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セミ男 片道15分のハラハラ

夏の日の車内

どんどん気温が上がってくると思い出す、
過去の記憶があります。

普段、電車に乗る機会の少ない田舎の生活では
電車での移動は稀です。

確か、その日は講習だったか、
仕事だったかは記憶が定かではありませんが、
電車で神戸へ向かっていた時のことです。
JRから阪急に乗り換え
片道15分の乗り継ぎ区間

丁度皆が半袖になり、む~とした外の空気と
ゆらゆらと湧き上がりそうな熱気の時期でした。
通勤ラッシュを少し過ぎた頃、
しかし椅子席は全て埋まっていたため
私は降りる駅での移動に備え、
進行方向に向くようにドアの傍に陣取りました。

頻繁にドアの開閉をするのは、
それと反対側のドアでしたので、
目的地の終点駅までは私が立っている側の
ドアが開くことはありませんでした。


乗車

一駅、そして一駅と通過するたびに、
それでも人は増えていきます。
ある駅で半袖姿のビジネスマンが私の立っている
一つ前のドアの横に陣取りました。
そして彼も進行方向に向かってポジションを
構えた時に、彼の背中が私の方に向きました。

外の景色を眺めていた私は、その目を一旦、
車内に戻し人の動きを様子見していると、
白シャツのはずの彼の背中が、
「あれ、なんか汚れてる?」それも結構目立つくらいに、
更に注意して目を凝らすと、「嫌、結構立体的やな?」
「汚れてる訳ではないんとちゃうか?」と

更に観察すると、何かの形なんです。
えっ、どっかで見たことあるぞ
そんなに視力が良くない私には
はっきりと、その形を認識できませんでしたが
移動する電車の中に指した一筋の光によって
その正体がはっきりと照らし出されたのでした。

それは!

「あっ、セミや!」そう、彼の背中に付いていたのは
汚れではなくセミだったんです。
大きく茶色いアブラゼミ、
全く動く訳でもなく、まるでブローチのように
大人しく引っ付いているだけ。

声を掛けて教えてあげたいけども、
7割ほど人が埋まり静まった電車の中の
ドア一つは結構な距離です。
変に声を掛けてセミが車内を羽ばたきだすと、
ちょっとしたパニックになることも予感し、
その場は少し静観しようと様子見していたのですが、

どうなる?

もう私の意識はそのことにしか向いていません。
そうこうしている間に又一駅進み、
さらに増える人、人、
やがて彼の後ろに陣取ることになった他の乗客たちも、
そのことに気付いたものの、
どうすれば良いのか戸惑っている様子で
皆がその彼の背中に注目を集めていました。

もう私の関心は「一体、どうなる?」でしかありません。
本当に忍耐強いセミやなあ。
いつ車内を飛び回るのか?ハラハラする展開の中、
又一駅進み、増える乗客、更に異様な光景に気付くも
皆同じようにどうすればいい?な展開

同伴出勤

それでも電車は無事に終点の駅に到着。
と同時に目の前のドアが開き
セミの飼い主である彼も降車、
大人しく彼の背中につかまり、同伴出勤して行くのでした。

その後、彼が無事に会社まで同伴出来たのかは不明ですが、
万が一、そのまま出社していたならば・・・
と思うと、その時の同僚のリアクションを想像しながら
私の妄想は膨らむばかりです。

セミ男

かつて中性的な男性を「フェミ男」と呼んでいたのにちなみ
私は彼を「セミ男」と名付けたのでした。
いや~、本当は標本のような物を
わざと背中に引っ付けてたんじゃあないの?
とも勘ぐったほど、見事に動かないセミの話でした。
セミも暑すぎて、たまには冷房の効いた電車に
乗りたかったのかもしれませんね?


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