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感情の記録7 : 3/26 「青の炎」貴志祐介

私の今まで読んできた中で一番好きな本は貴志祐介の「新世界より」な訳だが、貴志祐介作品、なんだかんだでそれ以外を全然読んだことないんだよな(読み進めるのにかかる感情のコストが馬鹿でかいので)。
そんなこんなで一旦正座して読み始めたもの。
貴志祐介作品は「新世界より」「悪の教典」に続き3作目。

本当に良かった。大好きだった。私の一番好きな作家は貴志祐介だと言って良いかもしれない。
途中、曾根殺害当日から石岡を手にかける策を弄するまで、とにかく胃が痛くてこころを読み進めていた時のあの気持ちを思い出していた。作中にもこころは登場しているので、実際にある程度意識して書かれている部分はあると思われる。私の思考は何もかもが貴志祐介の手のひらの上であった。
倒叙小説という分類にあるようだが、青の炎が良かったからと言って倒叙小説にハマる気はしない。今まで読んだ数少ない貴志祐介作品、新世界よりと悪の教典においてもそうだが、貴志祐介はやるせなさや取り返しのつかない気持ち、そこに対する焦りを煽るのがとてもうまく、そのような心情描写の部分について私は惹かれているのだと思う。
解説にもあった通り、動機が愛する人のための利他的なものであり、主人公が弱さなど人間味のある部分も含めてリアリティのある好青年に描かれていることが本当に大きい。また、解説にもあった通り、青春小説として読んでいる自分が当然いる。
読後は、とにかく、誰かに助けて欲しいという気持ちでいっぱいだった。櫛森秀一は、青くて苦い一瞬の強い光だった。おそらく小説のはじめの方についてはどちらかというと不快感を持ってこの本に触れていたのだが、キャンバスを張り替えた言い訳あたりからクライマックスに至るまでが本当に完璧な運びすぎて、私の読んできた本の中で最高傑作、大好きな本として記憶に残った。
また、不快感を持って読んでいたというものの、その不快感とは、シンプルに私が事実描写(作成物の説明など)について不得手でテンポよく読み進められなかったというだけであり、流浪の月ですら感じてしまったような登場人物の行動・設定への疑問・矛盾に起因するものではなかった。前半に違和感を覚えるような引っ掛かりがなかったために、後半の展開の素晴らしさがそのまま作品への好意に直結している。私は本来、完全な悪として描かれる人間が出てくる創作があまり好きではないのだが、今回曽根と石岡がいながらこの本がとても好きになってしまったことで、私が苦手なのは完全な悪役ではなく、悪役という通常より難しい役回りであるが故にそのキャラ作りに失敗しているコンテンツなのだということが分かった。
読後のこの感覚を誰かと共有或いは言語に落とし込みたくて当作品のレビューを漁った結果、「殺人犯の家族として扱われる苦痛は想像出来たのに、自分がいなくなることによる周囲の人の悲しみは想像できなかったというところに、17歳という若さを感じる」という文言があった。これは私が「青くて苦い一瞬の強い光」を感じた理由の一つを全く綺麗に言語化してくれているものであり、秀逸な解説文として自分に取り込んだ。
一番辛いのは友子であるように思う。結果的に曾根は脅し通り秀一を殺してしまったとも取れる。遥香のこともあっただろうが、秀一を殺すという曾根の脅迫のために友子は司法への相談を躊躇っていたのに、結果的にそれが更に悪い結末を招いてしまった。
最後、ラストシーンに至る心情の描写まで秀一らしさが出ていて、完全に櫛森秀一という人間に気持ちを持っていかれてしまった。魅力的な人物であったことを、大門・紀子・ゲイツ・遥香が証明していて、ただしその証明は全てのことが終わった後に畳み掛けてくるかたちで行われるので、取り返しがつかないよー辛いよーの気持ちを大前提に抱えて秀一賛美を読むことになった。
後半の怒涛の紀子とのシーンは全てが本当にキラキラしていた。青春恋愛小説として完成度が高すぎる。
紀子とのラストシーンで、紀子の健気な励ましが、秀一が最期へ向かうための最後の一押しとなったことが、本当に切ない。←切ないとかいうしょうもない安直な言葉使って語ろうとしてる奴になっててキレ散らかしそう。
構成としては、一人を殺したことで2件目の殺人を犯し、警察の謎解きと答え合わせがあり、世界の美しさを見るというよくある話に見えなくもないのだが……、ご都合主義的な部分も基本的に無く、このよく見る構成によく覚える不快感(安直な薄っぺらい言葉で犯人が改心する心情描写の甘さへの不満)も全くなかった。
悪の教典読了時は、蓮実聖司が危ない橋を渡った結果、殺したかった3人のみが生き残っていたという痛烈な皮肉を心地良く感じたものだが、青の炎において、曾根が既に末期癌だったという事実は、ただただ救われない助けての感情を増幅させただけだった。
翌日の仕事に大変支障をきたした、良い読書だった。

櫛森秀一というか青の炎それ自体に恋をしてしまった感じがある

おしまい

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