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メディアに溢れる「アンチワクチン」デマに騙されるな|知念実希人

ワクチンはパンデミックを終息させる最終兵器である。/文・知念実希人(作家・内科医)

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▶︎日本ではワクチン接種に先立ち、科学的根拠のない言説やデマがメディアに溢れている
▶︎ワクチン接種で重要な点は、7割以上の人が接種すれば、一定数の人が免疫を持つ「集団免疫」の状態がつくられる点
▶︎誤情報やデマに惑わされることなく、ワクチンの効果とリスクを正しく理解してほしい

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知念氏

なぜワクチンが救世主とみられているのか?

国内で新型コロナ感染者が確認されてから1年あまり。2月下旬から日本で待望のワクチン投与が開始される予定となりました。

すでに全世界で人口の0.8%にあたる6400万人が新型コロナワクチンを接種しています。治療薬の開発がなかなか進まないなか、ワクチンによって集団免疫を得ることは早期にパンデミックを終息させる最終兵器といえます。

私は作家としての執筆活動の傍ら、都内のクリニックに勤務し、自身でも新型コロナ患者を必死で診てきました。国内におけるワクチン接種の報に触れたときは、新型コロナ制圧までの長い、長いトンネルの果てにようやく光を見た思いでした。

ところが、日本ではワクチン接種に先立ち、科学的根拠のない言説やデマがメディアに溢れています。インターネットから、全国紙、週刊誌までがさかんに報じている。

そうした誤情報を読むにつけ、医療従事者として、出版メディアに携わる一員として、強い憤りと困惑をおぼえます。いま私にできることは医師としての経験、知識をもとに、新型コロナワクチンに関する正しい情報をお伝えすることだと考え、インタビュー取材に応じました。

なぜワクチンは新型コロナ終息の救世主とみられているのか。それは今のところ新型コロナの特効薬が存在しないからに他なりません。

中国武漢で新型コロナウイルスが確認された昨年1月から、新型コロナ患者に対して、様々な抗ウイルス薬が投与されてきました。新型インフルに使われるアビガン、エボラ出血熱のレムデシビル、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン……。試験管レベルの治験で有効性が見られた薬はあったものの、人体への大規模な臨床試験ではすべて失敗に終わった。ある程度の有効性がみられるケースはあっても、劇的に死亡率を下げる薬は見つからなかったのです。

唯一、死亡率を下げた治療薬が副腎皮質ステロイドです。ステロイドによって、新型コロナの感染で過剰に活性化された免疫細胞による炎症を抑え、死亡率を下げることができました。ただ新型コロナウイルス自体を撃退することはできませんし、使い方によっては病状を悪化させる恐れがあります。

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ファイザー社製のワクチン

弱毒化しないウイルス

特効薬が見つからないとなると、ウイルス制圧には「集団免疫」しか残されていません。大多数の国民が感染者となって抗体を得るか、ワクチンでそれと同じような状態をつくり感染流行を止めるか。この2つしか選択肢はないのです。100年ほど前のスペイン風邪は、大多数の国民が感染することで終息しました。

今回のパンデミックで当初、ワクチンの完成を待たずに「集団免疫」を選択したのがイギリスです。昨年3月上旬ボリス・ジョンソン首相は、「多くの家族は身内・親友を失います」とスピーチし、多数の国民が感染することで「集団免疫」を得る方針を打ち出しました。しかし数十万人の死亡者が出るシミュレーション結果が出ると、すぐさま集団免疫策を撤回。結局、都市封鎖(ロックダウン)に追い込まれました。

日本でも集団免疫について議論されましたが、ワクチンなしで集団免疫を得るには10年程かかるといわれ、京都大学の西浦博教授は外出自粛などの行動制限を何もとらなかった場合、40万人以上の死者が出るとの試算を出しました。特効薬もない、集団免疫も難しい。第1波の段階で全人類が新型コロナに対抗するべき手段は何もなかった。

新型コロナと対峙するなかで、我々、医師たちが手を焼いたのは感染者か否かの判断です。私の経験でも、新型コロナに特徴的な症状である味覚・嗅覚の異常がみられる患者さんは2、3割程度で、ほとんどが通常の風邪と区別がつかない。少しでも怪しいと思ったらビニールカーテン越しに診察しPCR検査をするしかありません。

新型コロナは無症状感染者、発症前の患者からも感染します。さらに新型コロナは弱毒化していません。通常ウイルスは人体に適応することで、その症状を弱め、その弱いウイルスの感染が広がることで、自然と致死率が下がっていく。しかし新型コロナにはこうした特性は今までのところ見られないのです。

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西浦教授と試算のグラフ

奇跡のワクチンが完成した

絶望的な状況のなか、わずか1年あまりで感染予防率90%を超えるワクチンが開発されたことは本当に奇跡的なことです。

ワクチン接種というと、個々人の感染抑制や重症化防止のためと考える人が多いようですが、より重要なのは、7割以上の人が接種すれば、一定数の人が免疫をもつ「集団免疫」の状態がつくられる点です。そうすれば「免疫の壁」ができ、たとえ感染患者が出ても他の人に感染しにくくなる。新型コロナの流行が止むことで免疫を持たない人も感染から守られ、終息に向かうはずです。

効果の高いワクチン開発には、数年はかかると見られていました。最初はまず質の高くないワクチンによって高齢者などの重症化を防ぎ、時間稼ぎをしながら、改良された第2、第3世代のワクチンの開発を待つしかない。そんな見方が大半でした。ところが、わずか1年あまりで最高レベルの効果をもつワクチンができた。世界中の医療関係者が欣喜雀躍するほどの完成度だったのです。

実際に世界最速のペースでワクチン接種が進められているイスラエルでは、すでに人口の2割以上がワクチンを1回接種しています。接種から7日以内で感染者は4484人でしたが、8日から14日以内で3186人、15日から22日後では353人と、感染者が激減しており、ワクチンの効果が強く示唆されています。

なぜ短期間で高レベルのワクチンの実用化にこぎつけられたのか。安全性を軽視して猛スピードで作ったと報じるメディアがありますが、完全な誤りです。

他の薬品と同様、適切な手続きを踏んでいます。アメリカ食品医薬品局(FDA)などの承認機関がもうける医学的、倫理的な基準を完全にクリアし、ワクチン投与によるリスクよりもメリットが上回ると判断され、正式認可されているのです。

トランプ前大統領は、選挙戦でアピールするため、FDAに対し、特別に早く承認するように圧力をかけていました。しかしFDAはきっぱり拒否。2カ月の経過観察期間を死守し、そのうえで認可しています。

早期のワクチン開発が実現した最大の理由は、ビジネス上の理由、すなわちお金の問題です。ワクチンの開発、なかでも大規模治験には莫大な資金がかかる。通常、製薬会社は、採算がとれるかどうか時間をかけて、シビアに判断します。その経営判断に年単位の時間がかかるのです。しかし今回のパンデミックにおいてはアメリカをはじめ各国政府が莫大な公的資金を投じるため、製薬会社は経営上のリスクを考慮することなく、ワクチンの実用化を急ぐことができたのです。

もう一つの理由は、欧米で感染爆発が起きたことです。通常、数万人規模で行う臨床試験は、結果が出るまで時間がかかる。しかし昨年の秋から冬にかけて各国で感染爆発が起きたため、感染者の症例を一気に集めることができたのです。

日本政府は、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社の3社と、計約3億1400万回分の供給を受けることで合意しています。1人につき2回の接種が必要で、日本の全人口を上回る約1億5700万人分が確保できています。

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河野太郎ワクチン担当相

mRNAワクチンとは

今回、最も早く、そして多く供給されるファイザー社製のワクチンは、風疹やおたふくかぜなどの感染予防で接種する生ワクチンではなく、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと呼ばれる新しい構造のワクチンです。

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