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しそちょう島自然史博物館第5回特別展「ドキドキ毒々二択トリック!」展示解説 その3:コラム編

本記事はその1:出題編とその2:解答編で扱われなかった、クイズでない展示の解説です。

主に毒があることが明らかな生き物や、毒はないもののハロウィンに合った雰囲気の生き物、毒のない生き物とペアにしてクイズとして出題しづらかった生き物を取り扱っています。

第1エリア:海の百鬼夜行

ちくちく仲間

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小さな海の生き物がたくさん並んでいます。

ウニ、パイプウニ、ナマコは棘皮動物というグループです。ウニの中には棘に毒があるものもいますし、ナマコやヒトデといった棘のない棘皮動物の中にもサポニンという弱い毒で食味を苦くして身を守っているものがいます。

ウミウシとヒラムシはなんだか似ていますが、ウミウシが巻貝なのに対してヒラムシは扁形動物といってプラナリアなどと同じグループに属します。しかしどちらも、クイズで見た鱗翅類のように食物から取り入れた毒を蓄積しています。

ミズクラゲとイソギンチャクは刺胞動物というグループに属します。刺胞動物の刺胞とは、毒袋・毒針・毒を射出するバネなどが一体になったごく小さな器官です。これを多数持つことによって刺胞動物は襲ってきた相手や獲物となる生き物に刺すような痛みと毒を与えるのです。

しかしクマノミの仲間の粘液にはイソギンチャクの刺胞の射出を抑える働きがあり、これによってクマノミはイソギンチャクの触手に潜んで身を守ることができます。イソギンチャクにも隠れ家である自分をクマノミに守らせたり周りの水を交換させたりすることができ、お互いメリットがある共生(相利共生)が成り立っています。

ロリポップの化石?

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毒とは無関係ですがハロウィンの話題として。

「サメのはのかせき」はまるでロリポップのように渦を巻いています。これは普通のサメの歯ではなく、ヘリコプリオンというサメに近い別のグループの魚の歯です。

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これは城西大学の化石ギャラリーに展示されている、とても状態の良いヘリコプリオンです。どのように顎に付いていたのかは不明だったのですが、最近ではこの写真でいうと右を前にして下顎にほとんど埋まるようにして収まっていたと考えられています。

個々の歯の根元が隣の歯と組み合わさっているのが分かると思います。すぐに抜けて生え変わる普通のサメの歯と違ってしっかり固定されていたのかもしれません。

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西部高原の入り口にもロリポップのように渦を巻いた、アンモナイトの化石があります。ヘリコプリオンと同じく渦を巻いていますが、どちらも内側が先にあって外側から継ぎ足されるように形作られていくものをコンパクトに収める構造になっています。ロリポップも長く伸ばした飴をコンパクトに収めたものですから、ある種似た構造なのかもしれません。

危なっかしく見えますが……

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ノコギリザメとウツボが張り合っているように見えますが、本当に海の中でこの2種がかち合ったらウツボがあっさり勝つかもしれません。

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これは鴨川シーワールドに展示されていたノコギリザメです。ほっそりしていて、大人しく横たわっています。サメにノコギリという物騒なイメージに反して、実際にはエネルギーを温存して静かにしていることが多い深海魚なのです。

なお、ウツボも基本的には住処を脅かすものと獲物以外には積極的に手を出しません。いっぽうで別の危険も持っていることがあります。

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これはサンシャイン水族館の、その名もドクウウツボという種類のウツボです。しかしドクウツボは必ずしも毒を持っているというわけではなく、もちろん獲物に対して毒牙を使うわけでもありません。

このような海の生態系の上位に位置する魚には、餌となった様々な生き物を通じてシガトキシンなどの毒素が蓄積することがあります。これをシガテラ毒といって、食べると下痢。嘔吐、不整脈などの中毒を起こします。ムラサキイガイとオオシャコガイの問題で見た貝毒と似たようなものといえます。地域によってはウツボを食用とすることがありますが、シガテラ毒には注意する必要がありそうです。

第2エリア:虫とキノコにご用心

煮え湯を飲まされてはきましたが……

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第2エリアにはサソリとタランチュラ、あつ森のスローライフを何度となく毒で脅かしてきた節足動物の姿があります。いかにも恐ろしげではありますが、実はサソリもクモも大きいものほど毒も強いというわけではないのです。

伸ばすと20cmほどと最大級のダイオウサソリに刺されても腫れる程度で済むと言われているのに対して、その1/3程度のオブトサソリはヒトの死亡例もある最も強い毒を持つサソリです。

クモはというと、タランチュラ(オオツチグモ科のクモ)が噛んだときに注入する毒はヒトにとっては痛い程度で済むいっぽう、タランチュラがまき散らす細かい毛のほうが刺すような痛みを長引かせたり炎症を起こしたりと危険であるとされています。むしろ、国内でも外来種として知られるセアカゴケグモなど、強力な毒を持つクモはもっと小さなものなのです。

風流な光の裏で

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常設のホタルではありますが、彼らにも毒があるといったら驚くでしょうか。

真っ赤な模様があっていかにも目立ちそうなのですが、ホタルを捕食する生き物は限られているのです。赤い模様は毒があるという警告色として働いているようです。成虫だけでなく卵や幼虫まで光ることにも警告の意味があるのかもしれません。また中国に生息するイツウロコヤマカガシというヘビは、飛ばない種類のホタルを食べてその毒を蓄積し利用するということが近年明らかになりました。

罰ゲームには時代遅れ

第2・第3エリアにはまるで虫入りキャンディーのように見える琥珀が飾られています。虫入りキャンディーといえばジョークグッズ的なお菓子として作られているものです。

昆虫を食べるというのはゲテモノ趣味や罰ゲームと見られがちですが、昆虫食の現場では、このような扱いは戒められるべきもの、そう見られる場面を減らしていきたいものとされています。

昆虫食は国や地域によってはごく当たり前の文化として扱われてきたのですから、ただ昆虫を食べるというだけで騒いでは差別に当たる恐れもあります。また気候変動をはじめとする環境リスクにさらされていることに関連する・しないに関わらず、真面目な農産物や食材の選択肢として昆虫食が探求されています。

いきなり平気な顔をして舌鼓を打つのは難しいかもしれませんが、食とは元からデリケートな問題ですから、冷静に見ていきたいものです。

ケミカルソルジャー

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毒を使う身近な生き物といえばハチかもしれません。ハチの毒針は産卵管が変化したものです。働きバチは全員がメスで、卵を産むことがない代わりに毒針を持っているというわけです。多くのハチの毒針は自分を傷付けることなく繰り返し刺すことができます。これに対して、ミツバチの毒針は一度刺すと毒腺ごと相手の体に残るので、毒腺を失ったミツバチ自身は死んでしまいます。

アリはハチとは別の虫と認識されがちですが、実際にはハチの中の1グループです。実はハチと変わらない毒針を持っているアリも多いのですが、毒針のないアリも蟻酸という毒を噴出することができます。このように案外強力な武装をしているので、アリを警戒している小さな生き物も多いのです。

第3エリア:トリートを手にするのは誰だ

どっちに毒牙が?

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あっ、ジュラマイアがデイノニクスと始祖鳥に追い詰められています!……地域も時代もバラバラなんですけれどね。

毒というテーマの性質上、化石の出番が少ないのですが、古生物が毒を持っていたかどうかという研究も行われてはいます。

恐竜の中ではデイノニクスと始祖鳥の中間のような姿と大きさをしたシノルニトサウルスという恐竜が、毒牙を持っていたのではないかと言われていました。曰く、歯が鋭くて長く、その側面には溝があり、さらに歯の根元には凹みがあるので、羽毛や毛に覆われた獲物に長い歯を突き刺し、凹みに収まっていた毒腺から歯の溝を通じて毒を注入したのではないかというのです。実際、現在の毒ヘビの中にも似たような構造の毒牙を持つものがいるのです。

しかしその後、いずれの特徴も保存状態が原因の誤認であったり特別な特徴ではないようだということで、シノルニトサウルスに毒があるという説は否定されがちになりました。

ジュラマイアの属する哺乳類では毒を持つものはごく少数派ですが、ちょうどジュラマイアに姿や大きさが似ていて、しかも原始的な特徴を持つソレノドンという哺乳類が毒のある唾液を持っています。これを利用して狩りをするようです。ソレノドン科は恐竜のいた時代には現れていたのではないかと言われていましたが、最近の研究では恐竜が絶滅したしばらく後に現れたとされています。

毒との戦いは続く

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植物は動物に食べられるのを防ぐような物質を身に着けてきました。スズランも実はその一つで、スズランを活けた水を飲んだだけで命にかかわるとも言われています。

そんな植物の毒に対策してきたのは、ヒトとイヌどちらが刺激物に耐えるかというクイズで触れたヒトだけではなく、メガロケロスのような哺乳類やトリケラトプスのような恐竜など、様々な植物食動物も同じでした。有毒な植物を避ける感覚、ある程度の毒なら分解する能力などを発達させてきたのです。植物の毒を蓄積するチョウなどはその極端な例といえるでしょう。

植物の側も食べられるだけではなく、スズランのように毒を発達させたり、トウガラシのようにむしろ自らを食べた動物を利用したりと、食べられることに様々に対応してきたのです。

毒による対応までも薬味や香辛料として利用するヒトの登場は想定外だったでしょうね。それでも、栽培して増やしてもらえるならよかったのかもしれません……。


いかがだったでしょうか。様々な生き物が目に見えない様々な物質を利用し、あるいは様々な物質に対処して生きていることがお分かりいただけたかと思います。

「毒」というと恐ろし気で、なにかおどろおどろしい生き物だけが特別に扱うものというイメージもあったかもしれません。しかしヒトの体液などですら使いようによっては他の生き物にとって毒として働きうるものです。

ここでご紹介した毒を使う生き物や危険物に耐える生き物は、化学物質に関して工夫している生き物のほんのごく一部です。今回のクイズを通して、皆さんに生き物を見る新たな目がもたらされていたら幸いです。

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