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元エンジニアがITパスポート試験を受験する意味について考える

先日ITパスポート試験に無事合格しました。
実は、受験するかどうかについてはいろいろと考えることがあり、結果的に受験してみて良かったと思えたので、そのことについてざっくばらんに書いていこうと思います。
エンジニアの方や元・非エンジニアの方、学生の皆さんがこの試験にチャレンジしてみようと思うきっかけになればと考えています。

ITパスポート試験とは

ITパスポート試験は情報処理の促進に関する法律に定められた国家資格で、経済産業大臣が実施するものとなっています。
国家資格の名称は情報処理技術者試験で、その試験には4つのスキルレベルがありますが、ITパスポート試験はスキルレベル1に相当する試験です。

ITパスポート試験のWebサイトでは、この試験について以下のように説明されています。

iパスは、ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべき、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です。」

ITパスポート試験 > iパスとは

さらに、2022年4月からは高校で必修となる「情報I」に対応するよう、出題範囲の拡大とシラバスの改訂があり、情報処理技術者試験の試験事務を担うIPAからは2021年10月8日に以下のようなプレスリリースがありました。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構、理事長:富田 達夫)は、国家試験であるITパスポート試験(iパス)について、高等学校の共通必履修科目となる「情報Ⅰ」に対応した出題範囲やシラバスの改訂(iパス6.0)を実施し、IPAのウェブサイトで公開しました。

プレス発表 ITパスポート試験にプログラミング的思考力等の出題を追加

エンジニアとIT資格

エンジニアとして仕事をするためには、IT資格を必要とする場合とそうでない場合があります。私は後者であったこともあり、エンジニアとして仕事をしていたことはあるものの資格を取得しないまま過ごしていました。

エンジニアにIT資格は必要か

IT資格を必要とするケースとしては、クライアントから依頼されて業務を請け負うケース、技術を提供するケースが挙げられます。
例えばSIerの社員、派遣会社に登録して派遣就労する場合や、SES(System Engineering Service:システムエンジニアリングサービス)から派遣される場合、フリーランスのエンジニアとして仕事を受ける場合などは、その仕事を請け負うエンジニアがクライアントが求める技術力を有しているかどうかの証明が必要になります。

また、上記職種以外であっても転職活動をする時にはIT資格を持っている方がエンジニアとしての技術力を説明しやすいため、有利に働く場合があります。最近では教員採用試験などでもIT資格を有することが加点対象となる自治体も出てきました。
特に実務経験がなく新たにIT系の仕事に転職する場合には、資格を持っていることが採用の必須条件となることもあります。

一方自社開発のサービスに関わる場合や、非IT企業の情報システムに関わる場合などでは特にIT資格を求められず、職務経験などで判断してもらえる場合も多くありました。(注:10年以上前に最後の転職をした筆者経験による認識)

特にベテランのエンジニアは、IT資格を持っていないからといって技術力が低いわけではなかったりします。経験が長ければ、業界内でのつながりで仕事が舞い込むことも多々あります。そういった点ではIT資格を持たずにエンジニアとして活躍することも不可能ではないですが、特に経験が浅い場合や、技術力を証明する手段がない場合にはIT資格が役に立つことも多いのではないかと思います。

弊社の社長もITパスポートは持っていなかったものの、その技術力は誰もが認めるところでしたし、そういう意味では資格を取得する必要はなかったと言っていいでしょう。
必要だから取るのではなく、あくまでも社員に資格取得を勧めたいから自ら率先して受験したということです。

IT資格の落とし穴

今回取り上げた情報処理技術者試験などは1度取得してしまえば更新等は不要です。
更新不要なのはコスト面でありがたい面もありますが、移り変わりの速いIT技術を扱うため、昔取得した資格をそのまま信用して良いのかという点においては疑問があります。

対してベンダーが実施する資格試験等は更新やレベルアップが必須のものが多くなっています。
更新し続けていれば、常に最新の技術力を証明できるのですが、受験料や勉強する時間などのコストが高くなります。
更に、ベンダー資格はそのベンダーの持つアプライアンスや独自プロトコル等に特化したもので汎用性には欠ける面があります。

資格のレベルやその資格が有効な業種・職種などを考慮しなければ、無駄になってしまう場合もあるのです。

情報処理技術者試験でもベンダー資格でも共通するのは、資格を持っていることがイコール「仕事ができる」ではないということです。
試験内容には一部実技を含むものもありますが、基本的には「専門知識」を問うものであり、試験対策書籍などの丸暗記で取れてしまうものです。
実際、情報処理技術者試験のスキルレベル2相当を持って入社した人材が、実際の業務では試験で想定されていない場面に対応できなかったり、実務ノウハウがないために指示を理解できないなどはよくあることです。

専門用語に対して「認知」はできているが「認識」できていない、用語と実際の動作とが結び付いていないという状態は、経験がないと乗り越えることが難しいということでもあります。

そのような背景もあり、私自身もどうしても必要なものでなければ取らなくても良いという認識がありました。

なぜITパスポート試験を受験したのか

すでにエンジニアとして仕事をしておらず、研究所でも教育学の研究をしている私がなぜ今更ITパスポート試験を受験したのか。
それは、弊社内で起こったムーブメントに影響されています。

このTweetに対する反応は様々でした。
例えばエンジニア社長なのに今更ITパスポート試験なのか?とか、もっと上位の資格じゃないと恥ずかしいといった恐らくエンジニアの皆さんからの反応。
しかしそれ以外に、社長自らチャレンジの手本を見せることは重要という意見をはじめ、社員全員がITパスポート試験合格を目指すことに意味がある、そのために社長が率先して受験・合格したことを評価するという意見も多く見られました。

社長がITパスポート試験に合格したことをTwitterで公開し、それに続いて有言実行…とばかりに役員が続々と合格を発表しました。
このことによって、私自身もとてもチャレンジしやすい状況になりました。

社長のTweetへの反応にあったように、(元が付くとは言え)エンジニアなのにITパスポート試験すらまだ取っていない=恥ずかしいという感覚を自分自身も持っていました。
また、スキルレベルについても、それなりのエンジニア経験がある以上ITパスポート試験の受験は恥ずかしいと思う気持ちもありました。それこそ万が一落ちたりしたら立ち直れないぐらい凹むのではないか…と思っていました。

でも、社長をはじめとした役員の行動に背中を押されたことや、この試験の内容を知ることが自分自身の研究に何かしら役立つだろうという思いから、受験してみることにしました。

受験してみてどうだったか

受験の準備としては、1度だけ過去問題をやってみました。その結果特にテクノロジ系では自分が持っている知識でも合格に充分な点数(9割ほどの正答率)が取れました。
ストラテジ系は5割、マネジメント系は6割程度の正答率でしたが、分野別評価点の足切りにはかからないレベルだろうということがわかりました。

もともと自分がここまでで蓄積してきたIT知識の力試しという気持ちもあったため、それ以上の準備はせずに試験に臨みました。

実際の試験の結果は、なんとテクノロジ系の正答率が6割!思ったよりもできていなかったことにがっかり…。
ただ、マネジメント系は8割正解していました。
ストラテジ系は過去問と同様5割。
全体としては思ったよりもかなり低い点数での合格になってしまいましたが、一応合格は合格です。
3月で学生の受験者が多かったためか、合格率自体かなり低め(46.7%)でした。

受験してみて、テクノロジ系の出題はかなり最近の技術についての比率が高くなっていることが改めてわかりました。準備の時に取り組んだ過去問題に比べて特にAI、IoT、ブロックチェーン、クラウド(SaaSやAPIなど)などの用語の理解やそれらの利活用についての設問は、基礎的なコンピュータサイエンスの知識を問う設問よりも出題数が多めになっていたように感じられました。

設問は受験のタイミングによっても微妙に変わってくると思うので何とも言えませんが、ベテランエンジニアでも業種によってはかなり苦戦しそうな内容だと思います。特に経験している領域がクラウドサービスを利用する立場ではなく、大きな(比較的レガシーな)システムの構築がメインだったりすると、実務ではあまり出てこないような用語に戸惑うかもしれません。

逆に最近勉強を始めた学生には有利な点もあるように思いました。
特に小学校から「プログラミング的思考」を積み上げて、高校の「情報I」を学んだ学生にとって、テクノロジ系の問題は学校で学んだことを確認する場にもなりますし、大学受験(の情報I)にもつながるでしょう。
疑似言語を使ったプログラミングの問題は大学受験でも出題される予定とのことですし、ここは捨てるところではなく逆にラッキー問題と言ってもいいのではないでしょうか。

マネジメント系は、プロジェクトマネジメントの経験(と言ってもかなり小規模)がある程度あるため自分はイメージしやすかったのですが、これもレガシーなプロジェクトマネジメント(ITIL3以前)の知識では難しい面がありそうです。アジャイル開発、DevOpsなどの知識は必須です。

また、セキュリティマネジメントや組織のガバナンスに関する設問も多数あったので、単なる工数管理、人員管理、コスト管理の知識ではなく、ITを使って組織を健全にマネジメントしていく手法の知識が必要だと感じました。私の場合、以前の職場でISMSやPMSの取得に少しだけ関わったこともあったり、現在の職場でも定期的にそれらの運用がされているため、経験で知識をカバーできる部分もありました。

ストラテジ系はあまり得意ではないという認識がもともとあった(けど特に勉強はしなかった)ので、試験の印象も薄くてあまりどんな設問があったのか明確に思い出せないのですが、主に財務や事業戦略、IT戦略に関する基本知識が問われる設問でした。正直知らない用語もたくさんありました。
ただ、この辺りはITに限らず経営者や営業職の方、経理や財務を担当されている方は強いと思います。ITの知識に自信がなかったとしてもぜひチャレンジしてみていただきたいです。

まとめ

ITパスポート試験の受験は、自分にとって改めて知識の偏りを知るきっかけになり、失敗を恐れず恥ずかしがらずに受験して良かったと思います。
ITパスポート試験の持つ汎用性や、学校教育で実施される情報活用能力育成との関連性を知ることができたことも良かったです。

「簡単だ」と仰る方もいらっしゃいますが、弊社の社長が語るように舐めていると落ちると思います。特に情報処理技術者試験を過去クリアした方でも、それが10年以上前というケースでは、テクノロジ系やマネジメント系の知識がアップデートできていなければ点数が取れません。「簡単だ」と思うエンジニアの方はぜひ1度受験してその実力を証明して見せることをお勧めします。

また、非エンジニアの方や学生の方も、この試験の受験を通じて社会に必要とされている知識・スキルや、今トレンドの技術について学ぶきっかけが作れますので、ぜひ受験にトライしてみてはと思います。
IT企業、非IT企業に関わらず、どんな企業活動においてもITの利用が前提になってきています。
合格しておいて損はないと思います。

特に官公庁の皆さん!教育委員会の皆さん!優秀なIT人材を獲得したければまずは自分たちがそうした人材と適切なコミュニケーションが取れるようにITパスポート試験にチャレンジしましょう!

義務教育や高校で情報活用能力を学び、大学受験でそれが問われるということは、それがすでに「基礎知識」「常識」となりつつあるということです。この流れが進むにつれて、若年層の合格率が上がってくることが予想されます。
実際、つい先日基本情報技術者試験と情報セキュリティマネジメント試験で合格最年少記録が生まれたと発表されましたね。

お子さんがいらっしゃる方は、お子さんが学校で学ぶ内容を一緒に学びながら試験にチャレンジしてみるというのも素敵だと思います!
ITパスポート試験を通じてお子さんにこれから必要となる知識を知ることもできます。

エンジニアも、そうでない方もぜひITパスポート試験にチャレンジしてみてください!

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