見出し画像

放課後の教室が好きだった

枠から解き放たれる瞬間だ。

分刻みのスケジュールはもうない。みんなが帰っていくなか、選ばれた存在になったような優越感を感じながら、自分の席じゃない席に座って、いつも話せないような話をする。誰もいない教室から廊下に、僕らの声だけが響く。そんな終わって欲しくないような特別な時間が、放課後の教室にはあった。

放課後の生徒会室でも、閉店間際のフードコートでも、夜の大学のグラウンドでも、深夜の締め作業をしていたバイト先でも、同じことを思った。

誰もいない空間に、僕の好きな人だけがいる。何者にも縛られなくなるそんな時間が、昔からたまらなく好きだったのだ。

特別感からくる優越感。拘束を解かれた解放感。この世はすべて僕たちの思い通りになる気がしてくる。大人になった気もしたし、悪者になった気もした。

良識のある「大人」と良識のない「悪者」の感覚が共存しているなんて不思議だと思ったけれど、レールから脱している感覚が共通しているのだろうか。大きくレールを外れる勇気はないくせに好奇心が人一倍ある僕にとっては、なにも失わず気軽に冒険に出られる最高の時間だったのかもしれない。

会社でちょっと残業しながら、そんなことを考えた。

やあやあ、このフロアは僕のものだぞ。今夜だけ、いや、いまだけね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?