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MAUVE |モーヴ派文学

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繊細、優美、静謐、清廉——モーヴ派文学蒐集室。
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記事一覧

金田アツ子&Belle des Poupee二人展|温室の風景|DAY 1

 19世紀アメリカ——ひとりの女性が大切に花々を育て、サンクチュアリとして慈しんだ温室。そこからひそやかに花ひらいた、朝露のごとき詩篇の数々。  紙片に遺された一篇一篇に、画家・金田アツ子さまとアクセサリーブランドBelle des Poupee様が出会い、それぞれの花を育て、新しい温室が生まれました。詩人との馨しい対話の軌跡をここにお届けいたします。  エミリー・ディキンソンの温室へ、ようこそ—— * * * * * 作家名金田アツ子 作品名|花が咲く 油彩・シ

CONCIERGE|モーヴ街への招待状

TextMistress Noohl とは、霧とリボンが運営する「オンライン上のストリート」。各noteを美術ギャラリーや図書館、アトリエや百貨店などの建物に見立て、多彩な文化発信と作品の展示販売を行うプロジェクトです。現在建物は全部で9つ。あちこち寄り道しながら、モーヴ街のお散歩をお楽しみください。 MAUVE STREETモーヴ街、午前11時——  ダロウェイ夫人の季節を迎えようとしている頃、note上にを開通。本日より、開通記念イベント《MAUVE NOUVEAU

巻頭詩&エッセイ|維月 楓|モーヴ街2周年に寄せて―生と美の可能性―

 かの人が曇り空の下で想いを遊ばせた土地で、私は灰色のコンクリートの上に生きて、文字を飛ばして生きる者として精進しており、菫色の詩集を開けたのですが、そこには日本の言葉と化けたその人の詩が踊っていました。今や海路でも渡れない遠くのあなたに、詩集を拓けばわたしは会うことができるのです。もはや後にした故郷の話に出てくる空に浮かぶチェシャ猫の姿のように、紙面に浮かぶ文字はなぜか眼光の形として心に射し込み、熱く燃える印象を付けられました。 *  霧とリボンさま主催のアートプロジェ

KAEDE|アイリーン・アドラーと変幻する女性たち――アイリーン、お勢、モリアーティとして――

TextKaede Itsuki Art Work|Fumiko Saburi  どうして人は「宿命の女」に魅了されるのか。ほっそりと締め上げたコルセットと美しく重なり合うレースのひだの下に隠れ、彼女の胸が自由に羽ばたいているのを感じるからだろうか。シャーロック・ホームズシリーズ「ボヘミアの醜聞」(1891)は、女性という性全体を圧倒するほどの美しさと知性を誇るアイリーン・アドラーなる人物が登場する。彼女の物語に特徴的なのは、常人より何千歩も先を行くホームズが唯一敗れた女性

新訳付作品集『Emily’s Herbarium』のご紹介|クリスマスに寄せて

Text|Kaede Itsuki  一段と冬の寒さも深まり、クリスマスソングの聞こえる季節となりました。クリスマスといえば、愛情に満ちた人々が輪になって集まるような暖かい気持ちと、どこか心の芯に凍てつく孤独に気付かされるような少しの寂しさを感じます。年の瀬の高揚感と終焉への身に沁みる冷たさという両極端の気持ちがせめぎあう季節。19世紀に生きたエミリー・ディキンソンの詩のなかにも同じように二つの感情が揺らぎ、さまよい歩くような詩が多くあります。  今秋に開催された「金

鳩山郁子|『羽ばたき Ein Marchen』—生への飛翔、あるいは落下—

Text: 嶋田青磁  羽ばたく——。  それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無いのだから。思い浮かべてみると、たしかに鳥や虫、羽ばたくものたちはみな、飛翔するための羽(翅)としなやかな筋肉が生れながらにそなわっている。  けれどもし、人間に羽ばたくことが可能であるとしたら?  鳩山郁子先生の『羽ばたき』はその可能性を、堀辰雄による原作から掬い取り、きらめく結晶を抽出するようにして、“漫画”という魔法でわたしたちに提示しているように思われる。

SEIJI|軽井沢滞在記《2》―堀辰雄のかげを求めて―

 浅間山の雄大な姿を臨む塩沢湖畔、軽井沢高原文庫内に、一件の山荘がひっそりと佇んでいました。1985年に旧軽井沢から移築された、堀辰雄の1412別荘です。  杉皮で覆われた素朴な造りの山荘は、ともすれば瞬く間に再び自然に飲み込まれてしまいそうな佇まいでした。一歩足を踏み入れると、テラスの板張りはまるで、生きた湿潤な木が横たわっているかのようです。このような建築は、「幸福の谷」で今も現役で使われている同志社大シーモアハウスにも見られたのですが、当時の別荘建築として主流だったの

エミリー・ディキンソン|気高きは、小さきもの、[55]

TextKaede Itsuki Emily Dickinson エミリー・ディキンソン|詩 維月 楓|訳 By Chivalries as tiny, A Blossom, or a Book, The seeds of smiles are planted--- Which blossom in the dark. 気高きは、小さきもの、 一本の花、一冊の本も、 ほほえみの種は宿され――― 暗闇において花開く。 エミリー・ディキンソン| Emily Elizab