でやりたい、というのは、三つ子の中でも話してはいたし、周りからも面白そうだと提案されていた。
 しかし、そうきたか。

「起業って言ったって何をするの?」

 疑問であった。3人共、モノ作りは好きだが、作るモノは違う。強いて言えば、他2人が絵を描くというので共通しているくらいではないか。
 首を傾げる私とは打って変わって、三女はにこにこしている。

「決まってるじゃん。モノ作りだよ!」
「でも、私は、売れるものなんて」
「何言ってんだ!」

 三女が、私に顔をずいっと近付けた。

「それぞれあるじゃないか! 長女はアクセサリー、次女は家具や食器、私は服や編み物! ほら!」

 確かに、私は、趣味の範囲ではあるが、アクセサリーを作るのが好きだ。次女も高校時代から、木を彫っては、木彫像やマグカップなんかを作っていたし、進学先でも木工芸を専攻していた。三女も進学先は服飾系に行き、ずっと好きだった服を自分でデザインしたり作ったりしていた。
 しかし、作るモノが点でバラバラだ。共通点がなければ、それは難しいのではないか、と漠然とした疑問が浮かんだ。
 相変わらず、三女は楽しそうに夢を膨らまし、口を開く。

「お母さんは、雑貨屋を開くことが夢だったでしょ? ほら、雑貨屋みたいに何でも売るの! 自分たちで作ったものをね! それでね、作るモノは違くっても、ちゃんと、共通点はあるんだよ」

 私は、その続きの言葉を待った。

「物語だよ」

 ――物語。

「物語を作ってさ、その物語の中で出てくるモノを作って、現実に飛び出して来たら凄く素敵じゃない?」

 忘れていた子供の頃の純粋なときめきが戻ったような気がした。頭の中の世界を表現する「書く」こととは違う方法。三女のその夢が、頭の中で共有されて、自然と笑みがこぼれてきた。

「例えば、お話の中で出てきたおばあちゃんが編んだ青いセーターとかね! ヒロインの子がつけていたピアスとか、あと、小さな女の子お気に入りのごつごつした木のマグカップとか!」

 三女は、人をワクワクさせるのが上手いなあと、聞きながら素直に感じた。
 漠然とした、三つ子で何かしたいね、という願望が、徐々に形となっていくのを感じた。
 現実を見ろ、という社会の厳しさも目に入らないくらい、3人でその夢を見た。
 高校までの願望が、徐々に掴める可能性をちらちらと覗かせてきた。

 もう、夢を語るだけの時間は過ぎた。今度は、夢を掴む時だ。
 自然と拳に力が入った。

 夢を見る3人は気が早いのか、名前を考え始めた。言うなれば、ブランド名というやつだ。
 それは、最初から決まっていたかのように、一日も、更には一時間も掛からずに決まった。

 ――3FacE(スリーフェイス)。

 何の議論もなく、一番最初に出て、他に何かと案を出すわけでもなく、「やっぱこれかな」と3人で納得した。

 同じ顔、同じ声、同じ背丈。
 一緒だねと言われてきた。
 好きな食べ物、好きな人のタイプ、喧嘩した時の特徴。
 全然違うねと言われてきた。

 同じところもある。同じ過ぎて浮き出る違いもあれば、見落とす違いもある。

 これまで、浮き出る違いばかりを指摘されてきた。
 だが、今度は違う。
 皆が見落としていた違いを、今度は私たちが積極的に見せていく。
 それが、3FacE。3人がそれぞれ持つモノを思う存分に発揮していく。

 ある日、2人の担任であった先生の言葉を思い出した。
 ――一度、手を離した。葛藤した。自分を探すのに苦しんでもがいて、やっと一つその端を掴んだ。そして、今度は、また、3人で手を繋いだ。
 今度はいつでも手を離せる。いつでも繋ぎ合える。
 そして、手を繋いだ今、魅力は3倍だ。きっと、何かを生み出せる。どこから湧いてくるか分からないが揺るがない確信があった。

#エッセイ #日記 #記録 #三つ子 #3人を生きる  

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 自分の記録やこんなことがあったかもしれない物語をこれからもどんどん紡いでいきます。 サポートも嬉しいですが、アナタの「スキ」が励みになります:)