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広至8~希望を捧げた渡辺麻友さんについて~

「仲間を信じられなければ命はない。仲間と1つにならなければ、ファンの皆に思いを届けられない」「そして、これから来る者に成功の前例を」
~「AKB0048 nextstage」14話 園智恵理~

渡辺麻友さんという女性は、15年にならんとするAKB48の歴史でも特筆すべきほど、高い水準の価値を届け続けた人だ。
届く距離の遠さよりも磨き上げた高品質を並べ続けることで、希望を紡いで捧げ続けた人だ。
彼女の素晴らしい美質は、挑戦的な試みであればあるほど安定を与えることができる点にあると思う。
彼女が参加した最後のシングルで、センターを務めた「11月のアンクレット」でも、その点は如何なく発揮されていた。

希望を叶える

私が見た僅かな範囲でも、AKBの実験的プロジェクトを力強く支えてきた大きな一翼が彼女だった。
AKB48というグループが大きくその立場を確立した後に、エネルギーの原動力を内側での研磨に求めた先鞭のような「声優選抜」では、彼女は他のメンバーより圧倒的なプレッシャーのかかる状況で尚、クオリティで選ばれたのは印象深い。
そして、不世出の映画監督・大林宣彦によるAKB48史上最長で幻想的かつ強烈な世界観の64分のMVでも、世代交代後の"第2章"が盛んに喧伝されてから改めてAKB48の価値確立に挑んだ「希望的リフレイン」でも、彼女はWセンターの1人としてその美しさを示し続けた。

透き通る声と姿

渡辺麻友さんをフィクションで描くときは、その高く、透き通った声こそ重要な要素となった。
先述の「声優選抜」で、彼女は12年にアニメ「AKB0048」にはW主演の一角として臨む。
第2話で主要キャラクターとして紹介される瞬間では、硬い凛とした少年のような声で宇宙船に潜む謎の少女として登場する園智恵理を鮮やかな輪郭で描いた。
第2期となる「nextstage」の幕開けでは、レジスタンスから囚われの身になり見せしめの不当な裁判にかけられる際、堂々と冒頭の高らかな宣言を告げ、最終話ではついにアイドルAKB0048の絶対的なセンターである「センターノヴァ」へ成長を遂げ、ステージのシーンでは表舞台に立つ者としての声を表現した。
一方、彼女は実写では、「なつぞら」の理想郷的な世界観にあって(本当にビジュアル面が現実では考えにくい美しい集団だった…)、メガネも似合う楚々とした百合の花のような姿が最も印象が強いだろうか。
また、単館映画が異例のヒットを記録した作品をミュージカルに翻案した「アメリ」でも主演を務め、訪れた知人からは好評を聞いた(私自身は確認できていない)。
他に、アクセスしやすい動画では、Amazonプライムの「恋工場」というショートドラマの1篇「私のボディガード」での姿が彼女らしい作品だろうか。

どこかの国の姫である渡辺麻友さんが政略結婚から逃げて、思いが密かに通じ合っているボディガードとの対話を描く。
正直に言えば、脚本も演出もそれほど質が高いとは思えない。
しかし、11分の短編の中で彼女が何度も口にする「嘘」、「嘘つき」というセリフは、秘めた思いを抱いたことがある男性の心をくすぐるものだろう。

前線で駆け抜けながら見せた多面性

彼女はやはり、パッケージでの姿が印象的ではあるが、実はそこにはとどまらない多面性があった。
また、ファンのコアな支持は、実はそうしたパッケージから離れた部分にもあった。
バラエティ番組の「AKBINGO!」などでは、自分の意志を貫いて、自由だったりイメージとはズレる強い口調が好まれてもいた。
声優選抜ユニット「NO NAME」での最初のシングル「希望について」のこの動画では、彼女が中心で歌い踊る姿とバラエティ的な闊達さの両面の渡辺麻友さんの姿がよく映っている。

最後に、彼女のソロ・プロジェクトを1つ紹介したい。
「ヒカルものたち」という曲だ。
G majorの曲なのに、サビは主音ではなくEの音が響く構造で、彼女の歌の終わりは長3度のBとなって、テクノ調のアレンジと共に独特の浮遊感を醸し出している。

彼女が加入直後から10年以上に渡り一貫して前線を駆け抜けたという偉業は、一旦振り返るには今がちょうど良い時期なのかもしれない。

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