マガジンのカバー画像

LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

41
モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
運営しているクリエイター

#ストリート

巻頭詩&エッセイ|維月 楓|モーヴ街2周年に寄せて―生と美の可能性―

 かの人が曇り空の下で想いを遊ばせた土地で、私は灰色のコンクリートの上に生きて、文字を飛ばして生きる者として精進しており、菫色の詩集を開けたのですが、そこには日本の言葉と化けたその人の詩が踊っていました。今や海路でも渡れない遠くのあなたに、詩集を拓けばわたしは会うことができるのです。もはや後にした故郷の話に出てくる空に浮かぶチェシャ猫の姿のように、紙面に浮かぶ文字はなぜか眼光の形として心に射し込み、熱く燃える印象を付けられました。 *  霧とリボンさま主催のアートプロジェ

Belle des Poupee|「美しき時代」のブティック

Text|維月 楓  ベル・エポック―美しき時代。新しさの誕生、都市文化の栄え、異国との接点、19世紀末から第一次世界大戦勃発までの華やかなパリを人はそう呼ぶ。  本企画展のテーマ「菫色×都市」を主題とし製作された、選りすぐりの逸品たちをご紹介いたします。作家であるBelle des Poupeeさまご自身によって撮影された写真とともに、ベル・エポック随一の百貨店のカタログを一緒に覗いてみましょう。  凛とした心の流れを感じる、紫の直線的な波の上で、モーヴ色のリボンが遊

維月 楓 & Du Vert au Violet|架空のアブサン酒《ULSTER》

TextKIRI to RIBBON  名探偵たちが去ったモーヴ街に、暗躍する菫色の影がふたつ——ひとつは、男装の麗人アイリーン・アドラーの影。  ホームズたちを翻弄し、鮮烈な印象を残して去ったTHE WOMANの華麗なる足跡を「架空のアブサン酒」に封印してお届け致します。 *  夜のベイカー街、男装したアイリーン・アドラーがホームズたちに声をかける「ボヘミアの醜聞」の印象的なシーンへ、維月 楓さまの翻訳と霧とリボンのポプリでオマージュを捧げます。  薔薇菫色のリボ

KAEDE|アイリーン・アドラーと変幻する女性たち――アイリーン、お勢、モリアーティとして――

TextKaede Itsuki Art Work|Fumiko Saburi  どうして人は「宿命の女」に魅了されるのか。ほっそりと締め上げたコルセットと美しく重なり合うレースのひだの下に隠れ、彼女の胸が自由に羽ばたいているのを感じるからだろうか。シャーロック・ホームズシリーズ「ボヘミアの醜聞」(1891)は、女性という性全体を圧倒するほどの美しさと知性を誇るアイリーン・アドラーなる人物が登場する。彼女の物語に特徴的なのは、常人より何千歩も先を行くホームズが唯一敗れた女性

Du Vert au Violet|ムエット・エッセイ

TextKIRI to RIBBON  モーヴ街・春のオンランイベント本編は昨日終了致しました。モーヴ街の各建物をお散歩して下さいました皆様に御礼申し上げます。作品販売は明日3月14日(日)23時〜。アブサン色に染まったウィンドウでぜひお買い物をお楽しみ下さい。 *  本日は、ここ「架空のアブサン酒専門店ドゥ・ヴェール・オ・ヴィオレ」より、別便をお届け致します。  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合した

Du Vert au Violet|架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ《モダンラベル》

TextKIRI to RIBBON  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合したコンセプト作品」のこと。アブサンの頽廃世界を様々な手法で表現してゆきます。  本記事でご紹介するのは、の「モダンラベル」バージョン3種。  先にご紹介した、画家・金田アツ子さまのロマンティックかつ硬派な植物画を配した同シリーズ(下写真)2種と共に、テイストの違いを楽しみながら、ご覧頂けましたら幸いです。  オリジナルのペーパー

Du Vert au Violet|架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ《植物画ラベル》

TextKIRI to RIBBON  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合したコンセプト作品」のこと。本イベントでは昨日までにと《小壜シリーズ》をご紹介してきました。 上写真架空のアブサン酒 上写真架空のアブサン酒 *  本日ご紹介するのは、画家・金田アツ子さまの香り高い植物画がラベルとカードに配された《架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ》全2種。オリジナルのペーパーサシェにポプリが封

ヴァージニア・ウルフ|青色と緑色

TextKaede Itsuki Blue and Green|Virginia Woolf 青色と緑色|ヴァージニア・ウルフ| GREEN The pointed fingers of glass hang downwards. The light slides down the glass, and drops a pool of green. All day long the ten fingers of the lustre drop green upon

CONCIERGE|アブサン宣言

TextMistress Noohl  アブサン色の風と共に、モーヴ街に春がやってきました。  アブサンの頽廃と清冽に敬愛を込めて、ここにを高らかに掲げたいと思います。詩に託した「アブサンの文法」をぜひご高覧下さい。  《アブサン宣言》はまず、前半の二節をモーヴ街図書館の司書・嶋田青磁さまが綴り、そののち後半の二節をもうひとりの司書・維月 楓さまが手掛け、完成しました。  二人の詩人が書簡のように交わした《アブサン宣言》を合図に、モーヴ街にアブサンの文法で調合されたリキュ

佐分利史子|ライラックの海のうえ[1368]

TextKIRI to RIBBON  英仏文学を題材としたカリグラフィ作品を発表する7番地・スクリプトリウム内。本イベント《モーヴ街のクリスマス》では2点の新作をお届け致します。  最初にご紹介するのは、アメリカの詩人エミリー・ディキンソン「ライラックの海の上[1368]」。モーヴ街図書館司書・維月 楓さまによるエミリーの息遣いに寄り添う翻訳と共にどうぞお楽しみ下さい。 *  印象的な初行「ライラックの海の上」が最初の大文字「O」に写され、聖夜を迎えようとする今

新訳付作品集『Emily’s Herbarium』のご紹介|クリスマスに寄せて

Text|Kaede Itsuki  一段と冬の寒さも深まり、クリスマスソングの聞こえる季節となりました。クリスマスといえば、愛情に満ちた人々が輪になって集まるような暖かい気持ちと、どこか心の芯に凍てつく孤独に気付かされるような少しの寂しさを感じます。年の瀬の高揚感と終焉への身に沁みる冷たさという両極端の気持ちがせめぎあう季節。19世紀に生きたエミリー・ディキンソンの詩のなかにも同じように二つの感情が揺らぎ、さまよい歩くような詩が多くあります。  今秋に開催された「金

佐分利史子・カリグラフィ作品|気高きは、小さきもの、[55]

 ここはカリグラファ佐分利史子の写字室。主に英米文学とフランス文学を題材にして制作したカリグラフィ作品を展示する小部屋です。  モーヴ街3番地の図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」とも連携し、ふたりの司書が題材となる文学作品の新訳と解説などを担当。文字で遺されてきた過去の文学に敬愛を込めて、カリグラフィと新訳で新しい息吹きを注いだ一篇をどうぞゆっくりご高覧下さい。 佐分利史子 Fumiko Saburi | カリグラファ →HP 伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作

エミリー・ディキンソン|気高きは、小さきもの、[55]

TextKaede Itsuki Emily Dickinson エミリー・ディキンソン|詩 維月 楓|訳 By Chivalries as tiny, A Blossom, or a Book, The seeds of smiles are planted--- Which blossom in the dark. 気高きは、小さきもの、 一本の花、一冊の本も、 ほほえみの種は宿され――― 暗闇において花開く。 エミリー・ディキンソン| Emily Elizab

CONCIERGE|モーヴ街への招待状

TextMistress Noohl とは、霧とリボンが運営する「オンライン上のストリート」。各noteを美術ギャラリーや図書館、アトリエや百貨店などの建物に見立て、多彩な文化発信と作品の展示販売を行うプロジェクトです。現在建物は全部で9つ。あちこち寄り道しながら、モーヴ街のお散歩をお楽しみください。 MAUVE STREETモーヴ街、午前11時——  ダロウェイ夫人の季節を迎えようとしている頃、note上にを開通。本日より、開通記念イベント《MAUVE NOUVEAU