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しそちょう島自然史博物館第5回特別展「ドキドキ毒々二択トリック!」展示解説 その2:解答編

本記事はこちらの出題編のクイズの解答です。

夢訪問機能を使わなくても出題編の記事をご覧になることでクイズがお楽しみいただけますので、よろしければぜひお楽しみください。

それではどちらが無毒なのか、どちらが危険に耐えるのか、解答にうつってみましょう。

第1エリア:海の百鬼夜行

第1問:ハリセンボン

割と有名なので簡単だったかもしれませんが、ミノカサゴの鰭には毒針が付いていて刺されると危険です。あえて食べると美味しいようですが、この毒には死亡例もありますので、さばくのに細心の注意が必要です。

いっぽうハリセンボンはフグの仲間といってもトラフグなどとは少し異なっていて、毒らしい毒は含んでいないとされています。ただし、はっきりしていないこともあるため卵巣などの部位は厚生労働省により食べてはいけない部位とされています。なお、ハリセンボンは沖縄では普通に食べられています。

第2問:オオシャコガイ

ムールガイとして普通に食べているムラサキイガイに毒があるなんて信じられないし恐ろしいかもしれませんが、食べられる貝であってもときとして毒を蓄積してしまうことがあります。これを貝毒と言います。

貝毒は渦鞭毛藻などの有毒なプランクトンを漉し取ることで貯まったもので、ムラサキイガイ以外にも様々な二枚貝で起こるので野外で貝を捕まえて食べることには慎重にならなくてはなりません。

オオシャコガイには特に目立った毒性はないようですが、乱獲が問題となっている絶滅危惧種であり、またそうでなくても成長にとても時間がかかる貴重な貝ですので、毒があるというのとは別の意味で食べてはいけない貝です。

第3問:カブトガニ

ミノカサゴ以上に有名ですし第1回特別展でも常設展示でも扱っているのですが、アカエイやその近縁種には尾の付け根に頑丈でよく刺さる毒針があります。意外と気付かずに踏んでしまう事故もあるようですので、海水浴場ではない浜辺では毒針のある生き物を踏まないようにきちんとした靴を履いて注意しなくてはなりません。

カブトガニはどちらかというとサソリやクモに近い生き物ですが目立った毒はありません。むしろ内毒素と呼ばれる毒素を検出するのに使える成分が血液に含まれていて、医療の世界では重用されています。

第4問:アオリイカ

ミノカサゴのように取り扱いに常に注意を要するものでも、ムラサキイガイのように食べるときに問題になるものでもないのですが、マダコは積極的に毒を使います。それは狩りのときに、獲物にカラストンビと呼ばれるクチバシ状のもので噛み付いてから毒のある唾液を注入して麻痺させるのです。

マダコ自身に噛まれることにも注意すべきなのですが、ヒョウモンダコをはじめとしてマダコよりはるかに強力な毒を持ったタコも存在します。野外でタコに出会ってもうかつに手を出すべきではないでしょう。

第2エリア:虫とキノコにご用心

第5問:クロゴキブリ

いくら嫌われていてもゴキブリ自身にはなんら危険な物質はありません。本来、そして現在もほとんどは、森の落ち葉の間に暮らしているごく普通の虫なのです。不衛生な環境で生活しているゴキブリにはなんらかの病原菌が付着している可能性はありますが、ゴキブリそのものには直接ヒトの危害となる要素はないのです。ただ不衛生さの指標にはなるでしょう。

トビズムカデなどのムカデの毒は、噛み付くときに口元の爪状の器官から注入するタンパク毒です。獲物を捕らえるときにも逆に自らが捕らえられたときの反撃にも使います。

第6問:ルリボシカミキリ

カメムシのにおいはごく弱いとはいえ毒なのです。野外の開放的な環境で使っても小さなアリなどへの反撃にはなるのですが、野外にない狭い密閉空間で刺激してにおいを出させるとカメムシ自身が倒れ、ときとして命を落としてしまうようです。

干している洗濯物などにカメムシに止まられると、匂いを発さないかどうか困ることがあるでしょう。刺激を受けない限りはカメムシはにおいを発さないので、カメムシの高いほうへの歩みをよく見て、紙の上などに誘導して取り除きましょう。

第7問:夜の鱗翅類

左側のヨナグニサン、よく街灯に集まっている「ガ」(残念ながら種類が特定できないのですが……)、ともに毒はない種類のガです。本当に毒針毛を持っているガはごく限られているのです。チャドクガやイラガなど身近な有毒のガには注意しましょう。

右に集まったアカエリトリバネアゲハ、ニシキオオツバメガ、オオカバマダラ、オオゴマダラはいずれも毒があるといえばあるのですが、人間にとっては特に注意すべきことはありません。これらは幼虫の頃に毒のある植物を食べて育ち、その毒を成虫になっても体内に蓄えているのです。

アカエリトリバネアゲハはウマノスズクサ科のアリストロキア酸、ニシキオオツバメガはトウダイグサ科・オオカバマダラはトウワタ・オオゴマダラはホウライカガミやホウライイケマのアルカロイドを蓄積します。

このような昆虫を食べた鳥は以後そのとても不味な昆虫を食べることはありません。このようにして毒を持っているチョウはむしろ毒を持っているガより多く、そのようなチョウに擬態して身を守るガもいるくらいです。

第8問:タマゴタケ(左のオレンジ色で白い模様のないキノコ)

解説の前に断わっておくべきなのですが、あえて野外でキノコを採取して食べるというハイリスクローリターンな行為をする必要は全くありません。食べられるキノコを判断するのは非常に難しく、毎年誤って中毒する人が後を絶ちません。その上、天然だから市販品より美味しいなどということは特になく、むしろ食べるために育てられた市販のキノコにかなわないことが多いともいいます。普通に暮らしているとキノコとの接点が食べることしかないから野外のキノコも食べるものと見なしてしまうのであって、観察する楽しみを見出したほうがかえって豊かな世界が開けそうです。

タマゴタケは野生のキノコの中では美味とされるいっぽう、かなり近縁なベニテングタケ(本来の姿と少し違いますが……)はイボテン酸などの毒を持っており、致命的というほどではないものの嘔吐や下痢などの症状を起こします。毒抜きをして食べる場合もあるようですが、真似をして無理に食べることもないでしょう。

見た目が鮮やかで近縁な2種類でも食用か有毒かが異なるということで、知識がなければ毒の有無が見分けられないことが分かると思います。「毒キノコとはこういうものだ」という一般的な見分け方は存在しませんので、よほど詳しくなければ毒キノコを見分けることはできないということになります。

さて、なぜキノコは毒を持っていたり持っていなかったりするのでしょう?キノコとして認知されている部分は菌類が胞子を飛ばすのに使う器官なので毒に守られていること自体は合理的なのですが、美味しく食べられてからようやく毒が働くのではいささか遅いですし、食べた動物が死に至る猛毒では「このキノコは食べないほうがいい」と覚えさせる効果が働きません。もしかしたら単にキノコの生理現象の副産物がたまたまヒトにとって危険な物質だっただけなのかもしれません。

第3エリア:トリートを手にするのは誰だ

第9問:ヤマドリヤシとユッカ

4種の観葉植物はサトイモ科とヤシ科に分けて並べられていました。モンステラとアンスリウムがサトイモ科、ヤマドリヤシとユッカがヤシ科です。どちらも食べ物に関係ある植物を含むグループとはいえ、食べ慣れていそうなサトイモ科のほうに毒があるのは意外に感じるでしょうか。

サトイモをはじめとしてタロイモと称される食用のサトイモ科は根茎に毒を含みませんが、サトイモを洗うと手がかゆくなることがあります。これはサトイモの茎などにはシュウ酸カルシウムという、尖った形の結晶の微粒子が含まれているためです。この場合手の皮膚に尖った結晶が刺さって痒くなるだけで済むのですが、他のサトイモ科をはじめいろいろな植物がもっと本格的にシュウ酸カルシウムを含んでいて、もし食べると口の中にひどい刺激を受け、呼吸困難になったり、内臓に深刻なダメージを受けて命にかかわります。

そのいっぽうではモンステラには食べることのできる実がなり、特にモンステラの中でもデリキオーサ種の名前は「美味」を意味します。ただしこの実でさえも即座に危険ではない程度のシュウ酸カルシウムを含んでいて、特に成熟していない部分を食べてしまうとやはり口の中に大変な痛みが生じてしまいます。

第10問:ティラピア

ティラピアとブルーギルはどちらも外来種として問題になっている熱帯魚ですが、ティラピアは40℃までのやや高温な水にも生息できるので、工場排水や温泉が流れ込む場所などで増えています。世界的にも、食用として盛んに養殖されているいっぽうで外来種として広く問題になっています。

第11問:ウグイ

一見ありふれた国産の淡水魚にしか見えないウグイですが、他の魚と比べてかなり酸性の強い水にも生息できるという特徴を持っています。これにより火山や人為的な原因で酸性になってしまい他の魚が暮らせない湖にも暮らすことができます。

pH値にすると4までの酸性に耐えるということで、炭酸水くらいの酸性なら平気なようです(本当に炭酸水そのものでは厳しいでしょうけれど)。どうということのなさそうな生き物にも意外な能力が秘められているものです。

第12問:ヒト

ペットに刺激の強いものを食べさせてはいけないとはよく言われますし、なにより皆さんが普段口にしているものに耐えるかどうかという問題なのですから簡単でしょう。

ヒトの肝臓は体格の割にとても大きく、様々な毒や刺激物、塩分などを処理することができます。これによりヒトは化学物質で身を守っている植物をはじめ、他の動物には食べられない色々なものを食べることができます。高い知能や器用な手も、何でも食べられる能力と関連して発達したのかもしれません。

第13問:ボタンインコ

ヒトが様々な化学物質を分解できるといっても耐えられないものもたくさんあることは、これまで様々な毒を見てきたことから明らかです。ヒトが苦しむようなものでも他の動物には全く平気ということもあり、そのひとつが唐辛子です。

ヒトにとってトウガラシの実が辛いのはカプサイシンという物質の作用で、哺乳類にはカプサイシンの受容体があるため辛く感じます。しかし鳥類には受容体がないので、トウガラシの実を辛く感じずに食べることができます。こうしてトウガラシの種は鳥の糞に混じって遠くまで運ばれ、生息地を広げることになります。(平気とはいっても飼っている小鳥にトウガラシの実をたくさん食べさせるのはやめておきましょう。)


さて、今回の展示の中にはクイズと無関係な生き物の姿もありました。これについても、コラム編としてまとめたいと思います。


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