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須磨水改修に当たり神戸市と業者は何を我々に「理解」させないといけないか

辛気臭いですがこれを書かずに今年は終われないのです。

須磨海浜水族園の再整備に当たりシャチのショーホールを導入し入園料を大幅に値上げするという例の計画が動き出しています。

スマスイ再整備 神戸市が優先交渉権者と本契約
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012982506.shtml?pg=amp

「市民に事業計画への理解を深めて」もらうという、色々なところですっかり聞き飽きたセリフです。問題を理解すべきなのは市のほうなのですが。

そういうことであれば、市が市民に何を「理解」させる必要があるのか。

つまり、文字通りの取捨選択を行おうとしている中で、「捨」されようとしている価値が失われることや「取」されようとしているもののリスクを解決することができる、あるいは帳消しにするほどの価値が「取」にあると、市はきちんと説明できなくてはならないはずです。

これらは多岐に渡るため、改修計画に反対する人々でも「自分がそれらのうちどこを問題とするのか」の整理を一旦置いていることがあるようです。

そこで今回は、この計画の問題を私が考える範囲で並べていこうと思います。

「取」のリスク

今回最大の「取」はなんといってもシャチです。今のところ「取」全体をシャチが象徴しているといってもよいでしょう。

そして地元の皆さんではなくインバウンド等の観光客を「取る」わけです。

このシャチと、観光客どちらにもリスクがあり、また価値に疑問があります。

まずはシャチのリスク。

もちろんシャチを飼育すること自体がすでに批判の的であることは論を待たないのですが、 ・すでに鴨川や名古屋港で飼育されているシャチを移送する ・まさかとは思うが新たに野生から導入する このどちらなのかで批判点は大きく異なります。

移送の場合、「シャチは野生で暮らすべきもの」という論調であると批判の矛先はむしろ今すでにシャチがいる別の館に向けるべきとなります。そちらではなく

「須磨水にシャチ飼育の片棒をかつがせるべきなのか」

「ただでさえ野生のような群れを形成できていない飼育下のシャチをますます分散させるのか」

「移送のストレスをかけてよいのか」

といった点を指摘するべきとなるでしょう。

もし野生からの導入である場合問題はあまりにも深刻であり、正直この記事で扱えるレベルではなくなるので割愛します。こっちではないことを願いたいものです。

さて、シャチの飼育と取り扱いの是非自体上記のようにあるわけですが、シャチの飼育ではなく「展示」という意味でのリスクも述べます。

福武さんの記事

にあるとおり今のところシャチの飼育は全然持続的ではありません。ゾウやゴリラが動物園で見られなくなるという、いわゆる「2030年問題」そのものであるわけです。

そのような非常に不安定な展示に、リニューアルの目玉という大きな意義を負担させるというのは大変な皮算用ではないでしょうか。

いくら夢のような計画を打ち出しても、それが10年ともつか分からないのです。数年後のオープンから10年ではなく、今から10年です。

シャチの飼育に対する倫理的呵責を抜きにしても、この計画が大変無謀であることは明らかです。

地元のかたではなく観光客を取るというリスクについて。

すでに指摘のツイートを見かけているのですが、須磨水の最寄り駅である須磨海浜公園駅は新神戸駅からやや離れており、その近辺は静かな住宅地です。

観光地としては京都水族館(京都駅から徒歩またはバスですぐ、近くには鉄道博物館も)や海遊館(須磨海浜公園駅よりは交通の便が良く周りは楽しいお店や飲食店でいっぱいの観光地)に比べて圧倒的に不利です。須磨海浜公園全体を大改造する計画のようではありますが。

大阪以東の国内からの観光客にとっては京都水族館か海遊館で充分となってしまうでしょう。私も(今の)須磨水に行けるというのはかなり特別なときです。

また、計画ではインバウンドをターゲットにするとのことなにですが、「ショー中心」で「インバウンドがターゲット」というのは、私が今非常に不安に思っている状況を呼び込みます。

「海外では御法度のショーをやっているところ」にわざわざやって来るというのは、「無法地帯だと非難しに来た輩」か、「本国で問題視されているものを見たがる無法者」ではないでしょうか。まあ「お行儀良くしていないといけない学びの場」とは思ってもらえないでしょう。

この観点から国内の他の水族館にもショーを控えてもらいたいと思っているのですが、どうも危ない火種を呼び込んでいるように思えます。

なお観光客を取ることに関しては入園料に対する批判が現在主軸となっているようで、私も改装後の入園料は完全に従来の須磨水の魅力を削ぐ設定であると考えています。「須磨海浜水族館をなくして全く異なる水族館を新たに建てるつもりだ」とすら感じさせるものです。

ただ、「従業員の皆様の生活を守り充実した就労を実現していただくのに必要な分」の値上げだけは認めてもらえればなと思っております。つまり現在の入園料が絶対に正しいとまでは考えていないのですが、園館の入場料と従業員の皆様の給与の関係に関してはここでは深く触れるのを避けます。

お読みの皆様にはただ、従業員の皆様のためになるほどほどの値上げであれば許容されるべきという見方もあるということを覚えていただければと。なにしろ従業員の皆様も神戸市民の仲間ですから。

「取」のメリットの疑問

先の項目がすでにメリットに対する疑問に近かったのですが、わざわざ分けたのはシャチのショーの面白みそのものに対する疑問を示したかったためです。

シャチのショーを行うことそのものには賛成するというかたもいて、「本当に感動するから」「野生のシャチや自然のことを教えてくれるから」という理由が多いようです。

しかし、私は「ショーそのものの素晴らしさ」と「野生や自然について伝えること」が上手く組み合わさるとは考えていないのです。

私自身は水族館に行っても初めての訪問でないのならショーを見ずに済ませてしまうことが多いくらいで、イルカショーの面白み自体に麻痺しているところがあります。

なので公正な判断かどうかはちょっと自信がないのですが、ある一つの水族館のイルカショーというのはよほど理由がなければ(油壺のように演目が常に変わるとか鴨川のベルーガのように何度見ても生き物自体がすごいとか、推し個体がいるとか)繰り返し見るようなものではないと考えています。

イルカショーというものは果たしてエンターテイメントが発達したこんにちにあっても戦っていけるものでしょうか。

よしんばショーが非常に優れていても、直接伝わるのは「ショーの魅力」であって「演じている生物種の魅力全体」ではないでしょう。ヴェン図を書いたとしたら両者が重なっているのはあくまで一部です。

海を背景にショーをすることで大海原の生き物達に思いを馳せることができるでしょうか。(私には広い海が背景になっているのはあまり繰り返しショーを見たくならない理由になるのですが)

しかしここで須磨水の立地を思い出してください。背景になる海は、瀬戸内海です。

狭い瀬戸内海にはシャチは定住していません。他の大型の鯨類も数を減らし、スナメリなどの小型鯨類が中心となっています。

須磨水でショーを行って自然の海とのつながりを提示するとしたら、せめてイルカ(欲を言えばスナメリ)をメインとするべきです。

そして、かつて瀬戸内海にも定住していたというニタリクジラなどの大型鯨類に関するむしろ博物館的な展示を行うべきでしょう。

こうしてショーそのものの価値に疑問を呈してはいますが、「来館者が求めているから仕方がない」という指摘も見られます。

しかし、それは企画者の責任を来館者に移し替えただけです。ショーをやるという企画者もショーを見たいという来館者も、私にはなにか「水族館とはそういうものだから」という発想にとらわれているように思えます。

言ってしまえば、何か大きな目玉の生き物を打ち出してその魅力ばかりアピールするというやり方自体、生きて変化する予想の付かないものを見せる施設として改めるべきだと考えています。

「勝手に作るから」「見たいって言うから」などという責任の押し付け合いではなく、館と来館者が協力して新しい価値を生み出していくべきではないでしょうか。これはただの理想論ではなく、実際に現在の水族館や動物園とは新しい価値や改善案が素早く生み出されている現場なのです。

ダイオウグソクムシのことを考えてみましょう。鳥羽水や竹水、葛西などがじっくりと面白みを発信し、やがてネット上の受け手がそれを受け入れたことで、深海生物の人気の一翼を担う存在にまでなりました。

逆に来館者が面白みに気付いて発信することでそれが広まり、水族館がそれに応えるという場合もこのところよく見られます。

そうしたやり取りや価値創造の場、コミュニティを作り上げることこそ、新しい水族館や動物園のあり方だと私は考えています。

「捨」の価値

今の須磨水はまさにそうした価値創造の場そのものです。

つまり今の須磨水のほうが改装計画より「先進的」なのです。

この点については私から多くを語る必要も気力もさほどありませんが、ニュースやブログの引用などして記事を終えたいと思います。

神戸・須磨海浜水族園で恒例 こたつでほっこり魚鑑賞
http://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2019/12/29/19459/

大阪市立自然史博物館友の会 2019年12月11日 12月15日の月例ハイキングは「須磨の浜と水族館」
http://blog.livedoor.jp/nature1955/archives/52246660.html

【貴重映像】ウミヘビーーム!!飼育員もビックリなウミヘビの珍しい行動が話題に
https://fundo.jp/225911

両前脚は人工ヒレ アカウミガメ「悠」死ぬ プロジェクトは絵本にも 神戸
https://this.kiji.is/557915642034127969?c=405943748183835745&s=t

公式Twitterのツイート
https://twitter.com/sumasui_kobe/status/1185388387940720640

オオウナギの寝相に関するツイート
https://twitter.com/sumasui_kobe/status/1200311127625752577

スマスイの「じぃ」世界最高記録を更新中
http://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2019/04/19/10516/

須磨海浜水族園民営化へ… #須磨海浜水族園でなくしてはいけない物
https://togetter.com/li/1115468

一体、こんなにあたたかな場所をなくす理由をどのように私達に「理解」させてくれるというのでしょうね。

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